977.嫌なら、辞めたらいいじゃない
「あ、あのー、さっきなんだか戦闘音が聞こえたんですが……」
恐る恐る、コンテナにいたおっさんたちがやって来る。
今回は全員で来たのか。五人? さっきのおっさんは管理長さんなのか。
「あー、なんかミミックが出て来たんで。あれ、ちょいと潰れちゃいましたけど、大丈夫っすかね?」
「あ、ああ、はい……」
「お、おい、あのミミック、箱ごと潰れてるぞ……」
「ど、どうやったらあんなぐちゃぐちゃに出来んだよ」
「ば、バケモノ……」
小声で話してるみたいだけどレベルが高いせいで俺の耳に丸聞こえなんだけど。
「他に何か?」
「い、いえ、問題ないなら、我々はこれで」
と、四人のおっさんたちが去っていく。
ん? 四人?
「そちらのおじさん、何か?」
「あ、ああ。その、君は、プレイヤーでいいのかな?」
「ええ、プレイヤーっすよ? あれ? もしかしておじさんも?」
「あ、ああ。そうなんだ」
「へー。おっさんアバターでプレイしてるのなかなかいないのに、珍しいっすね。基本小学生で大きくても中高生、たまに大学生くらいっしょ。成人男性、というかおっさんアバターはまず見かけませんよ?」
「そうなんだけどね、実年齢より離れるとちょっと現実との乖離が激しそうで」
「あー、そういう人たまにいるって聞きますね」
なんか知らんがオッサンはプレイヤーのようだ。
そのままなんとなしに会話を始めて二人話し合う。
プレイヤー同士なのにフェノメノンマスクもリテアさんも近づいてすら来ないので俺が対応することになったようだ。
俺の目的は既に手に入れたので他は皆に任せてお話を聞くことにする。
なるほど、始めたところがこの付近で、ゴミの山を見つけた、と。
え、書類書かないとダメなの? あー、管理長が頷いちゃったから俺らは問題ないのか。
まぁ相手がいいというなら知らなかったことにさせて貰おう。一週間以上待つとか面倒すぎる。
しかし、なんで知り合ったからって臨時職員してんですか。てか現実でも仕事に疲れてゴミの山で再び仕事ってどんだけ仕事好きなんだよ。
は? 辞めたい? だったらなんでしてんのさ?
いや、自分の都合優先でいいだろ、他人の都合とかいちいち気にしてたら潰れるって。
あれ? おかしいな。
途中から俺、このオッサンの人生相談してない?
そうそう、嫌なら辞めちまえよ仕事。俺も辞めたし。
金がない?
俺なんてほぼ無一文になってゲーム始めたぞ? 今は金有り余ってるし。
理由? チューバーデビューしたんだよ。え? チューバー知らない?
ほら、これヒロキンチューブ。
ほのぼの日常オンラインでの出来事を動画にして配信してんだ。
これが意外と儲かるんだって。まぁ俺の場合女性キャラが多いから固定ファンが勝手に投げ銭してくれるんだけどな。
え、同じことできそうにない?
オッサン、あんた唯一無二のチューバーやれるぜ?
そうそう、だってほら、ここはあんたしかいないゴミの山だぜ?
そうだよ、ここの配信すりゃいいのさ。
配信見てヤバいの来る? むしろくりゃいいじゃん。そういうのも映像に残して、末路まで。うん、放映しちゃえばやらかした場合どうなるかも分かっていいだろ?
最初の配信で諸注意伝えときゃ皆守ってくれるだろうし。
一週間待ちとか面倒だろうけど、オッサンゆったり作業派だろ?
チューブの使い方とか登録方法などできるだけ詳しく教えておく。
オッサン、苦労人っぽいし、ブラック企業の辛さはわかるからな。
羽ばたく時だぜオッサン、ここで、新しい人生初めちまえよ。
「あ、ありがとう。なんか、教えて貰ってばっかりで、そんな小さいのに……」
「いや、これアバターですからね」
イマイチ不安だなぁこの人。とりあえず運営さんに出来るだけ見て貰うように伝えておくか。
こういうのは上の方に丸投げしといた方が丸く収まるんだ。
「ヒロキ、そろそろ時間がいいくらいだぞ」
「あー、タツタさんのイベントもあるんだっけ。エルエさん、回収物のリストは?」
「すでに全て書きだし済み……一つ増えまシた」
おいそこの小悪魔、まだ懲りないのか! もう帰るっつってんのになに発掘して……お、おおぅ。英雄武器っすか、そっすか。
なんでこういう時に限って良いもの発掘してくれるかね? 怒るに怒れねぇ……
俺たちは時間になったので帰るとおっさんに伝え、リストを渡すとアイテムボックスから宇宙戦艦を取り出す。
さぁ、皆戻ろうぜ!
「あ、あの、ヒロキ君、その宇宙戦艦、私でも、手に入れられるでしょうか?」
「同じのは無理かもですけど、イベント次第では、ですね」
「そう、ですか……ありがとうございます。俄然やる気が湧いてきました!!」
オッサンもやる気に満ちた顔になったようで、とりあえず最初のコラボ放映分だけ撮って俺たちは軽く手を振って別れる。
頑張れよオッサン!




