985.本人不在
「あれ? 社長さん、あのマネージャーは?」
「ああ、彼かい。外回りみたいだね。最近特に忙しく動き回っているよ」
「その割には大した仕事取ってこないけれどね。私や祝の方がいい仕事持ってくるわよ?」
『私の場合はほら、生前のノウハウがあるし』
「案内人さんの取ってきた仕事もいい仕事よね」
「え? あはは、僕の場合は危険そうじゃない仕事を貰ってるだけですよ。その分安いし、大したギャラになりませんけど」
「ギャラはこちらで吟味するからいいのよ。欲しいのは知名度を稼げる堅実なモノね。出たが最後アダルト系堕ちなんていう仕事は絶対に取って来るべきじゃないわ。だから……あいつの仕事だけは受けないようにしているの」
「やっぱそっち系取って来るのか」
「どっから貰って来たのか、どう考えてもヤバいのだらけの仕事現場とか取ってくるのよ。通常のギャラじゃなく法外だったり、どっかの誕生日イベントへの参加だったり、激ヤバ心霊スポット撮影だったり、水着撮影とか言いながらカメラマンが黒い噂しかない奴も取って来てたわね。オガムさんを使い潰す気かと思える、というかそうとしか思えない仕事ばっかりよ」
うんざりだわ、と散紅さんが両手を挙げて肩を竦める。
ワザとじゃなくそればかり取って来てるのならマネージャーの才能がないだけなんだが、ワザとそういう仕事ばかり、となるとさすがに見逃せない。
今は仕事があるから問題ないが、こちらが取って来る仕事がない時にあいつの仕事だけが来た場合、最悪強制出撃もあり得る訳だ。
許せないよな? まかり間違ってオガムさんと一緒にハナコさんが向かうことになったと考えたら、もはや消すしか、選択肢なくなってしまう。
とはいえ、まずはソイツが今何をしてるかを調べるのが先か。
「そうだろうと思って、はい。GPS付けといたからこれであいつの居場所が分かるわ。ヒロキには動向調査お願いしたいの」
「動向調査、ねぇ。まぁいいか」
って、アカズさんとキマリスさん一緒に来るの?
「お姉様の邪魔になりそうだし、あの男薄気味悪いのよ」
「ボクは暇だからねー、こっち残るより少年君についてった方が面白そうなんだよね」
つまり、お前ら俺の心配は一切してねぇってことかよ。なんて非情な奴らなんだ!
「まぁいい、行ってくる」
他のメンバーは各自自分の仕事があるらしいので、俺たちは一足先に事務所を後にする。
GPSを頼りにオガムさんのマネージャーがいる場所へと向かってみれば……
ここ、確か有名なアイドル事務所じゃね?
警備員までいるじゃん。
これ、アポなし訪問は出来ない奴なのでは?
幽霊系メンバーなら壁から侵入して聞き耳立てれるだろうけど……
一応幽霊いるけどアカズさんは肉体持ちだしなぁ。
と、なると……スニーキングミッションしか、ねぇな。
「ほほぅ、スニーキングミッション!」
「潜入作戦ね! でもヒロキ、見つかったらマズくない?」
「俺の幸運力に賭けるさ」
「ちょっと、それもう行き当たりばったりじゃない!?」
「少年君少年君、これ見て! 三人分のミカン箱!」
「おー、それなら段ボール移動も出来そうだな、ってキマリスさん、そんなバレバレな潜入してどーすんだよ!?」
「まぁまぁ、とりあえずアイテムボックス入れといてよー。意外と使えるかも、だろー」
いや、さすがに使わんだろ。
バレる可能性が高い場所でそれに隠れるのは度胸有り過ぎる。
まぁ場所取る訳じゃないから入れとくけど。これ勝手に取っていいやつ?
「あそこで自由に取って良いって置いてあったよ」
あ、ほんとだ。自由に取って良いなら、三つくらい貰って置いてもいいか。
使うかどうかは別として。
「それで? どう侵入するの?」
「そうだなぁ。んー……とりあえず裏回ろう」
表側だとさすがに目立つし。
とりあえず遠回りで一周して入れそうな場所探そう。
意外とそういう場所を運営が作ってそうだし。
作ってそうだし、というか作っとけ。
裏へと回り込んでみる。
路地裏の一角がやたらと汚れている。
うーん。これは、大型ごみを足場にして移動する感じか?
真上を見上げてみると、窓が一つだけ空いていた。
おあつらえ向きというか、まるで誘っているようである。
やはり侵入イベントっぽいな。
俺は大型ごみを足場にしてゆっくり、確実に上っていく。
意外と安定してるなこのゴミの束。
アカズさん、ほら、手を。
ここ狭いから落ちないように気を付けて。
「少年君、おかしいなぁ、ボクには手を差し伸べてくれないのかい?」
「ここ、二人までならともかく三人目は狭すぎる。落下したくないからそこで待機してて。広めの場所見つけたら連絡するし」
「のけ者じゃん、酷くない!?」
キマリスさんは大げさだなぁ。全然酷くなんてないじゃないか。どうせ自力で来れるっしょ。




