914.ダイラス・リーン殺人事件3
「まぁ、いいか。アイツからもそこまで悪い奴ではないと言われたからな。下手な住民よりは信頼できそうだ」
「そりゃどうも」
未知なるモノさんの返しに、ふぅっと息を吐いた代表さん。気持ちを入れ替え真剣な顔で俺たちを見る。
「いいだろう。何が聞きたい?」
「事件の概要、発生件数、発生場所、事件時の状況、共通点、被害者を取り巻く環境と恨みを持つ誰かがいるかどうか。などなど聞けるもんは全部聞きたい」
「では、まず最初の事件発生からだ。約一週間ほど前。とある商人が殺害された。場所は深夜から早朝にかけての大通り。人の行き交う場所のため当初はすぐ犯人が見つかるかと思われたが、深夜見回りをしているはずのウチの組員は全員謎の居眠りで地面と抱擁してやがった」
ルビーの被害と重なってるのか、厄介な。
「信じがたいことに顔面に切り傷を受けて死亡していた。かなり深い切れ込みでそのまま出血多量によるショック死。周囲に飛び散った血はなく、倒れた場所に大量の血が溢れていた。商人自身は身に着けている衣類に乱れなく、資金も袋に入ったままだった。まぁその資金を空気を読まねぇ阿呆がかすめ取ってやがったせいで物取り扱いされてたがな。この前捕まって殺害してねぇということは分かってる」
「二人目の被害者は次の日だ。クソ面倒くさいことに路地裏の奥でくたばってやがった。外傷は同じ。顔面に切り傷。一撃でその場に倒れて絶命。取られたもんも、多分ねぇ」
「多分、あるか?」
「浮浪者共に群がられて奪われまくったんだよ。ったくあいつら捜査の邪魔しやがって」
つまり、共通点としては刃物で顔面辺りを攻撃する奴で、物取りではない。
「三人目は市民街、帰り際の主婦が襲われた。死因は首への一撃、刃物傷なのは一緒。四人目はレン人の商人だ。そのせいで奴らさっさと犯人見つけろとこっちにクレーム入れてきやがる」
いい迷惑だな。ダイラス・リーンの眼は関係ないだろうに。
そもそもルビーで眠らせるっていう足引っ張っといてよく言うよって話だな。
しかし、レン人も被害に遭ってるとなればまさに見境ないな。商人オンリーかと思えば主婦も襲われてるらしいから、辻斬り説が濃厚か。
「目撃者とかは?」
「いねぇな。とにかくここ一週間で七人死んでる。共通点は一人で居たことくらいだ。あとは切り傷だが、刃物というよりは深さから言って鎌みてぇな……そう、そこの夢の守護者だっけか。そいつの手みたいのにやられ……一応聞くが、お前さんじゃねぇよな?」
「悪いが私は今日来たばかりだ。ダイラス・リーンには初めて来たよ。それと、深さの割合からここに居るギーァでは無理なのだな?」
「おぅ。ならいい。まぁそうだな。そのちっこいのじゃさすがに顔面にあの切り傷はつかないだろ」
そうかな。ギーァ普通に人体細切れに出来るはずだぞ。
あ、いや、今言うとややこしくなるから黙っておこう。
しかし、なるほどなぁ。クリーチャー系も十分候補になる訳か。
「いないのか、そういう鎌持ったクリーチャーみたいなの?」
「ん? あー。この辺じゃ見たことはねぇな」
「グリム・リーパーとか出てきたりしねぇかな?」
「何すかそれ?」
「よくゲームで出てくる死神みたいな奴」
ありえなくはないが、この近辺でそんなの出てくるもんか?
「んー? あれ?」
「どうした案内人君?」
「いえ、なんか……確証がある訳じゃないですけど、これって犯罪場所、円心状に広がってないです? ほら、よくプロファイリングとかである犯人の所在地周辺での殺害、みたいな奴」
ダイラス・リーンの地図を見ながら、殺害現場の場所を指さしていく案内人君。
お、マジだ。
「驚いた。確かにこれは新情報だな。待てよ。そうなると中心は……」
「この辺りに犯人潜んでそうだな」
「けどよ。これ路地裏とかじゃなく家?」
「家というか、商店街の店だな。どういうこった? 商人が犯罪者?」
というよりは、この中心地は店というか店の中? あるいは、店の……上?
「情報としてはこのくらいだな。悪いんだけど土星の猫さんはニャルさんたちとレン人の商人たちから話を聞いてくれない?」
「うむ。同胞が関わっているのならば手伝うこともやぶさかではない」
「地球の猫さんは同胞に聞いてほしい。一応ウチのメンバー数人付けてくれ」
「了解した」
「私は?」
「天王星の猫さんは……とりあえず俺らと一緒に該当円心状の道を探索、かな。コトリさん。悪いけどまた護衛お願いしていい?」
「ええ。当然ですわ。旦那様の命も貞操も守ります!」
貞操に関してはハナコさんに捧げる予定なので守り過ぎなくていいんだぜ?
「じゃ、ニャルさんテインさんは土星の猫と」
「なら俺もそっち行くわ」
「未知なるモノさんも?」
「せっかくだしレン人たちを見るチャンスだろ? 月棲獣いるかもだし」
商人は残ってるだろうけどガレー船にいた月棲獣は殲滅してると思うんだ。




