883.男の目的
揺蕩うは灰色の髪。
風もないのに宙を彷徨う足元まである長い髪はくるくるとそこいらでカールして彼女の周囲を揺らめいている。
やる気なさそうなぬぼーっとした表情で俺を見つめる全裸少女。
俺は即座にアイテムボックスから白衣を取り出す。
すると稲荷さんが即座に白衣を奪い、少女に着せていく。
さすがにあのままガン見してたらアカウントに優しくないことが起こってそうだったからな。
白衣少女となった彼女は、改めて俺を見つめて礼を一回。
「母が供物喜んでる。礼として生んだモノ授ける。好きに使っていい、この肉はお前のモノだ」
――アブホースの落とし仔をテイムした! お前どんだけ外の神と絆結ぶ気だ?――
いや待って、今回のはツチノコさんたちがやらかしただけで俺のせいじゃないよな!?
っていうか、マジか、落とし仔?
「えっと、一応聞くけど、何ができるの?」
「さぁ? この肉はお前の好きに使えばいい。所詮母から生まれたモノ、母に食われる以外は意味のない肉だ。しいてやれることと言えば、捕食?」
捕食、っすか。えーっと、じゃあコトリさん、アレ、一匹通せる?
「ん、どうぞ」
一匹、結界を瞬時に解除して素通りさせたようだ。
そいつをレイレイさんが挑発。
向かった巨頭族の背後に回って俺はヤクザキックで蹴り倒す。
ごろんっと転がった化け物をさらに蹴ってアブホースの落とし仔の前へ。
「それ、捕食できる?」
「ん。食べる」
次の瞬間、くぱぁっと開かれる顔。
無数の触手が巨頭君を拘束し、宙へと浮かせる。
う、うわぁ……普通の女の子だと思ったのにクリオネさんや寄生生物のオトモダチでしたかぁー。
「うっぷ、正気度が……」
りんりんさん、レイレイさんがまともに見てしまい、口を押えて結界の端へ。
なのさんはぎりぎり目をつぶったようだが、捕食音まではさすがにシャットアウトできなかったようだ。
ものすごい後悔した顔をしていた。
とりあえず、落とし仔さんは攻撃要因としては十分戦えそうではある。
近接戦闘というか捕食で。
遠距離ができるかは後で聞こう。
今はディスマンの方優先だ。
えーっと村長の家、だっけ。
一際デカそうな奴だし、あれかな?
巨大な民家が一つ、俺たちはコトリさんの結界に守られながら村長の家へと向かう。
「ところでヒロキさん、アブホースの落とし仔? さんの名前はどうするんです?」
「あー、とりあえず今は一旦置いとこう。ディスマン待ちぼうけしてるだろうし」
アブホースを略した名前にするにしても実のアブホースさんは母親らしいから落とし仔の方で名前造るべきか、それともアブホースからも一文字くらい貰って置くべきか。
じっくり考えるべき案件だろうから一旦保留で。
「よーっす、来たぞー」
村長の家に入ると、一段高くなった場所に囲炉裏があり、囲炉裏を前に座り込んでいたディスマンがいた。
「おや、数日待つことになるかと思ったのですが、意外と早く来られましたね」
「約束通り、ノンプレイヤーキャラはドリームランド行ったことないメンバーで固めたぞ。プレイヤーは普通に移動してる奴らだけど」
「構いませんよ、お願い通りで嬉しく思います。が、一人無視できないモノがいるようですが?」
ん? なんか変なのいたか?
ディスマンの視線の先を見てみると、アブホースの落とし仔がいらっしゃる。
マジか。こいつもアウトなの!?
「あー、彼女はついさっきテイムしたんだ。この村の召喚陣でテイムしたんだけど、ダメなら外に出しとくぞ?」
「ふむ。まぁいいでしょう、ドリームランドにいるのは母親の方でしょうし。向こうに居たとしても地下であるならば問題はないでしょう」
ないのか?
「しかしアブホースの落とし仔ですか、貴方は本当に様々な存在をテイムしますね。わざわざドリームランドで奴隷を買ってクリスタライザーで現実世界へと持ち込んでいる私からは嫉妬心しかありませんよ」
そういわれても、ここしばらくは不可抗力が多いんだ。
俺はテイムする気ないのに勝手にテイムされに来る奴が結構いるんだ。
現実世界じゃモテすらしないのに。
「とりあえず、ここで話したいことはなんだディスマン?」
「私が何をしようとしているか、貴方には直接説明した方がよいと思ったのですよ。ただドリームランド組がいると邪魔されてしまうからね。確実に生の言葉を届けたいのと思ったのさ」
さて、それじゃあこいつの目的を聞かせて貰おうか。
「ああ。私たちが行っているのは簡単さ。奴らを撃退するため、夢の国の奴隷やアイテムをクリスタライザーで現実世界へと持ち込んでいる。それもこれもドールという化け物共が世界を食いつぶすのを防ぐためだ」
ちょ、ま。え? こいつの目的って……ドール討伐!?
 




