97.幽霊嫌いを克服したい5
無縁仏の場所へとやってくると、鎧武者の幽霊やら麻服のおっさんやらの霊が襲いかかってくるようになった。
恐らく戦国時代辺りの霊だろう。
レベルは15前後。
そこまで危険な幽霊たちではなさそうだ。
俺とスレイさんは拳や蹴りで撃退。霊打を持っていないユウは塩を掛けてからの攻撃なのでワンテンポ遅い。
「クソ、マジで幽霊殴ってやがる。楽しそうだなヒロキ」
「幽霊相手に逃げ回るだけにならないからいいだろ? ハナコさんと肩並べて戦えるしな」
「はいはい、鬼火っ」
既にユウも幽霊を視認できるため、俺だけへの念話をやめていつも通りに話し始めたハナコさんたちも、姿を隠さなくてよくなったからか、なんだか楽しそうだ。
前回の闘いがホント余裕なくてギリギリだったからなぁ。この位の無双ステージの方が皆不安も無くてうれしいんだろう。
「あはははは、何こいつ等よっわ、私のハサミで一撃粉砕じゃない! ザーコザーコ、ひゃっはー! 汚物は裁断だぁーっ」
メリーさんがなんかはっちゃけてる。
ネネコさんがフォローしてくれてるみたいだから失態があっても挽回できそうだし、放置でいいだろう。
別の場所ではツチノコさんが稲荷さんと共同で幽霊達を撃破していっている。
「はー、テイムした仲間ってすげーな。プレイヤーが群れなくてもこいつらだけで普通に勝ててるじゃねーか」
「まぁね。でもプレイヤーの強みはスキルを多く覚えれて、状況に応じて付け替えれるってところだからさ。NPCキャラも一応スキルは覚えるみたいだけど、プレイヤーより覚える率が少ないみたいなんだ」
「一応デメリットもあるのか。あーしもなんかテイムしてみるかなぁ」
「テイム持ってないだろ」
「ん? なんだよヒロキ、知らねぇの? 隷属の首輪とか幽霊捕獲器とか使えばテイム出来るらしいぞ」
道具を使ったテイム方法か。
「それってハナコさん捕獲される可能性は?」
「すでに誰かにテイムされてる場合はその相手が死なない限りはテイム出来ないはずだ」
ん、それって不意打ち喰らって俺が死んだ場合復活するまでの間はハナコさんテイムされる可能性が出てくるってことか!?
「は、ハナコさん、今の話、本当っすか?」
「え? んーっとちょっと電話してみるね」
と、どこかに電話を始めるハナコさん。知り合いだからだろうか、なんか凄く親しそうな声で笑ってる。
うぅ、その笑顔羨ましい。なんで俺との会話で見せてくれないんですか? 畜生ッ!
「あ、ヒロキ、ごめんそっちにヤバいのが行っ……一撃ッ!?」
電話越しの誰かへの嫉妬から拳を間横に振り抜いたら何か弾けた。
幽霊が近づいていたらしい。まぁ結果オーライか。
「んー、さすがにちょっと飽きて来たわね。歯ごたえなさ過ぎだわ」
そりゃテケテケさんからしたらなぁ。
「い、い、い、イツマデーッ」
なんだ!?
不意に、嫌な声が響いた。
散開していた味方が即座に集まってくる。
「あいつだ!」
「ハナコさん、はまだ電話中だからテケテケさん、アレは何?」
「アレは……えーっと」
それは鳥だった。
人型大の大きさを持つ鳥。
鉤爪鋭い二つの三つ爪足に深い緑を基調とした気味の悪い羽色の鳥。
その顔だけは、人間の女性の顔をしていた。
「以津真天だ」
「知っているのか稲荷さん!?」
「うむ、太平記に記された妖怪じゃ。いつまでも放置された死体達の怨念が形を成した妖怪だといわれておる」
「いつまでも……いつまでもッ」
ばさり、怨みがましい顔で叫び、以津真天が翼を広げる。
「来るぞ!」
「いつまでもぉぉぉッ」
げ、速い!?
「ドルァッ!」
俺に向って突撃して来た以津真天。その速度に反応出来なかった俺が逃げるより速く、そして以津真天が無防備な俺の両肩を掴もうとするより速く。
ヨシキの飛び込みヤクザキックが以津真天の顔面を捉えた。
「ギエェェェェェッ!!?」
「ヨシキ!?」
「オルァ! なんかおもしれぇ不細工面がいるじゃねーか。俺が整形してやんぜゴルァ!」
「妖怪だっけ? 幽霊じゃないなら、参戦できるわよ!」
ヒバリも!?
角棒以て突撃して来たヒバリが仰け反った以津真天を打ち据える。
いや、さっきの聞いてた? こいつ、怨霊の集合体だって……いや、まぁ黙っとこう。
「はは、たかが鳥一匹じゃねーか。ビビらせやがってよぉ! ヒバリ、ヨシキ、タコんぞ!」
「「任せろ!!」」
う、うわぁ、エゲツねェ……
以津真天がなんか可哀想だ。
最後の方なんて俺の方に潤んだ瞳で見上げ「いつまで……」と嘆いていたのが印象に残った。
なんかいつまで殴るの、助けて。って言われた気がしたけど、俺じゃこいつら止められそうになかったから、とりあえず拝んでおきました。なむあみだー。




