880.ダイラス・リーンの眼
「はい、とうちゃーく」
ダイラス・リーンの港へと辿り着いた俺たちは、一旦港で休憩する。
さすがに激闘だったし、最後が精神的にキツかったからな、いろんな意味で。
「いやー、自分の眷属潰された訳だけど意外と楽しかった」
「ニャルラトホテプ共の奉仕種族を消せて私も満足だ」
「ダーリンとのデート楽しかったゾ」
皆さんご満足らしく、それぞれ別方向へと散っていく。
まぁあとで宿に戻るからまた自由行動に戻ったんだろうけど、まさかティリティさんまで満足して帰ってしまうとは。宿に戻るまで一緒だと思ってただけにちょっと悲しい。
仕方ないので一人寂しく街をぶらつく。
このままだとアレなのでローブを目深に被って目立たないように移動である。
ガレー船がいなくなったからか徐々にだけど人の出入りが増え始めてるな。
といってもやっぱりローブ服ばっかり。
っと、あっぶね、ぶつかるとこだった。
もしかして物取りか? と相手を見れば……
「ぶひぃ、危ないではないか愚民め!」
「あれ? ダイラス・リーンの眼に所属してる人じゃん」
「部隊長だ! ん? 貴様は確か今日来た夢見人か」
せっかくの出会いと再会の喜びのはずだが、デブった中年のおっさんが相手だと嘆かわしさしかない。
しかし、随分と急いでたな。お腹をばるんばるんと振るわせて走ってたじゃん。
「随分と急いでますね? 何かあったんです?」
「ふん、貴様などには関係ない……と、言いたいところだが、聞くだけ聞いておくか、期待はせんが何かしら見てるかもしれんしな」
相変わらず苛つくおっさんだな。小悪党だから金さえ握らせればある程度コントロールできると分かってなければ路地裏に連れ込んで撃ち殺しているところである。
「うむ、ガレー船の商人たちから奴隷を沢山買わせて貰っているお礼に、と町に送られたルビーが盗まれてな」
お、おおう!?
「マジすか!?」
「うむ。黒い霧が出たと思えば広場中央に置かれていた巨大なルビーの塊が食用の宇宙タコに変わっていたそうだ。犯人は不明、商人たちも探しているようだが向こうのクライアントが大層お怒りのようでな。懸賞金をかけているそうだ」
「へー。懸賞金。俺も捕まえたら貰えるんすかね?」
「残念だが相手の容姿は不明だぞ? 現物もどこにあるかわからんし、捕まえられるもんならば捕まえて見せろ。冒険者ギルドかダイラス・リーンの眼本部に連れてくれば賞金が貰えるぞ。ま、捕まえられるようなもんでもなさそうだがな」
相手の容姿が分からないんじゃ確かに捕まえるのは無理そうだなぁー。
誰だよ街の象徴的なモノ盗むような極悪人は。
俺だったらちゃんと持ち主に返すぜ。全く酷い奴だぜ。
「そういやガレー船、出航しちゃいましたけど?」
「そうなのだ。あのレン人共めが、なぁにがちゃんと探しておけよだ。次に来た時見つかってなければ酷いことになるだと? 全くふざけた奴らだ!」
次、来た時なぁ。
いつになることやら。永遠に来ないんじゃないかなぁー。
というか巨大ルビーの現在地からして盗人はガレー船に居るんだぜきっと。つまりすでに解決済みってことだ。うん、この話は終わり終わり。
「む、そういえば貴様の仲間たちはどこ行った?」
「あ、宿取ったんで自由行動中っす。皆目立つようなことはするな、と伝えてはあるんで変なことに巻き込まれてはいないと思うんすけど」
「そう祈りたいところだな。ここ最近夜中になると町中で眠る奴が増えている、家の中だけじゃなく道を歩いている時にすら、だ。それに伴い行方不明者も急増している。貴様の知り合いも行方不明者に名を連ねんように気を付けておけ。深夜の徘徊は推奨できんからな」
「おじさん、もしかしていい人?」
「金払いのいい奴にだけな!」
そこ声を大にして主張するところじゃないよな!?
「全く、ただでさえ有力商人の倅が殺されたせいで忙しいのに、次々と面倒ごとが起きやがる」
ほんと、大変ですねー。
「それじゃ、俺はこの辺で」
「む? ああ、時間を取ったようだな。では失礼する!」
そう告げるとまた足早に立ち去っていくおっさん。
ふむ。ルビー盗難が俺のせいだと分かってないのならゆっくり散策しといた方がよさそうだな。下手に逃げ出したりすれば怪しまれるところだ。
せいぜいただの一般客として協力させていただきましょうかね。
「ぎーぁ?」
「お、ギーァじゃないか、何してた? 俺? 俺はちょっと冒険してたよ」
ギーァがよくわからない店から出て来たので合流する。
せっかくだし一緒に見て回ろうぜ。え、ティリティさん? ああ、俺とデートしてるの見てたのか。
うん、満足して帰って行ったよ。だからギーァと回るの、いいか? ん? あーまぁ確かにデートだが、ギーァって雌型だっけ? あ、ちょ、鎌は危ない、暴れるなギーァ!?




