891.箱物結界
姦姦蛇螺さんが武器を取りに向かってしばし、慌てたようにりんりんさんたちが俺たちの元へと駆けつけて来た。
境内の階段に座っていた俺たちはその慌てた様子に小首をかしげて見守る。
「ひ、ヒロキさん大変大変大変――――っ!!」
「あぁん?」
「さ、さささ、さっき凄いの、凄いのと出会っちゃった!」
「あれは無理ね! 無理ある無理ある、絶対無理ある!」
「攻撃しようとしたけど睨まれただけで竦んだの。あれはヤバいの」
何の話?
「なんかヤベェ外の神でもでたんかー?」
「へ、蛇、蛇の化け物!」
「多分姦姦蛇螺ある! 結界の外出てるある!」
「なのなのなの!」
なのさん、興奮しすぎて訳の分からない言葉になっている。それ、何て言ってるの?
「姦姦蛇螺だよヒロキさん! どうしよう、封印に向かったのに外に出られてたらどうしようもないよ!」
「あー、まぁいいんじゃね。姦姦蛇螺さんも外の世界楽しみたいんだろ」
「ダメでしょ!? だって邪神だよ、蛇だよ、人呪っちゃうんだよ!?」
「大量虐殺なの!」
「私たちも何もできず呪われるある!?」
それは無いと思うけどなぁ。
姦姦蛇螺さん結構楽しそうな人だし。多少のジョークも許せるお姉さんだったし。
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一方その頃、当の姦姦蛇螺さんはといえば。
「よし、残っておるのはここだけじゃ」
「まさか本当に結界に綻びが出来ているとは」
「しゃー?」
「しかも複数だったな。おらの神前相撲どうだった?」
「アレのおかげで呪詛払いも完璧じゃ。コトリも助かったぞ」
「私は別に、呪詛取り込んでただけですし」
稲荷さんたちが結界の綻び直しに奔走していたまさにその頃、ずるりずるりと蛇の体を這いずらせ、彼女たちの背後へと忍び寄る。
「おや、巫女ちゃんじゃないか。綻び直しかい、大変だねぇ」
「え?」
「あ、ちょっとごめんよ、アレがこの中にあるんだよ、もうちょっと結界直し待ってくれない?」
そう告げて、呆然とする稲荷さんたちの傍を通り抜けて結界内へと身を投じていく姦姦蛇螺。
そのまましばし、目的のモノを持ち出し、まだ綻んだままの結界からぬっと出てくる。
「あったあった。これだよこれ。んじゃ、結界閉じちゃって」
「え、え?」
じゃあ頑張ってねぇーっと姦姦蛇螺は彼らの元を立ち去るのだった。
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「ま。大丈夫じゃね?」
どうせ姦姦蛇螺さんのことだしりんりんさんたちは敵認識すらされなかったんだろう。実力が違いすぎて。
あの蛇神、おそらく稲荷さんとか神系、あとコトリさんくらいじゃないとまともな戦いにならないと思う。
「おーいヒロキ君、これこれ、多分これのことじゃないか?」
ずるずるっと大蛇が這い出てきて、鳥居に差し掛かると人型へと化生して戻ってくる姦姦蛇螺さん。
それを見て固まるりんりんさん、レイレイさん、なのさん。
「なんですソレ?」
「如意宝珠とかいう奴だ。神格化したら知らないうちに持っていてな。これも多分英雄武器とかそんなものではないか?」
ないか? とか言われても俺には判別付かんぞ。
えーっと鑑定は? 名前は如意宝珠またの名をチンター……おっふ。何て名前、いや、チンターが知恵を表して珠をマニというのか。そうか、うん。別に深い意味はないんだ、そういう名前だってだけだな、うん。
「何で持ってんの?」
「さぁ?」
「それは神格を持つ者が手に入れる宝珠じゃ。意のままに願いを叶える珠じゃな」
答えは別の場所からもたらされた。
というか、鳥居の外から稲荷さんたちが戻ってきた。
なんとも疲れた顔をして戻ってきているけど、結界の修復、そんな大変だったのか?
「なぜ持っているかに関してじゃが。おそらく姦姦蛇螺を神格化したせいで龍神に進化したのじゃな。あ奴ら、天に昇り宝珠を手に取り下界へ降りてくるというし」
「ふーん。これ三つあるんだけど?」
おお、確かに赤、青、金の宝珠持ってるね。というか今胸元からだしませんでした?
「赤い宝珠は、力の象徴じゃな。青色は冷静さを高める効果がある。金色の宝珠は豊かさや成功。要するに億万長者の象徴。というぞ。ちなみに稲荷としても豊穣の象徴として持っているのが基本の珠なのじゃ」
マジで? 稲荷さん持ってるの見たことないぞ?
「そりゃ儂は神社の中に奉納しておるからな」
そんなとこ置いてたら巫女さんたちが力奪ったりしねぇ?
まぁさすがにそれはないか。
「それよりヒロキ! 結界の綻び直したのに姦姦蛇螺が外におるんじゃけど!?」
「綻びから出てコンビニとか行ってるらしいよ?」
「はーげんなんとかが美味くてのぅ」
高級アイス食ってんのかよ蛇神さん……




