893.完全開放
「……あれ? これってつまり、姦姦蛇螺さん結界に入れる必要以前に結界張る意味、なくなったのでは?」
気付いたかりんりんさん。
そう、呪物と化している蛇の頭はコトリさんに取り込まれた。
よってこの地の呪物は存在しなくなったのだ。
姦姦蛇螺さんは神社住まいするらしいので結界に閉じ込める意味もない。
つまり、結界を維持する理由が一切ないのである。
「あれ? 儂らの苦労って一体?」
さっきまで頑張って結界の綻び直していた稲荷さんたち。
その苦労はまさかの水泡に帰した。
うん、なんかごめん。事態は刻一刻と変化するものなんだ。
一瞬前に絶対必要でも一瞬後にはゴミ扱いされるようなもんなんだ。
「ま。まぁとりあえず、タヂさんの神社に行こうか」
「そ、それもそうあるな!」
「おぅ、おらも相撲したくて待ち遠しいぞ!」
ネネコさんは神前相撲で独り相撲してたらしいけど、その苦労無駄になったと分かってもタヂさんと相撲取れるってことでテンションは高い。
ツチノコさんたちは気にしてない様子なのでいいとして、実際に苦労して気落ちしているのは稲荷さんだけのようだ。お可哀想に。
「はぁ、仕方ないの。こればっかりはコトリの強化イベントだったと割り切るしかあるまい」
「そうしましょう。さっさとタヂさんの神社に向かって忘れてしまいましょう」
コトリさんが珍しく稲荷さんをフォローしている。
よほど可哀想だったらしい。
稲荷さん、結界補修、コトリさんが気の毒に思うほど頑張ってたんだなぁ。
あまりここに居過ぎていても稲荷さんがどんどん落ち込んでいきそうなので、早々にお暇させて貰い、タヂさんの元へと向かうことにする。
結界一つ分の補修時間を短縮したから予定よりは少し早い移動になるはずだ。
こっからタヂさんの神社に向かうのは徒歩だとキツいので、短縮移動させて貰う。
短縮移動ってやっぱ便利だよな。
一瞬で別の場所に移動できるし、パーティー丸ごと移動できるし。
ただ、道中に起こるかもしれなかったイベントが体験できなくなるのは悪手ではあるけれど。
「んお? おー、ヒロキじゃねぇか。んだ? どうした雁首揃えてよぉ」
「タヂさんお久ぁー。というかローリィさんマジで連れてくりゃよかった。普通に寝てたから放置してきたけどあの人が一番神社巡り必要じゃんな」
「今更ではないか?」
「また暇なときに連れてくればよろしいかと。面倒でしたら他のメンバーと勝手に連れて行きますよ」
「あー、それもありか。頼んじゃっていい?」
「はい、旦那様とご一緒できましたので私はしばらく満足です。明日にでもローリィさんを無理矢理引き連れ適当な神社を回ってきましょう」
んじゃローリィさんはコトリさんにお任せしよう。
「ターボババァでも呼んで運んで貰えば長距離移動も可能のようですし」
お婆さんを荷運びに使うなよ。
「タヂ、相撲取りに来たぞ! 見ろ、大関だ!」
「はー、化粧回しだけぁいっちょ前に揃えやがったか」
「幾多の強敵を経ておらは強く成ったぞー!」
「まぁ約束だしなぁ。強く成ったならその力、見てやろうじゃねぇか」
んじゃま、俺たちはあそこでゆったりしてようぜ。しばらくネネコさん挑戦しまくるだろうし。
あ、そこの巫女さ……マッチョ巫女ぉ!? 世紀末覇者か何かですか?
「ただの巫女だが? 何か用か?」
「あ、はい、神社巡りようのスタンプラリー用紙とか、あります?」
「ああ、アレか。少し待たれよ」
声がどう贔屓目に見ても漢らし過ぎる。いや、漢女だ。
タヂさんと交流していく過程で漢女になってしまったんだろう。
歩き方も女性というよりもどっかの暗殺拳継承者の動きだし。
唐突に指先一つ突き刺してきても全然不思議じゃないぞあの巫女。
前回タヂさんとこ来た時は見かけなかったはずだが?
やはりアレか。スタンプラリー始まったことで新しく出現した巫女さんか。
少し待っていると、漢女が用紙を持ってやってきた。
すでにここの御朱印は押してくれているらしい。気配りもできるのか。
おっとこまえ過ぎる。
「ここの用紙は筋肉系神社を巡るものだ。対応神社は武御雷やタケミナカタ、素戔嗚尊などを祀る神社になる。健闘を祈る」
うす。
思わず気合の入るおっさ、いえお姉さんだった。
あとさりげなく長く居座ると思われたようで、お茶を人数分用意して去って行った。
本当に、出来る巫女さんだ。容姿さえもうちょっと可愛いか綺麗系だったらテイムされない? って引き抜いてたところである。
さすがに顔の彫が深すぎる漢女さんはお許しください。
「ふぬぅ!? やるようになったな、ネネコ!」
「ぐぬぅぅぅ、やはりタヂは強すぎるっ、だが、まぁけぇるぅかあぁぁぁ!!」
すっげ、真ん中で組み合ったまま一切動いてねぇや。全力で力入れてるみたいだけど、タヂさんが拮抗させているらしい。こりゃ意外と一勝負だけで長くかかるかもしれんな。




