929.外道の矜持
「ぬあぁ!」
無数のマンホールが乱れ舞う。
マイネさん、容赦がねぇ。確実に俺を殺すつもりらしい。
しかも投げられたマンホールは一定時間の滞空後、こっちに戻って来る。
つまり前方のマイネさんと後方からの流れ弾を常に警戒しながら逃げないといけない。
こっちのレーザー攻撃はマンホールで弾かれるし。
ヌグ=ソスたちのレーザー銃すらも弾くとかなんなのあのマンホール。
マイネさん、実際対戦するとほんと意味不明に強いよな。
俺の連射攻撃が無駄内になる相手なんて早々いねえのに。つーか相性が悪すぎる。
つっても遠距離攻撃はこれしかないし、あとは肉弾戦しかねぇぞ。
魔法使うか?
でも魔法もあのマンホールに阻まれ届かないんだよな。
足止め系の魔法使うか?
氷魔法で足を縫い留めるとか?
うげ、無理矢理引きはがしやがった。
足が血まみれになってるのに気にしてねぇ!?
精神構造までバーサーカーかよ!?
こりゃ並みの足止めじゃ動きを止めることすらできねぇ。
こっちは無数のマンホールで接触即死亡の弾幕ゲームさせられてんのに、うわっ!?
あっぶね、また火炎放射してきやがった。
このままじゃ気力が尽きた瞬間俺の敗北が確定してしまう。
別にプリピュアのテイム権失うってなっても気にする程じゃねぇんだ。
なんか貰えるらしいものがやっぱ貰えなかったと理解するだけのことだし。
でもよ、やっぱ理不尽が降りかかってきて俺の貰える何かを奪っていくのは、許容できねぇよ。
理不尽には理不尽を。外道上等。敵対する奴には徹底的にわからせる。
俺に敵対することが無意味だと、やるべきじゃねぇと。
そのためならば、外道? 喜んでその称号を受け入れよう。
「もら、ったぁ!!」
ワザと見せた隙に、マイネさんは俺を直接押し潰さんと突撃。
真上に振り上げたマンホールを俺に振り下ろそうとしてくる。
当然のように、俺はそれを待っていた。
「っ!?」
びたり、俺を圧し潰そうとしていたマンホールが、それを前にして、止まる。
「ひ、卑怯者……」
「使えるものは全て使う、PVPってなそういうもんだろ? アリーヴェデルチ、マイネマイネ。なんてな」
キカンダーさんから貰った感謝状を盾にして、俺は無防備となったマイネさんの心臓を打ち抜いた。
―― マイネマイネのHPがなくなりました。ツチミカドヒロキの勝利とみなします。双方お疲れさまでした ――
キカンダーさんの戦闘を手伝った時に貰った俺用の感謝状だ。
本来マイネさんにとってはただの他人が貰った感謝状に過ぎない。そう、過ぎないはずだった。
しかし、それが正義の味方であるキカンダーさんが発行したことで、正義の味方グッズの一つとカウントされる。
マイネさんにとっての弱点。
正義の味方が生み出したグッズを自分の手で破壊することなどできない。
その葛藤を利用した。
卑怯というなかれ。これは俺がキカンダーさんから貰った俺のアイテムでしかないのだから。
防御の為にとっさにアイテムを出す。その行為に卑怯も何もない。
だから、卑怯だ外道だと言われるいわれなどないのだ。
ま、最悪ガッツ発動した場合は呪いのゲーム発動させてたんだけどな。
わざわざ相手の土俵に上がって負けるとか意味わからん事する必要なんてない。
自分の得意な場所から相手を徹底的に潰すのがプレイヤー同士の戦いというものよ。
土俵に持ち込んだ方が勝つのさ。はーっはっはっは。
PVP空間が消え去り、暗黒大魔王軍アジト内へと戻る。
おお、マイネさんが四つん這いになっておる。
「マジかよ、あのバーサーカーに勝っちまった」
「いや、でも、今の卑怯じゃね?」
「ちょっとヒロキさん、あの最後のアイテム、なんですか? マイネさん止まった気がするんですけど」
「あれ? あれは……まぁ秘密兵器、かな」
「ヒロキさん、最後の一撃、凄くカッコよかったよ!」
え、あ、うん。イエローさんありがと? 何でそんなキラッキラした目で見てくるの? なんか申し訳なさがこみあげてくるな。
「はぁ、とりあえずレッド、僕らはヒロキのところに厄介になるってことでいいのかな?」
「んー。まぁイエローがそれ以外嫌がりそうだし、別々のプレイヤーさんに所属っていうのもプリピュアとしてどうかと思うしね。んじゃ、ヒロキさん、テイミング、よろしく」
「テイミングとかいらんだろ」
「それもそっか」
―― 正義の味方:チームプリピュアをテイムしました。おいヒロキ、あんま調子のってっとダイスケと男子校保健室に放り込むぞ ――
やめてくださる!?
いや、俺調子には乗ってないから。ほら、天の声さん、俺自重、今回もマイネさんが襲い掛かってきたから対処しただけだから!




