969.滅びし水中都市
水深は徐々に深海へ。
光は届かなくなり、完全な黒が周囲を支配する。
たまにモニターに映るのは何かの影、あるいは自己発光を可能にした深海生物。
お、アレはメンダコじゃね?
あっちはクラゲかな?
うおぉ!? なんかの巨大なアギトが……って、船体ちょっと揺れたぞ。
「サメが食べようとしたみたいだね。装甲には傷一つ付けられなかったみたいだけどねん」
キマリスさんがエルエさんからの報告を教えてくれる。
あの、二人で連絡取り合わずに直でエルエさん報告してくれない?
二度手間じゃん。
「あー、少年君、ボクの仕事取るんじゃないよぉ!?」
え、このエルエさんからの報告告げるのお前の仕事だったの!?
「凄いな、深海までしっかりと作り込まれてるのか」
「あ、ほんとだ、海の底も見える……ほんとこのオンラインゲーム凄いわね」
AI使って本物そっくりにできるようかなり忠実に再現してるって話だしな。
でもこんな端っこの方まで忠実再現してるとなると、処理が重くなりすぎるのでは?
関係ない状態でも海の中で魚たちが生活してるんだろ?
えげつない処理を毎秒行ってるってことだよな?
「まさにもう一つの日常ね。これじゃあどっちが現実かわからなくなりそう」
「いや、さすがにこんな船に乗って深海にいる現実はちょっと」
俺もフェノメノンマスクに同意っす。
「アレかな? そろそろ目視で見えるらしいよ少年君。多分あの辺り」
キマリスさんの指がある方向を指し示す。
あ、船自体がそちらに船首を向けたからちょうど中央に見えるようになったな。
海底の一部に泡のようなものが大きく地面を覆っている。
バリア? いや、あの辺りだけ空気があるのか?
「このまま突っ込むって」
まぁそれが妥当だよね。
宇宙船ごとバリア内部へと突っ込む。
お、海洋から再び空気のある場所へと移ったな。
「下部カメラから見えるのは遺跡群だな。降りれそうな場所を探して一度降りた方がいいだろう」
「おー、まさに滅びた都市、アトランティスって感じが凄いな」
かなりの広間を見つけ、宇宙船を着陸させる。
えっと、この場合どうやって出ればいいんだ?
「潜水モード中ハ上甲板から出られマす」
エルエさんも船の操縦を止めて人型体から声を出してくる。
後はもうハッチ開いて外に出ればいいらしい。
「空気は普通に動ける感じ?」
「はい、大気組成は地上と同じデす。また、大気中危険物質は確認されてマせン」
都合良いなぁ。まさに俺らプレイヤーが探索するためのステージって感じだ。
んじゃま、とりあえず全員外に出ようか。宇宙船仕舞うけど問題ないよな。
俺たちは外へと出て、一旦海底に着地してから人数確認を終える。
メンバーはキマリスさん、エルエさん、レムさん、テインさん、スキュラさん、ツチノコ1号さん、リテアさん、フェノメノンマスク、だぬさん。うん。変化はないな。アホウドリとか持ち帰ってなくてよかった。
「つかヒロキ、これ午前中に探索終わるよな? 俺昼から仕事あるんだが」
だぬさん忙しいもんな。というかここでログアウトしたまま俺たちが海底脱出したら……一人取り残されるのか……ちょっと、やってみたいな。
「おい、今なんか変なこと思い浮かべなかったかヒロキ!?」
「HAHAHAなんのことやらわかりませんな」
だぬさんの追及に適当に答え、俺は周辺を見回す。
こりゃすげぇ。
まず空というか、海底の天井をドーム状の泡が覆い尽くしている。
これのおかげで内部に空気が留まっており、俺たちも普通に呼吸ができるようだ。
ただ、呼吸できるのはこの中の酸素がある時間帯のみ、さすがに何日もここにいると酸素使い切って酸欠で死ぬかもしれん。
海底の土が基本で、そこにレンガと思われる物質で作られた通路と建物が点在している。
この辺りはおそらく移動通路だろう。
俺から見て南側に都市の町部分があるようだ。
かなり広くて民家と思しき小型の正方体型の家がいくつも並んでいる。
北側には巨大な神殿、朽ちてところどころ破壊されているがかなり大きな神殿だった。
「多分ボス的なモノは神殿だろ。俺としては町中探索してからがいいんだけど」
「俺の時間は有限すぎるからな。午前中だけだ」
「んじゃ、午前中はここで探索、夜は他の場所で自由行動でいいんじゃね?」
「いや、どうやって?」
「選択肢でてるぞここ。つまり今回町探索行って、安全地帯で全員場所移動でウチに戻って次の日の朝探索、でどうだ?」
「言っとくが一日は現実の一日だからな、俺が一度ログアウトすると三日後の探索になるぞ」
「まぁ俺的には一日の中で二日分過ごして寝るから、まぁ二日後、かな」
「まぁそれも探索終わらなかったらだろ。とりあえず散開してみようぜ。区画区切って行こうじゃないか」
「あ、面白そうね。じゃあ私この列の探索するわ。後で見つけたモノ見せ合いましょ」
「ふっはっは、ならばボクはこの列行くぜぃ、少年君、勝負だ!」
「ほーぅ、勝ったら何かしてくれんの?」
「んー。じゃあキスしたげよう。魔王様のチッスだぜぇ、光栄だろぉ。へっへー」
「おー、聞いたかいテインさん。キマリスさん負けたら俺にディープキッスするってさ」
「ちょぉい!? 言ってないよぉ!?」
まぁ交渉の結果、無難に食事一杯奢りってことでカタがついた。
一番収穫物が多かった人の食事を少なかった人が奢るらしい。




