869.高校七不思議10
「今日こそは貴様らに地獄を見せてくれん!」
「ふん、我ら山こそが最強であると知るがいい!」
「否! 里こそが最強! そのひょろ長く無駄なブツを切り裂いてくれる!」
「太ければいいというものではない!」
なんだこれー。
「やや、生者たちか!」
「ええい、聞かねば、聞かねばなるまい!」
「「き○この山とたけ○この里、どっち派だ!!」」
何の話?
え。待って。まさかこいつら、そんなことで合戦してるの!?
そんな論争何十年も前から決着付いてないじゃんか。争う意味がねぇ!
いいか阿呆共、俺はどっちも大好き派だ! 皆違って皆いい、それが答えだ!!
「ち、日和ったか」
「実に嘆かわしい。で、実際どちらをよく食べる?」
それは……俺はつい、言葉に詰まる。
実際どちらをよく食べるって? そんなの、そんなのっ!! 言えるわけ、ねぇ!!
俺はその場で四つん這いになって悔しがる。
畜生、俺は、俺って奴は、結論、出ちまってんじゃないか。
何が両方好きだ。
よく考えれば、なんとなくでつい、余分に多く買ってる……
そう、里側だ!
「おのれ期待させるだけさせて里派だとぉ! 裏切者だ! 出会え出会え!!」
ま、待ってくれ、俺は別に裏切った訳じゃ。
「ま、待つんだ、俺たち全員が里派な訳じゃないぞ、俺山の方好きだし!」
タツキ君!?
「私もです。どっちかといえばそっちの方が……」
「あの棒のサクサクがいいんだよね」
「そうかぁ、俺は里の方がいいけど」
あ、ああ、なんてことだ。俺が結論を出しちまったばかりに他の奴らまで山派か里派に分かれて……
『んー、ヒロキには悪いけど、私はこっちかなぁ』
なん、だと!?
ば、馬鹿な、馬鹿な馬鹿なば・か・なあぁぁぁぁぁ!! ハナコさんが、山派だとぉ!!?
『お姉ちゃんソレ好きなんだ。私は里派だよ?』
『ダーリンが里選んでるのに山選ぶんだハナコは? 酷いなぁー』
『えぇ、でも好みは嘘吐く必要ないんじゃない?』
鞍替えす? 里派を裏切って山に?
いや、いやいやいやいや、ダメだ。ダメだ!
たとえハナコさんが山派だとしても、里の皆を裏切るなんて……できねぇ!!
「あれ? ヒロキ?」
「血涙流してるの」
「我、ここに真理を得たり! たとえハナコさんといえども、我が派閥変えること無し! 里派として、貴女に里の素晴らしさを説かせて貰う! ハナコさん、たとえ今は敵であろうとも!! 必ず里派にしてみせる!!」
『ちょ、ヒロキ?』
「おお、同志よ! 共に戦に参ろうぞ!!」
「里派の為に!」
落ち武者たちに交じり、俺は戦う。
「って、待った! ヒロキさん、乗せられてる! このまま戦って死んだら呪われるだけですよ!」
「分かってる、分かってるんだタツキ君、しかし、しかしだ! 男には決して避けては通れぬ戦いがある、今が、その時だ!!」
「いや、違うだろ」
『マイノグーラさん、ヒロキをこっちに押し留めて!』
「しゃーねぇな」
あ、こら、マイノグーラさん邪魔すんじゃないよ!?
ってダイスケにキョウヤまで!?
羽交い絞めにするんじゃない! 俺は、俺は里派なんだぁぁぁっ。
「とりあえず、どうするよ?」
「一応、無視して次に行くことはできるけど。体験はしたんだし七巡りは問題なくいけるっしょ?」
「でもヒロキのことだし、引っ張って行っても隙見てここ来そうなの」
「ジュルル」
不意に、皆の困った姿を眺めていたシマさんがバサリを羽ばたく。
まるで俺に任せとけ、とでもいう様に皆の周りを一周旋回し、合戦が始まろうとしている幽霊武者たちの中心へ。
「む、面妖な?」
「鳥?」
武者たちの視線が自分に集まったと理解したシマさん、次の瞬間、膨れ上がるように光を発する。
「ぬ、があぁぁぁぁ!?」
「目、目があぁぁぁぁ!」
「あ、ああぁ……光、だぁ……」
「ぎゃあぁぁ、眩しいっ、溶けるぅぅぅ――――っ」
シマエナガライジング、その発光は、まさしく立ち上る太陽の如く。
光り輝く鳥の一撃に、幽霊武者たちは一瞬にして浄化されてしまった。
残るのは、誰もいなくなった戦場跡。
「つ、ツワモノどもが、夢の跡……」
あまりにも一瞬でカタが付いてしまったがため、感情が追い付かず、俺はその場に崩れ落ちる。
「喧嘩両成敗、いう奴やなぁ」
「喧嘩してたわけじゃないけどね」
「ゲコ、こっちの味方にはノーダメージだねぇ、幽霊もいるのに」
『確かに、私はレベルがあるけどヤミコやブキミは今の一撃まともに食らってたら死んでたかな』
『むぅ、私弱くない、お姉ちゃんのばか』
『ハナコが残るなら私が残るのは当然でしょ、負けるわけがないわね』
二人とも効果範囲外だったのか、味方と敵を識別する光だったのかはわからない。
とりあえずシマさんの実力を知るエピソードとして記憶には残そう。
ただ……同志たちよ、お前たちの意志、必ず俺が引き継ぐ、この世界を里派で満たしてやるからな!




