86.幽霊には幽霊を
『私メリーさん、今御炬峠にいるの』
うっわ、メリーさんだ。
都市伝説で有名なアレだ。
「ちょっと、今そんなの相手してる暇ないわよヒロちゃん!」
「奥の方からヤバそうな声聞こえてるんだが!?」
そうなのだ。この先からオオオオオオと地底から重く響くような声が聞こえてきている。
十中八九ボスがいる。
この暗闇の中で戦えと? 暗視ゴーグルあたり持ってくれば良かった。売ってるかどうか知らんけど。
「全員相手見えるか?」
「おねーさんは大丈夫。幽霊だから」
「神じゃぞ。問題ないに決まっておろう?」
「シャー!」
「マネージャーさん、魔力視覚えてないの? 暗闇でも相手見えるよ?」
「深海に潜ることもあるからな。我も大丈夫だダーリン」
あれ、もしかして俺だけ?
「ヒロキ、前じゃッ!」
焦った声に拳を握る。
目の前に拳を打ち込むのと、光の届かない場所から高速で迫る仮面のようなものが襲いかかってくるのとは同時だった。
『私メリーさん。今御炬トンネルの前にいるの』
メリーさん今は立て込んでるので後にしてっ!
俺はメリーさんの電話を放置して目の前のバケモノを見る。
目がくぼみ、開かれた口の中は見えず、仮面というか、これはもうデスマスクだな。
人の顔から皮を剥いで作るとかいう狂気の仮面だ。
そんな仮面は、球形の何かにくっついてるような……いや、違う、これ自体が、触手の一つだ!?
ヘッドライトを思いっきり前に照らした俺が見た物は、無数のデスマスク触手を生やした黒いウニ型の生物。否、生物などおこがましい。これは完全に、霊体だ。
「エクトプラズムが固まり過ぎて邪霊になってるわね……」
「うぅむ、これはこれで造形のヒントになるな。次の怪人はウニにすべきか? いや、あえて栗という可能性も?」
栗怪人……絶対に正義の味方には勝てなさそう。むしろ一般人にやられそう。
「レーザーは、効かないな」
「塩もあまり効果がないようだぞ?」
「何この触手、切っても切っても再生する!?」
「マネージャーさん、水の弾丸が豆鉄砲扱いだよ!?」
……まさか!?
名前:
種族:邪霊 クラス:怨霊集合体
二つ名:御炬トンネルの悪夢
Lv:65
HP:6322/6666
MP:212/212
TP:261/261
GP:3879/3879
状態:普通
技スキル:
???Lv63: ???
???Lv60: ???
???Lv43: ???
???: ???
???: ???
???: ???
恐れていた事態が発生した。
こいつ、俺達の誰よりもレベルが高い。
完全な格上だ!?
しかもすでに敵対状態。
暗いトンネル内での戦闘。俺が撤退するには皆に殿して貰わないといけない。
恐らく誰かが死んでしまう。
じゃあ、逆に闘うならば?
勝てるか? いや、無理だろ。
俺のレベルは22だったはずだ。さっきの幽霊を大量撃破でレベルが上がってるはずだが、それでも40までは行かないはずだ。
つまりコイツとの差は2倍。
倍のレベルを相手して勝てるか? 否である。
最高レベルのハナコさんでも40だ。
コイツを相手取るには手に余る。
撤退するしか……
「私メリーさん。今、貴方の真後ろにいるの」
「丁度良かったメリーさん。コイツ倒すの手伝って。人手が欲しかったんだ」
「へ? え? ちょっとぉぉぉ!?」
俺の声に反応したのはテケテケさん。
素早く俺の背後に回り込み、メリーさんを拉致。そのまま前に向って投げた。
名前:メリーさん
種族:怨霊 クラス:人形霊
二つ名:復讐者
Lv:38
HP:3200/3200
MP:300/300
TP:800/800
GP:1104/1104
状態:普通
技スキル:
???Lv23: ???
???Lv20: ???
魂刈りLv15: 稀に相手を即死させる。呪いを付与。
瞬転移: 任意の場所に短距離転移します。
???: ???
???: ???
それは小さな人形だった。
リ○ちゃん人形みたいな可愛らしいそれは、ぼろぼろの姿で、両手で自分より大きなハサミを持っていた。
放物線描き、触手の一つに激突する直前。
「ええい、ちくしょーっ」
スバリ、ハサミを使って真っ二つに引き裂いた。
「ちょっとアンタ! なんてもんの前に投げてくれんのよ!?」
「いいじゃない。ほら、早く戻ってきなさい。死ぬわよ」
「きゃあぁ!? なにこれ、恐っ!?」
いや、あんた都市伝説だから恐がらせる側でしょ!?
「と、とにかくこんだけ味方がおるならやれるのではないか!?」
「レイド戦かよ!? せめて周りが良く見える場所なら何とかなるんだが……」
やるしか、無いのか? この面子で?




