965.伝説の桃源郷
「おー、こりゃすげぇ」
「さすがに戦艦着陸はできなかったな」
「小型艇あるのね。ちょっと驚いたわ」
宇宙戦艦【千年帝国】内部に小型艇があってよかった。
それでも六人乗りの船なので結構大きいけどな。
宇宙船は空に対空させたまま、俺たちは少数でアスピドケロンの背中へと降り立ったのである。
もう何年も海に潜っていないようで、甲羅の上には木々が生い茂り、山まで出来ていた。
フジツボとかが付いてないので海の中には潜っていないことはわかったが、生き物なのでいつ海に潜り込むかわからない。
なので死ぬかもしれないことを了承したメンバーでやってきたのである。
俺、リテアさん、フェノメノンマスク、スキュラさん、そして操縦士としてテインさんが降り立った。
五人だけなのはこの島で何があるかわからない、特に一人二人増える可能性だってあるからである。
なぜかキマリスさんが俺が何かテイムしてくるだろうから一人開けた方がいいとか言い出したのだ。
すると他の面々もその可能性は高いね。とか納得しだす。
結果、一人分の空きを作ったまま降りてくることになったのである。
「ふーん。完全に陸地なんだ」
スキュラさんがぺったりと地面に降り立つ。
甲羅の上なんだけど、堆積物が積もって土と変わらなくなってんだよね。
しかも栄養が豊富なのか薄い堆積なのに木々が生い茂って互いの根をくっつけ合って甲羅の上で大地を形作っているのである。
「すごいな、桃の木か? 桃が成ってるぞ」
俺は近くにあった桃と思しき物体をもぎ取る。
鑑定すると……仙桃?
え、ナニコレヤバい。
説明からしてヤバい。三千年 に一度開花結実し、その実を食すると 不老不死 を得られると伝えられる桃。だってさ。
不老不死!? これ食べたらどうなっちまうんだ!?
と、とりあえず仙桃結構あるからアイテムボックスに入れとこう。とりあえず99個くらい。
「驚きだな、こんなところに桃源郷か?」
「不老不死だって、ちょっと興味あるけど食べるのは躊躇するよね。アイテムボックスにいれちゃお」
「だぬの奴にお土産持って帰ってやるか」
プレイヤー三人が揃って仙桃をアイテムボックスへと納めだし、その間にテインさんとスキュラさんが周辺を探索していく。
「なかなか面白い場所だな。昆虫も動物も気配がない」
「そりゃ亀の上だからな。しかし、亀の上にこれほどの植生があるとは、ランドタートル以上の大きさかもしれんな」
結局亀なのかテインさん。
「あの山、ちょっと登ってみたいなぁ」
「時間的に結構かかりそうだぞ?」
「敵とか出ないかしら?」
亀に寄生してるクリーチャーとかは出てきそうだけどな。
「とりあえずあの山の麓までは行ってみるか」
ひとまず小型艇をアイテムボックスへとしまって俺たちは歩き出す。
ほんとアイテムボックス便利過ぎるな。
これでナーフ入ったら暴動起きるくらいだぜ。
アスピドケロンの背中は湾曲こそしているものの、かなり平らで歩きやすい甲羅の上だった。
麓まで敵が出てくる気配もなく、ゆっくりとした探索が行えた。
こりゃほんとほのぼのとした冒険だな。
今までと比べると、ようやく題名通りの冒険が始まったような気がする。
ほのぼのとした冒険、本来はこれに憧れてこのゲーム始めるはずなんだよなぁ。
だからほとんどのプレイヤーがレベル10前後で毎日遊んでるはずなんだ。
決して俺らみたいに100レベル越えの猛者になるはずないんだ。
実際ほのぼのプレイヤーの内訳でバトルものに参加してるの半数以下らしいからな。
こっちにいると凄い賑わってるように見えるけど、皆ほのぼのとした日常を送る方を体験してることが多いんだ。
バトルスキルさえ取らなければ戦いになるようなことは起こらないらしいし、バトルなしほのぼの日常オンラインでは旧病院とか行っても心霊現象が起こる程度で戦いもないし、死亡もないらしい。
皆で肝試しして怖かったねー、程度で終わるそうだ。
俺も戦闘系スキル全部オフにしてしまえば向こうの戦闘なしサーバーで遊べるっちゃ遊べるんだよな。当然、俺は戦闘アリのままで行くつもりだけどな。ハナコさんと遊べる方が楽しいし。
「麓とうちゃーく」
「ありゃ、意外と大きくなさそうな山だな。中腹あたりは鳥のたまり場か?」
「そりゃま、亀の上にある山だしな。砂が積もったとかそういう山だろ」
「頂上、何があるんだろうね? イベント起こったりして」
可能性はあるよね。でもリテアさん、なんで俺を押し上げようとしてんですかね?
あれ? スキュラさんとフェノメノンマスクも俺を押し出し始めてるぞ!?
なんで俺を先頭にしようとするんだお前ら!?
「ああもう、分かった、分かったって。俺が山登ります!」
「それが一番落ち着くかぁ」
何が落ち着くだよ。何かあったらお前を肉盾にしてやっからなフェノメノンマスクめ!




