938.好きな船に乗るが良い
「さて、皆。好きな船に乗るが良い」
俺は背後に無数の船が入るようにして両手を広げ、仲間たちに告げた。
いや、ほんとろくな船がねぇんだわ。
青いガレー船はどう考えても半魚人とか人魚とかの魚人が船員だし。
白い帆船と思った船は不気味な人型生物が乗ってる。ダニ人間とかいう生物らしい。
気色悪いし、なんか舌がストロー系だから寝てる間に何かしら吸われそうだ。
灰色の三段櫂船は船員どう考えても二足歩行の虫だよな? というか、アレってミ=ゴって奴では?
どう考えてもアレに乗るのは悪手だな。
さて、どれが一番マシだろう?
つか青いガレー船は本当にオリアブ島行くか?
なんか途中に水没都市あったし、そっち側に行く奴じゃね?
となると、ダニ人間が多い白い帆船が一番安全ということになるんだが……乗りたくねぇな。
あれなら黒いガレー船に乗った方がいい気がしてくる。
「やぁヒロキ君、いつだか振り」
俺たちがどれに乗るべきか困っていた時だった。
また出て来たよディスマン。お前も懲りないねぇ。
「おっと夢の守護者殿待ちたまえ。君たちは船に乗りたいんだろう? 交渉しないか? 今私を殺したところですぐに別の場所に出現するが、交渉すれば有利なことがあるかもしれないよ」
顔を見るなり殺しに掛かろうとした夢の守護者さんを牽制。
というか。今日も普通に一緒にいるけど、夢の守護者さん巡回行かなくていいの?
「貴様が交渉だと? 我に殺害対象から外せとでもいう気か?」
「いやいや、こちらが欲しいものをくれれば船を差し上げよう。私は現実世界の船を持ち込めるのでね」
「貴様、それはクリスタライザーを使って持ち込んだだけではないか!」
「はは、まぁ落ち着いてくれ」
なるほど、現実世界から持ち込み、か。
にしても、船、なぁ……これ、可能かな? いいこと思い付いちまったけど、どうだろう?
一応クリスタライザー使う訳じゃないから行けちゃうんじゃねぇかな。
「未知なるモノさんちょっと」
「ん? どうしたヒロキ……」
思いついたことを尋ねてみる。
可能なら一番安全だと思うんだ。
ただ、下手したら運営からナーフ入る可能性もあるから秘密裏に出来ればいいんだが……
「ふむ、船などに頼らずともビヤーキーを呼べばいいのでは?」
「テインさん。さすがに長距離過ぎやしません? ビヤーキーたちもお腹空くんだよ?」
「だったらティリティは何か意見はあるのか?」
「んー。さすがにないなぁ」
皆も考えてはくれてるけど、さすがに船は手に入らんよなぁ。
「私ならばクルーザーを出せますよ。代わりに欲しいのが精神防御系のアクセサリーなのです」
ドール討伐用か。でもその辺りのアクセサリーならすぐ手に入るんじゃ?
「私が欲しいのはオリアブ島側に存在するアクセサリーですね。ぜひ買ってきてください」
「それを現実世界に持ち込むのだろう、許すと思うか?」
「おや、ですが船が欲しいのでは? ダニ人間やミ=ゴの船にご一緒なさいますか? 致死率だけは高そうですが」
「むぅ……」
「どうする未知なるモノさん、今回は一旦保留で宿に戻るか?」
「そう、だな。明日なら別の船もいるかもしれんし、今日は一旦向かうのは諦めようか。コトリさんもこっち向かってるんだろ?」
「順当にテスト受けてればだけどね」
「なら今日一日ダイラス・リーンに居てもいいかもな。俺も一旦ダイラス・リーンの眼に向かって船借りれないか聞いてみるよ。幸い、向こうの上層部との繋がりも出来てるし」
「じゃあ俺も何かしらいい方法ないか考えとくよ」
「そうだな、じゃあ今日は一日自由行動にするか。と、いうわけでディスマン、悪いが今回の交渉は保留だ」
「む、ざんね」
あ。夢の守護者さん、交渉終わりとみるや即座にディスマンぶった切った。
容赦ないなぁ。というか、ディスマンと交渉すると夢の守護者さん敵に回りそうだな。
ちょっと気を付けよう。
彼らの前でディスマンと仲良くしてると一緒に切り捨てられそうだ。
「そういや天王星からの船とかって来ないの?」
「私に言っているのかい? さてどうだろうか? 私たち猫は月に移動後天王星まで跳んでいくのだが」
猫の行動力おかしくね?
そもそも地球の猫も月にはどうやって移動するんだよ。
人間もロケット無しじゃ移動すらできんというのに。
「レムさんとかドリームランド呼んで作ってもらうかなぁ?」
「レムさんだぞヒロキ、テストなんか受かると思うか?」
そもそも受けようとすらしない気がする。
結構自由人だしな。ま、その方向性は諦めよう。
誰にだって向き不向きがあるってことだ。
「ヒロキ、あそこの人みたいに船作るのは?」
アレ船か? カヤックみたいな船に一人のおっさんが乗ってオリアブ島向けて漕ぎだしていったんだけど、アレ絶対転覆するよな。無謀過ぎる。




