974.触らぬ神に祟りなし
SIDE:とあるプレイヤー
ほのぼの日常オンライン。そのゲームでは基本子供姿で日常を送るのが、プレイヤーとしての普通の過ごし方である。
ただ、大人として日常を送ることも出来なくはないので、私は日々の疲れを取るため、と大人姿のままプレイをしていた。
ある時、掲示板に書かれていない場所を発見し、私は喜び勇んでガラクタの山へと飛びついた。
いらないモノが大量に捨てられた場所らしいが、探せば当然の如くお宝が沢山ある。
無我夢中で発掘した。
そして、ホクホク顔で帰ろうとした時、数人の人が私の元へやってきた。
ああ、ここも他のプレイヤーに見つかってしまったか、残念に思ったのもつかの間、なぜかヘルメットに作業着の彼らは、私の元へ辿り着くと、お怒り顔で私を両側から拘束。そのままどこかへと連れて行こうとしてきた。
訳が分からず困惑する私に、彼らは言うのだ、ここは国営管理地なので無断で侵入すると犯罪者になるのだ、と。
ましてここから何かを持ち帰るなど言語道断。
どうしてもというのならば、事務所にて手続きを済ませろ、と怒鳴り散らされたのである。
なるほど、楽に手に入る宝の山はなかったのだ。
ここ、夢の島と呼ばれるゴミの山は国が管理しているゴミ捨て場であるらしく、ゴミではあるが全て国の所有物扱いなのだそうだ。
無断で捕って行けばそりゃ犯罪者、即座にこの世界中に顔写真が出回り、NPCたちが敵に回ってしまうのだ。
恐ろしいトラップに引っかかりかけた私は、彼らが良い人だったおかげでなんとか犯罪者になることはなかった。
手に入れたアイテムを持ち帰るための許可や山に侵入するための許可を事後承諾ながら国やら何やらに報告するため、いくつもの書類に名前をしてサインをして拇印を押して、とややこしいことをさせられはしたが、おかげでアイテムも手に入ったし、何より、話ができるNPCたちという友人ができた。
その後、何度か夢の島に来た私は、臨時職員にならないか、と言われて、たまにこの夢の島の管理業務を手伝うことになったのである。
この日も、私は彼らと共にお茶を飲みながら暇な夢の島管理を行っていた。
すると、突然ゴォォっともの凄い音が響きだす。
なんだなんだ、と外へと出れば、夜でもないのに周囲が真っ暗。否、巨大なナニカが頭上を通過しているところで、もの凄い風圧でヘルメットが飛ばされてしまった。
呆然としている私たちの目の前で、ゴミの山山頂へと降り立っていく巨大な……宇宙船?
アレは空飛ぶ戦艦だ。どこかSFアニメなどで見たような形状の物体が、空よりガラクタの山へと降り立ったのである。
あるのか、あんな規模の戦艦が……
この世界、ゴミの山だけで満足してる場合じゃないな。あんな凄いのがあるのなら、出来るならば自分の手で……
ドキドキ、ワクワクが胸に沸き起こる。
だが、それだけで今回は終わらなかった。
戦艦がいきなり消え去り、ゴミの山の頂上から、人が空を飛んでこちらに向かってきたのである。
ひ、人型機械!? 空飛ぶ人造人間!?
驚く私たちの元へやってきた機械少女と小さな少年は、どうやらゴミの山からアイテムを発掘して帰りたいようだ。
本来なら私のように各種書類を書くべきなので、私たちが案内しなければならないのだが、あまりにも現実離れした光景に、我々は生返事しかできなかった。
そのうちに彼は念押しをして管理長から許可をもぎ取り、ゴミの山へと戻っていく。
無許可、ではなく書類などを書かずに管理長が許可してしまったから、という免罪符を得て彼らは発掘を始める。
はっと我に返った時には、すでに遅かった。
「い、今から書類を書いて貰いますか?」
「返事が来るまで数日、ここで隔離できると思うか?」
「な、なぁ、あの青い肌の、あれって、人じゃないよな?」
「角が人の形を模している……俺、聞いたことある、あれ、ティンダロスのモノだ。人間に憎悪しか持っていない化け物だ」
「てぃん? なんですそれ?」
そういうの、私知らないんですよね。
尋ねると、彼らは何とも言えない顔をする。
「いいかね、世の中には関わってはならない存在が居るんだ。いわば、アレは天災だ。ああ、そうだ。我々は天災に見舞われた。彼らが持っていったものだけ控えておこう。それ以外は一切触れなくていい。うん、君たちはここに居なさい、私は長として、代表者として行ってくる。もしもの時は、後を頼むよ」
妙に覚悟を決めた管理長が私たちを残してゴミの山へと一人分け入っていく。
その背中はNPCでありながら、歴戦の英雄のようにすら見えた。
下手に関われば、殺されるかもしれない、そんな生物がいる場所に、彼は今から足を踏み入れるのだ。
まして、持っていくものを控えさせてください、など不快に思われそうなことを言わなければならない。
私は、彼が無事戻ってくることだけを神に祈るのだった。




