874.指名手配の男
「っし、これで手続き完了だ」
船は定期船があるようだが、今日は出ないらしい。
明日出航らしいので、本日はダイラス・リーンで宿を取って皆で休むことになった。
なので、この町でも一旦解散、自由行動である。
ただまぁこの町治安悪そうだしなぁ。テイムキャラが知らない間に奴隷にされて売られててもおかしくないよな。いや。俺のテイムキャラはどう考えてもそういったことには無縁そうだけど。
特にニャルさんとかガレー船の主たちニャルさんの奉仕種族なんだよなぁ。その奴隷になってたら腹抱えて笑うっきゃない。
そんなテイムキャラたちは、俺に断りすらなく。解散の言葉を聞いた瞬間、蜘蛛の子を散らす如く町の各所へと消え去った。
うんまぁ、別にいいんだけどさ。もう瞬きしたらいなくなってたくらいの素早さだったよ。
久しぶりに一人きりだなぁ。
というか、俺一人きりになっちまうと変なトラブル起こるんだけど、大丈夫だろうか?
まぁ他の奴らみたいにローブ着込んでりゃ問題ないだろ。
近場の服屋でローブを買い込み、目深に被って移動する。
ほんと外に出てる奴はローブ姿の奴しかいないな。
しかも皆足早に移動してるし。
下手に立ち止まると何か嫌な事でも起こるんだろうか?
まぁわざわざ体験する必要もないよな。
さって、どこ行こう。
まずは酒場か、いや、この町の冒険者ギルドみたいな場所探してみるか。
えーっと……ん?
ふと、道の角を曲がった男に視線が向いた。
見たことのあるような容姿だった。
しかし、こんなところで出会うだろうか?
否だ。奴との出会いは自己イデア。その延長上に存在するドリームランドに居ても不思議はない。
散策は一旦止めだ。
足早に男の消えた角へと向かう。
いた。あっちか。
スニーキングミッションすることになるとは思わなかったな。
物陰を見つけてはそちらに身を寄せながら徐々に近づく。
しかしあいつ、こっち一切振り向こうとしないな。
どこに向かってるんだ?
俺は土地勘ないから多分既に迷子だぞ。
入り口まで戻れればいいけど。最悪道行く人に聞くしかないな。
彷徨ってればそのうち味方と出会うだろ。
最悪電話かければ迎えに来てくれるかもだし。幸運スキルに掛けて彷徨っておけば悪い場所には辿り着くまい。
また角を曲がった。
この先は少し薄暗い場所である。
路地裏とでも呼ぶべき光が差し込まない暗がりを、そいつは歩いていく。
迷いがないな。おそらく何度も通っている道なんだろう。
っと、あぶねぇ。ゴミ箱蹴り飛ばすとこだった。
音を立てないよう気を付けながら後を追う。
右に折れ、左に折れ、曲がりくねった道を行くこと数分。
袋小路に辿り着き、そいつは立ち止まる。
ここで何をするつもりだ?
最悪レーザー銃で撃ち抜くしかないが……
「わざわざご足労頂きありがとうございます、ヒロキ殿」
ばれてーら!?
「ちぇ、分かってやがったのか」
「このような場所でお会いできるとは思っていませんでした。しかもあなた一人。僥倖ですね」
観念して、俺はディスマンの背後へと歩み出る。
そう、俺がスニーキングミッションで追っていた相手はディスマンだったのだ。
「こんな場所で何をしている?」
「ここは貴方が後ろから着いてきていたので話しやすい場所へと向かったまでのこと」
ディスマンが振り向く。
変わらない顔だなぁ。
何とも特徴的だ。
「もともとはどこに行くつもりだったんだ?」
「奴隷市場です。人手はいくらあってもいいですし。まもなくガレー船が到着するので余っている奴隷は売られてしまいますからね、その前に買えるだけ買うのですよ。理由は言う必要なくわかると思いますが?」
「夢の守護者を殺すため、か?」
「別に殺すことが主目的ではありません。我々の目的はクリスタライザーを使ってこの地で買ったものを現実世界に持ち込むことです」
「その理由は?」
「言えません。貴方が同志になるのであればやぶさかではありませんが。その場合は手伝っていただきますよ?」
「理由も言えない、手伝う内容も言えない。そんな相手にはい、なります。なんていう訳ねぇよな?」
「そうですね。私も逆の立場なら断っています。ですが、そう言っていられないのですよ。決起の時はまもなく、すでに引くに引けない状況になりつつあるのです」
いや、だからそれを言われても肝心な場所を何も言えません、では手伝うも何もないのである。
「近い将来、貴方はきっと我々に賛同されるでしょう。そのための準備は既に済んでいる。あとは貴方しだいです。我々は気長に待ちましょう」
俺次第、ねぇ。どうにも胡散臭いんだよなぁ。
信用する気にならないからとりあえず撃ち殺しておくか。
「ああちなみに、私は里派です」
なん、だと!?




