947.がらくたより生まれしキミへ
「お、いたいたフェノメノンマスクー」
「ん? ああ、ヒロキさんたちか」
薬品部で白衣の男女と何かを見ていたフェノメノンマスクが俺たちに気付き片手をあげる。
何してんの?
「ああ、新薬の調合実験だ。ここは凄いな。液を作ればすぐ成分分析ができる。しかも密閉されてるから液漏れでバイオハザードになることもない」
なるような薬作ってんのかよ!?
「ちなみにこれは?」
「ああ。簡易グレネードを作ろうと思ってな。人間だけじゃなく魔物やクリーチャーにも効く唐辛子爆弾だ。実際には唐辛子ではなく辛み成分が入っただけの液体だ。空気に触れると一瞬で気化して周囲一帯に辛み成分をまき散らす。凄いぞ。スタングレネードの数十倍はキツいらしい」
「痛みだけで人は死ぬと思うんだ」
確か激辛チップス食べた奴が死んだって前聞いたことあるぞ。
つまり辛みは殺害に使えるということで暴徒鎮圧用としても限度を超えた辛みになると、大量虐殺兵器の仲間入りになるのである。
「ま、後は実戦するだけなんだが。見ろ、想定されるこの薬品の威力だ」
丸い人型棒人間が沢山いる場所に薬品を投げるシミュレーション動画を作ったようだ。
破裂した瞬間、密集した数千人単位の棒人間たちが一斉に倒れていく。
悶え続ける人型はまさに悪夢のようだ。
「うわぁ、これは食らいたくないなぁ」
「大惨事確定ゲコ」
「あれ? ねぇ、中央の棒人間痙攣してない?」
「ああ、アレは泡吹いてる想定だな」
想定はリアルよりだな……って、なんか痙攣収まったぞ?
「……臨終、でスね」
ちょっと待てぇ!? シミュレーションですでに死んでんじゃねぇか!
「む、少し多すぎたか? しかし前回の配合と1mgの違いだぞ?」
「ふむ、量をナノ単位で変えないといけないのかもしれませんね」
「うぐ、また面倒な……」
「いえ、この先は我々の仕事です。トライアンドエラーは科学者の特権ですからね」
「ふふ、見つけがいがありますね。死者が一人もおらず、かといって立ち上がってしまうモノもいないちょうどいい分量。フフフ。久しぶりに猛ってきました。ちょっとトイレに行ってきます」
なんか変な白衣の人が腰を屈めながらトイレに向かってたぞ。
「フェノメノンマスクさんどうする? 俺らはレムさん回収したら次のとこ行くけど」
「ああ。すまない。俺はもうしばらくここに居るよ。他にも調合したい組み合わせがあるんだ。こんな素晴らしい場所があると分かっていれば開始からすぐにでも入り浸ったものを!」
こいつもこいつで変わった性癖してんなぁ。
「んじゃ、適当に切り上げて帰れよー」
「ああ。大丈夫だ」
何が大丈夫か全くわからんが、がんばえー。
んじゃま、最後に残ったレムさん回収して帰るか。
さすがにレムさん残して帰る訳にもいかんしな。
俺たちは白衣の人に場所を聞き、廃材置き場へと向かう。
というか、廃材置き場っていうからどっかの倉庫かと思ったら、研究所の裏庭に打ち捨てられてんじゃん。山になってんぞコレ。レムさん用に置いといたとか言ってたけど、そんな量じゃねぇよ!
レムさんゴミの山に埋もれて楽しそうにしてるけど、これどう考えてもダメだろ。廃棄物処理しておけよ!
「レムさーん、そろそろ帰るぞー」
「きゅい? きゅー!」
あん? 嫌だぁ?
「きゅきゅーい」
これに勝ったら帰る?
「きゅー!」
ガラクタの山の頂上で、レムさんは両手を広げた。
呼応するようにレムさんの背後から、ガラクタを割り裂くようにせりだしてくる謎のシルエット。
腕と思しきガラクタを胸の前で組み、仁王立ちにて現れたのは、ガラクタを組み上げて作られた人型ロボット。
三メートル大のソイツへと、ぱたぱた羽を動かし空へ飛んだレムさんがパイ○ダーオン!
「きゅーい!!」
あ。あの野郎、鉄屑の城組み上げやがった!?
あんなの相手に勝てとかどうす……
「オルァ!!」
跳びかかってきた巨大ガラクタ生物。その名も塵塚怪王。え、マジで!?
なぜか妖怪化してんじゃんアレ!
普通にレイドボスじゃねえか!
そんな妖怪王に、ガシャンガシャンっと駆けつけて来た人型ロボが拳を握って殴りつけた。
「きゅいぃ!?」
「ひゃはは! 飛んだら死ぬなら飛ばなきゃ普通に扱えるよなぁこの機体はよぉ!」
お、おお、キョウヤ! 生きとったんかいワレェ!
「す、素晴らしい、これはまさか戦闘データが取れる!」
うわ、ASの後ろから研究員たちがわらわらやってきてデータ取りし始めた。
その機材どっから持ってきたんだよ!?
しかも騒ぎを聞きつけたアインシュタイゼン博士まで来てるし。
「おお、ヒロキ君、やはり君たちが来ると我々の研究が数百年ほど先に進むらしい!」
うるせぇ、トラブルメーカーで悪かったな畜生!




