910.猫と猫と猫
扉だらけの世界は相変わらず、ヤバい生物の宝庫である。
上空では風に乗りて進む者が数体、行き交っているし、地上の方ではおっさん顔の巨大蜘蛛とか、ガガンボとか、トンボとかが弱肉強食されている。
「一部、誰かの夢から漏れたモノもいる。あそこの形が崩れた男もその一つだ」
おっさん顔スライム、だと!? 気持ち悪!?
そんなおっさん顔スライムのすぐ隣にあった扉を開き、夢の守護者さんは迷いなく扉を潜る。
俺らも潜るか。
うわ、おっさんが俺に飛びかかってきた!?
呪滅結界にぶち当たってすっげぇ雄叫び上げながら消滅した。
これ、消して良かったんだろうか?
「夢の守護者さんや、あのスライムみたいなの、殺して大丈夫?」
「夢から漏れた悪夢や形のない夢だ。問題はない。ただ取り込まれたり憑りつかれると面倒なことになるからあまり近づかないように」
「向こうから近づいてきた場合は呪滅で消滅させますから、旦那様は気にせず夢の守護者さんの後を付いて行ってくださいまし」
コトリさんが頼もしすぎる。
今日はコトリさんフィーバーだな。
「あそこの扉を潜る。道中面倒なのがいるが、ヤれるか?」
「あの程度の存在であれば近づくことすら不可能です」
夢の守護者さんもコトリさんの実力を理解し始めたようで、邪魔な存在はお任せするようになってきた。
近づいてくる意味不明な生物は悉く呪滅され……あぁ、風に乗りて進む者さんが一体ぶち当たって消えた!?
「う、むぅ。尊い犠牲だ、許す」
許されるのか。じゃあいいか。
何度か扉を潜る。
四つくらいかな。扉を潜った先に、変な生物が待っていた。
「む? 何か用か?」
「夢の守護者か。このイデアに存在しえない特異な生命を感知したので、様子を見に来た」
それは六つ足と鋭いムチのような尻尾を持つ生物。
角の生えた化け物は、猫のような動きをしながら俺とコトリさんを見比べる。
「コレは安全か?」
「私が共に居る、安全ではないと?」
「全ての猫にとっての脅威でなければ問題はない」
「……あのー、夢の守護者さん、こちらの方は?」
「ん? 会うのは初めてか? 天王星の猫だ」
土星じゃなくて!?
「土星の猫ならそちらにいるだろう?」
そちら?
皮で出来た体を持つ天王星の猫に言われて振り向いた方向には、形容するのが難しいほどに何とも言えない生物がいた。
抽象芸術とでもいうべき体躯は様々な色が混じったアラベスク模様と透かし模様で出来た体躯と網状の尻尾を持つ猫と言えなくもない生物がいた。
形容がしずら過ぎて見れば見るほど気持ち悪さが脳を焼く。
これが、土星の猫、か。まさか気配も悟らせず近くにいるとは驚きだ。
「そこの男、やってくれたな」
「何の話で?」
「我々土星の猫は月棲獣と同盟を組んでいる。まさか彼らが激減することになるとは想定外だ。何をされたかはまだ分かってないが、お前が関わっていることだけは分かっている」
なんで!?
「あまりソレに関わるな人間。土星の猫共は我々の敵だ。話すだけ無駄だろう」
おおぅ? 今度は逆方向から声が!?
振り向けば、そこに居たのは我らが見覚えあり過ぎるペルシャ猫。
猫ってこんな気配なく近づいてこれるもんなの!?
「チッ、地球の猫まで来たか」
「貴様らが不穏な動きをしていると聞いては来ない訳にはいかんだろう。彼らは部外者。あまり我々の事情に巻き込まないでもらえないか?」
「いやー、結構部外というよりもずぶずぶな関係じゃないかな?」
「天王星の猫は黙っていてくれないか?」
「これは地球と土星の猫の戦いだ。他の奴らを巻き込む意味はないだろう」
「月棲獣と同盟を結んでいる時点で巻き込んでいるのは確実だろう。これだから土星の猫は……」
「ふん、何とでもいうがいい。しかし人間、このままならば我々は月棲獣に貴様が犯人であることを伝えねばならん。そうなれば彼らのこと、地の果てまで追ってきて貴様を確実に殺し尽くすだろう」
「案ずるな友よ。地球の猫が君を守ろう」
うーむ。守ってくれるのはありがたいのだが、まぁ隠してる方が面倒そうだし、天王星の猫がニタニタしてるのが気になる。まるで俺の選択次第でどちらに付こうか考えているかのようだ。
「おーけー。何が起こったか説明するよ」
「いいのか?」
夢の守護者さんが確認を取ってくる。
心配してくれているようだけど、ま、何とかなるさ。最悪宇宙船を常に呪殺結界で守る方法もあるっちゃあるし。
常にコトリさん連れて行けば月棲獣も手出しは出来まい。
なんならこっちから乗り込んで月の拠点纏めて滅殺するのもいいかもだし。
月棲獣の性格鬼畜らしいからな。
下手に放置するより敵対したなら徹底的に虐殺してしまう方が後顧の憂いを断つのにもいいかもしれん。
ドール討伐の前にプレイヤー総動員させて月棲獣との戦争起こしちまうか。
ま、とりあえず説明を聞いた土星の猫がどう選択するか次第だな。




