955.食事という名の死出の旅
ぼたりぼたり、椅子に座ったデスエさんから脂汗が滴り落ちる。
彼女の眼の前には黒紫色に変色したグラタンという名の冒涜的なナニカが鎮座している。
一口、ティリティさんが食べたんだけど、そのスプーンがグラタンが乗っていた部分だけ黒く変色している。
さすがにこれ、食べて大丈夫なのか?
ティリティさん以外食べちゃダメな奴じゃね?
「こんなの、人の食べ物じゃないわ。0点よ……」
「かもしれんな。でも決着を着けるには相手の料理を完食すること。そのうえで点数を付ける、だろ?」
闇のゲームによる罰ゲームで確定している以上。これを無視して料理勝負を終わらせることはできない。
デスエさんが勝利するためにはこの異物を完食し、意識を保った状態で点数を付けなければならないのだ。
「こ、これ、食べれるの?」
「食べただろ。ティリティさんが」
つまり、誰かが食べられるならそれは料理だ。
食事ではない、などとは言わせない。
たとえ人体が耐えられる食事でなくとも、だ。
恐る恐る、スプーンで掬う。
呪っと音を立ててスプーンが炭化する。
持ち上がったグラタンはなぜかぼこぼこと鼓動しており、生きているかのように奇声が聞こえてくる気がする。
「い、行くわ!」
覚悟を決め、一口。
噛まずに飲み込んだ。
「っぐ!!?」
次の瞬間、びくんっと仰け反ったデスエさん、喉を掻き毟りながら絶叫する。
見てるだけでヤバいんだけど!?
「があああああああああああああああああああああああ」
女性が上げちゃダメな悲鳴になっとる。
あ、泡噴出して目が血走ってる。これ、まさか悪霊にでもなって井戸に潜ったりする感じか!?
「おぼぉぉぉぉっ」
「吐くな! 吐いちゃだめだ。完食するんだろぉ!」
眼から鼻から謎の液が滝のように流れだす。
これは、劇物だ。すでに白目になってやがる。
そして、数秒。咆哮していたデスエさんがぷつんっと全ての力が抜け落ちたように止まった。
両手がだらんっと投げ出され、上を向いたまま白目の彼女は泡を吹いて停止した。
「こ、これ、死んだ?」
おそるおそる、覗くように確認するマイネさん。
確かに死んだようにしか見えないけど……
「っは!? あ、ひ、かひゅー、かひゅー……いき、てる?」
死んではなかったようだ。
急に復帰したデスエさんが0点の札を出す。
「こ、これで、私の勝ち、よね?」
「ああん、何言ってんだデスエさんよぉ。完食っつったろ?」
ちょっと刺激強すぎて忘れちゃったのかな?
デスエさんは俺が指さした、まだ二口分しか処理されていない冒涜的なナニカに視線を向ける。
全身をガタガタ震わせ俺を涙目で見て来た。
「む、無理……」
「ならデスエさんの敗北だな。俺に即死スキル教えて、二度とデスゲームできない体になってもらうしかねぇな」
「私からデスゲーム取ったら何もないわよぉっ」
なら、答えは決まってるよな?
もはや後に引くことはできない。
デスエさんには進むしか道はないのだ。
目の前の汚物よりまだ冒涜的な料理を完食し、俺を処刑するしか、彼女の理想的な生活はない。
「うう、あああああああああああああああああああっ」
結果、デスエさんはグラタンを勢い付けて掻きこんだ。
一気に決着を着ける。そのつもりだったのだろう。
全てを飲み干し、0点の札をあげようとして、上がらない。
土気色で必死に手を持ち上げようとするが。震える腕はそれ以上上がらなかった。
そして、冒涜的な料理による脅威が腹の内より牙を剥く。
「い、いや、死にたく、死にたくないっ!? 私は、まだ、まだぁぁぁぁがああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
うーわ、エクソ○ストだ。
これはヤバい、全部一気に食った弊害だ。致死量だったんだ。
おそらく一口一口なら生存許容量だったんだろうけど……
「これは、酷い……」
「いや、しかし生き残る方法もあったのに、それを選ばなかったのは彼女だ。自業自得、だよ」
再び電池が切れたように虚空を見上げたまま微動だにしなくなる。
ただ、先ほどとは違い、光の失われた瞳は、二度と光を取り戻すことはなかった。
「ん。この肉の死亡確認」
スパウさん、わざわざそれ言わなくていいから。
「人の死を弄ぶ酷い方でしたが、死ねば皆仏。貴女の来世に幸有らんことを、アーメン」
「あ、ルルルルーアさん私の前で祈りは……召されちゃうっ」
ルルルルーアさんが珍しく聖職者らしいことをした瞬間、光に包まれるシコメさん。
いや、また味方に作用してんじゃん!?
「はいはい、召されない召されない」
それを見たコトリさんが呪詛をまき散らしてシコメさんを現世に留まらせる。
せっかく連れて来たけど彼女らの活躍全然なかったな。
眼玉しゃぶりさん、デスエさんの目を取ろうとしない。死者の冒涜ダメ、絶対。




