898.多眼村の神社
長老さんと会話できるようになった俺たちは、ひとまず村長の家の会議室へと通された。
実力的にこちらが上だというのも分かっているようで、兵士さんというか自警団たちには暴走するなよ、と釘を刺していた。
「神社、ですか?」
「そう、俺らの旅の目的はいくつかあって、シェリーコートの住みやすい泉の探索、行ったことのない神社の捜索、それと各地に存在する英雄伝承の地捜索なんだ。プラナリアンたちのいる泉に辿り着いたんだが、あそこはシェリーさん好みに合わないらしくて。プラナリアンに聞くとこっちにいるあんたたちに聞いたらどうだ、と言われてな。人間が来た時にちゃんとプラナリアンたちに口止めしといた方がいいぞ?」
「今、とても後悔しております。まさか彼らがそれほど口が軽いとは……」
ため息一つ。長老さんはしばし瞳を閉じ、考えを巡らせる。
「本来ならば伝えるべきではないのでしょう。かの英雄も人間により非業の死を遂げた者。しかしながら、ここで知っているのに黙っていたと言えばアブホース様の信者として名折れとなりましょう。それと神社に関してですが、我が多眼族は蚯蚓大明神を祀っている。場所は……」
おー。英雄伝承と神社が見つかったな。
意外と話が分かる相手でよかった。というかアブホースの落とし仔さんがいてくれたからこうして普通に会話できるんだよな。多分居なかったら戦闘になってただろうからコトリさんの呪詛で多眼族絶滅してたかも。
そうなると神社はともかく英雄伝承は聞けなかっただろうな。
「あ、そうだ。ついでに聞いていいか?」
「他にも何か? 話だけでよいならば問題なく」
「ああ、四大精霊って知ってる? ウンディーネとかシルフとか。そういう精霊の住処みたいな場所知らないか?」
「ふむ。精霊ですか。それでしたら蚯蚓大明神の社にノームが居ますぞ」
マジで!? ここ大当たりの村じゃねぇか! 落とし仔さんサマサマ。というかそれを召喚するきっかけとなったツチノコさんたちに拝んでおこう。
「おお、なんと神々しい拝み方。拝み慣れていないとこれほど綺麗な拝みはできますまい」
いやいや、ただ拝んでるだけなのに大げさだな。
ともかく、長老に案内を頼んでまずは近場の蚯蚓大明神とやらに連れて行ってもらう。
長老の家を出て、神社へと向かう。すでに通常の生活に戻った多眼族の人たちが俺たち見て何とも言えない顔をしてるけど、長老が気にしてないから何も言えないようだ。
「お。おお。掘っ立て小屋?」
「これ、現実世界の蚯蚓神社みたいなの」
何、蚯蚓神社マジであんの!? 聞いたことないんですが!?
「え? 長野にあるの、知らないの? 日本唯一の蚯蚓神社なの」
マジか!?
「蚯蚓を祀る、ですか。ここではドールはどういう扱いになるのでしょうね?」
「確かにのぅ、というか、ここの御朱印どうなるんじゃ?」
スタンプラリー、ここ一つしかない蚯蚓神社とかラリーになってねーじゃん。あ、蛇神社の扱いされとる。蛇神用のスタンプ押せるわここ。同じ胴しかないモノ同士だからか? 随分と酷い扱いだな。
「ちなみに、蛇と蚯蚓と言えば蚯蚓の歌と蛇の眼とかいう民話があったりするある」
レイレイさんがなのさんに負けてなるものかと知識披露してやがる。俺も何か蚯蚓知識披露した方がいいのだろうか?
下ネタ系しかないんだが?
とりあえずいつも通り神社にお参りする。
蛇神扱いだしツチノコさんたちもスキル覚えたかもしれないな。
「ノームはどこに居るんだ?」
「その辺りにおるぞ。基本面倒くさがりだから出てくることはないが、土壌豊かな場所であれば大体存在できておる。呼べば出てくるんじゃないかの?」
ならとりあえずディーネさん呼ぶか。
触媒となってる水筒の水に呼びかけディーネさんを召喚。
「うーぃ! マネージャーさんディーネに用事? 今撮影中なんだけど」
何の撮影? いかがわしい写真撮られてないよな? ああー、CD用のジャケットか。えー。CD出すの!?
「ふっふっふマネージャーさんがいなくともアイドル業は着々進んでいるんだよ。主に会社の人が主導してくれてるんだけどね。あと、祝先輩がアイドルの売り方を教えてくれるからいろんな媒体で名前売ってるのよ」
そりゃいいけどヤバそうなのは断れよ。アダルト系出演してましたとか笑えないからな。
「そんなの出る訳ないでしょーっ。あ、それより何の用?」
「ああ、ここにノームいるらしいぞ。確かディーネさん他の四大精霊に会うとスキル覚えたっしょ」
ディーネさんは連れてこなくてもその場で召喚できるのが強みだよな。
そして精霊同士なので相手がどこにいるかわかるらしい。
地面を叩いて起きろーっとしばらく声をかけていると、土が持ち上がって女性型を取る。
おお、この世界のノームは女性型か!
 




