884.信じるか、信じないか
「ドール討伐?」
「うむ。知っているかね。この世界は今ドールに侵略されようとしているのですよ」
まぁイベントもうすぐだからなぁ。そろそろ準備終える段階になるはずなんだけど、やることがあり過ぎてまだまだ武器が足らない。
「ドール討伐の為にクリスタライザーを使ってるのか?」
「ええ。夢の国の住人でなければ操られかねません」
……うん?
「彼らは生物に憑依できる能力を持ち、取り憑かれた生物は非常に敵愾心が強くなって攻撃的な性格に豹変し、時に出会った相手を殺害してしまう事もある」
え、あの蚯蚓憑依してくるの!?
いや、でも勉強した感じじゃそんな能力なかったはずだぞ。
「いやいや、あいつら憑依能力ないだろ? 地面に潜って近づく奴丸のみにするくらいじゃね?」
「はい? ドールですよ? 何の話をしてるんです? 地面に潜るわけないでしょう?」
「そっちこそドールの話だよな? あの蚯蚓、確かに透明らしいけど憑依能力なんてないだろ?」
「蚯蚓? 外見は黒い四本足の動物でしょう」
……
…………
……………………
「「ドールの話?」」
なんで話が噛み合わないんだ? 同じドールの話だよな?
「あるじ、意見ある」
「アブホースの落とし仔さん。なんでしょう?」
しかし、俺とディスマンの話の食い違いは、彼女のおかげで解決するのだった。
「ドール、二種いる。一つは異次元の存在が放出する未知のエネルギーから誕生したとされる新たな形態の細胞生命体。宿主から別の宿主に移る際は元の宿主は死ぬ。そこの肉が言ってるのはこっちのドール。あるじの言ってるのはヤディオスに生息してるワーム型のドール族。知能のないモノから念話出来るものまでいる、基本シュブニグラスを祀ってる」
マジか!?
「なんと、ドールが二種類もいたのですか! どうりで話が合わないと思いました。つまりそちらのドールもこの世界を狙っている、と?」
「もうしばらくしたらイベントでドール大討伐戦があるんだ。あいつら英雄武器や神剣魔剣じゃないと傷もつけられなくてさ」
「こちらのドールは前々からこの世界に侵入を繰り広げているのです。ドールに憑りつかれると死んでしまうので肉体が夢で構成されている夢の住民でなければ憑りつかれてしまいます。憑依が終ると死ぬのでこの世界の住民に手伝ってもらうことはできません」
「マジかよ。ここで同名の敵出現イベントが被るのか……」
「あれ? でもディスマンさん、この世界の住民が憑依されるならヒロキさん仲間に引き込む意味なくないです?」
「プレイヤーは何度死んでも蘇ると聞いていますので。それに彼ならば憑依されても仲間の外の神たちが憑依して来たドールを討伐するでしょう」
なるほど、もしかしてドールの憑依っていうのは自己イデア内で俺の意識を捕食することで操るってことなのかな? 自我が食われた後だと宿主を変えたら肉体しか残らないからそりゃ死ぬよな。
「ふーむ、まさかドールが二種類もいたとは。ロイガーみたいなものでしょうか。まぁよいです。それならそれで手を結ぶことも可能でしょうし。こちらのボールは投げ渡しました、あとはヒロキ君の返答を待つと致しましょう。では私はこの辺りで」
「あ、ちょい待った」
「なんでしょう?」
席を立とうとしたディスマンを呼び止める。
予想していなかったのか困惑しているようだ。
「いや、お前この近辺で神社知らない? 蛇系神社とか特に」
「神社ですか……ああ、この森のさらに奥に一つあったかと。ただ、あまりお勧めはしませんよ。姦姦蛇螺の領域ですし。ドールに似たヤバいのも出ますからね」
なんだそのドールに似たヤバいのって。
え、精神乗っ取ってくる系でてくるの?
ドールじゃなくて? そんな危険生物いたっけか?
「では、私はこの辺で」
「ああ、少々考えさせてくれ。これ、ニャルさんたちに伝えるのはダメか?」
「ダメですね。私の行いは彼らにとって度し難い行為、そもヒュプノス側から討伐依頼も出ているでしょう。下手に関わられるとドール討伐結成の為に手に入れた者たちを潰されかねません」
そんなことないと思うけどなぁ。
ああでも、本来この世界にいるはずのないドリームランドの住民を奴隷とはいえこっちの世界に連れ出してるのは大問題か。
んー、でもテイム済みの彼女たちは大丈夫だと思うけど。
「アブホースの落とし仔さんや」
「なに、あるじ?」
ディスマンが去っていくのを見送って、というかあいつどうやって帰るのかと思ってたけど巨頭たちを素手で殴り殺しながら来てたのか。すげぇな。というか、マダにーさんたちどうやって回避してきたんだろ?
「今の話聞いて、ニャルラトホテプやらクトゥグア、ティンダロスの女王とかに話したら不味いかな?」
「少なくとも、ドリームランドの住民は皆殺しになるかと」
そんなダメなの!?
「そもそもドリームランドから現実世界に来られるのは神のみです。人間たちは精神のみ、ドールなどクリーチャーは勝手に出入りしますが自分の奉仕種族以外は見つけ次第皆殺しが普通です」
まじかー。
これは確かにディスマンのことは彼らには話せないな。
アブホースの落とし仔さんも黙っててあげてね。
とりあえずまだ、あいつとは敵対したわけじゃないし、な。




