879.ムーンビースト
「突撃ィ!!」
俺たちは一気に扉を押し開け外へと脱走する。
甲板へと出ると、船員となっていたレン人たちが驚き慌てる。
なぜそこから!? とかあそこは探したはず!? とかわめいているが、ティリティさんが闇魔法を放ち、クトゥグアさんが火炎弾を放ちだしたので慌てて武器を引き抜き鎮圧に向かってくる。
あれってシミターっていうんだっけ。海賊が使ってそうな武器だよな。
んじゃ、俺も。
レーザー銃を引き抜きレン人たちを撃破していく。
甲板にいるレン人を片付けた後で安全確保しながら脱出するつもりだ。
っていうかニャルさん、応援してないで攻撃参加しなよ?
「いやー、さすがに私めを信仰してる彼らを攻撃するのはちょっと。だからどっちもがんばれー」
こいつ、中立になってやがる!?
「しかし、レン人だけなら楽だな。基本武装も剣だけだし」
こういう奴らならマスケットくらいは持ってそうなもんだけどな。
まぁ楽に倒せるからいいけども。
「あー、残念だがそろそろヤバいの来るぞ。ヒロキ、やるならそろそろ準備に入れ。いつでも離脱できるようにしておかないと死ぬぞ」
死ぬ!?
と、とにかくレン人たちを撃破したから中央付近には空白地帯が出来たな。
ここにアイテムボックスから巨大ルビーを取り出してっと。
「来たぞ! 月棲獣だ!」
「げ? うおぉ!? SAN値が散っちゃう!?」
レン人たちの背後から現れたのは、灰色がかった白い肌のヒキガエルっぽい生物。
鼻の辺りからピンクの触手がイソギンチャクみたいに噴出している。
大きさは現実世界の俺を1・5倍したくらいか? 油ギッシュな体躯に槍を構え、フルートを使ってレン人へと指示出しを始めている。
「あれって」
「うむ、月棲獣またの名をムーンビーストだぞダーリン」
「ヒロキ、あの槍、気を付けなよ。一撃食らったら多分死ぬから」
マジかよ!?
うお、槍投げ態勢!? させるか!
ぎりぎりレーザーが間に合い投擲モーションだったムーンビーストの腕を破壊する。
からんっと落下した槍に驚くムーンビースト。
何かフルートで叫びながら触手をわさわさ動かしている。
掌失ったから痛みで叫んでんのかな?
声発することできないらしいからなぁ、触手で会話してんだっけ?
「ヒロキ、そろそろ脱出を!」
「そうだった。ニャルさんクトゥグアさん、よろしく! ティリティさん、結界頼んだ」
最後にレーザー銃でムーンビーストのどてっ腹に風穴を開けてやる。
腹の中ぶちまけてくたばんな!
「任せよダーリン! ふんぐるいふんぐるい……」
それクトゥルフの召喚か何かじゃなかったっけ?
ニャルさんが黒い鷹へと姿を変えて俺を掴んで飛翔。
クトゥグアさんもティリティさんを抱えて飛翔する。
うっお、あぶねぇ!? 今頬掠ったぞ!? 一気に急上昇した俺を狙ったようで、別のムーンビーストの投擲した槍が飛んできたようだ。
って、なんか船室の方からムーンビーストがわらわら出てきたんですが!?
何あの数!? 数十匹というより数百匹はいるんじゃねぇか!?
「ムーンビーストは群れで移動しているからな。あれくらいはまだ少ない」
「おそらく船の中にはまだ倍以上いるぞ」
アリの巣突いたみたいな状況だな。
結界張ったおかげで内側からの槍投擲を防げたけど、あんなもん一斉投擲とかされたら逃げる暇なく瞬殺だぞ? 下手したら肉片も残らんかもしれん。
「意外とやべぇな黒いガレー船」
「当たり前だ。悔しいがニャルラトホテプ共の奉仕種族だからな。無駄に強く知性的で残忍だ。ムーンビーストに敵対して生存できるのは本当に一部だぞ。下手すれば群を成して地の果てまで追ってくる。今回は皆殺し確定だと分かっていたから私たちも手伝いに来たんだ」
な、なるほど、下手に手を出すとムーンビーストが絶え間なく襲ってきて無限キルされる可能性もあるのか。ムーンビースト自体残虐だからプレイヤー相手だと復活場所で待ち構えて無限モンスターキルとかやりかねないな。
ムーンビースト関連には今後近寄らないようにしよう。
マジでヤバそうだ。
「それじゃ、行くぞー。発光体復活――――っ!!」
ティリティさんの号令により黒いガレー船に残した巨大ルビーがひび割れる。
おーおー、異変を察して逃げ出してるけど、無駄無駄無駄。
お、すげぇ、ガレー船空飛んで逃げようとしてるぞ。
しかし発光体復活の方が早そうだ。
って、あの、ニャルさん?
「悪いがこれ以上見せる訳にはいかんのだよヒロキ。さすがに正気度が削られ過ぎるからな」
「結末は見届けるな、って奴だ。放っておいてもアレはもう全滅だ。ククク、ニャルラトホテプ共の奉仕種族が百単位で消し飛ぶとか、愉快過ぎる!」
「むっふっふ。完璧だぞダーリン。彼らに何か一言残してやるがいい」
一言、ねぇ……ネタでいいか?
「グッバイフォーエバー黒いガレー船。なんつって」
ハラキリは、スポーツじゃないんだぜ?




