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857.流行の発起人

「我が生涯、一片の悔い、無し……」


 モフを求めし男は、幸福の内に大往生した。

 稲荷さんの狐耳を存分にもふった彼は、まるで人生の全てを放出しきったかのような幸せな笑みを浮かべ、その場に倒れ込む。

 両手をお腹の上に祈るように組み、目を閉じた。

 一筋の涙は幸福から流れたモノだろうか? 生涯一度の願いを叶え切った彼は、全てを終えて、強制ログアウトで消え去ったらしい。


 あとには精神を失ったアバターだけが、大往生したような姿でその場に残された。

 うん、そのうち戻ってくるだろうからとりあえずこのアバター保管しとけよ稲荷さん。

 神社管轄ってことでよろしく。


「とりあえず依り代よりは本人に渡した方がいいのかな?」


 稲荷さん本体にゲーミングカラークワガタを手渡……そうとした腕を依り代稲荷さんががしりと掴む。


「あの、稲荷さん?」


「ヒロキよ、ヒロキと共に冒険をしておるのはどちらの稲荷かの?」


「え、そりゃ、依り代の稲荷さ……」


「おいおいヒロキよ、依り代はしょせん依り代。すぐに紙に変わるので儂に渡すのが当然であろう」


「……」


「……」


 おーい? ちょっと稲荷さん同士で何バチバチやってんの!?


「どうやら、少々自由にさせ過ぎたようじゃのぅ」


「ふふふ、ついに本体を交代する時が来たようじゃなぁ」


 あっれぇ、なんか二人ともやる気だぞ?


「「虫相撲で勝負じゃぁ!!」」


 あ、ダメだこいつら。


 いきなりバトるつもりかと思えば虫相撲とか、勝負付かないだろ。

 二人揃ってそれにも気付かない駄女神様方は切株の元へと向かうと稲荷対稲荷の激闘を開始する。

 まぁ、当然の如く開始の合図すらさせてくれそうにないので、彼女たちはとりあえず放置だな。

 ゲーミングカラークワガタも逃がさないようアイテムボックス入れておこう。


「あ、そうだ。月読様、稲荷さんがアレになってるんですけど、このスタンプラリーどうしたらいいです?」


「ん? ああ、御朱印が居るのだな。そこにあるから私が押そう」


 それでいいんだ。まぁ神様から押されたってことで御利益はありそうだな。


「あのー、ヒロキンさん、それって何ですか?」


「もしかしてまた特殊イベント!?」


「は? いや、ただの神社巡りスタンプラリーだぞ? 皆もソレの為にここ来てたんじゃねぇの? 狐系神社巡りのスタンプラリーで……」


 あれ? 皆の反応芳しくないぞ?


「えっと月読様、このスタンプラリーって運営告知してますよね? 俺白兎系神社の方で最近スタンプラリーできるようになったって聞いたんすけど」


「ん? ちょっと待て聞いてみよう……ふむ? 実装は済ませてあるが告知は未だらしいぞ。ドール討伐後に予定しているとか?」


「マジか!?」


「未実装イベントっすか!?」


「いや、でもスタンプラリーは出来るみたいだぞ。ほら、俺すでに白兎系神社と鬼系神社、狐系神社のスタンプラリー持ってるし、なぁブレイド、ミツヅリさん」


「あ、ああ。普通に買えたな」


「ここでも狐系神社用のスタンプラリー用紙は買えるはずだけど……」


「マジでか!」


 お、おお? プレイヤーたちが我先にと神社の売り子やってる狐さんの元へと殺到し始めた。

 あの狐さんは初めて見るけど、プレイヤーが用紙買おうとした次の瞬間には神社の境内に出現したな。

 多分運営AIの方が慌てて用意したんだろう。


「そっか、これまだ実装しただけだったのか」


「先行でスタンプを押せる仕様にしてあるのが悪いとしか言えんな。運営の怠慢だ。私からもクレームを入れておこう」


 月読様、AI側ですよね。入れれるんだクレーム。

 しかし、どうしよう。なんかスレがお祭り状態になって各神社に押し寄せる動きになってる。

 これって俺が御朱印ブームに火を付けちゃった感じかな?


 んー、うん、俺知ーらないっと。

 稲荷さん対稲荷さんの激戦を見学しながら、周囲のことは放置でいいや。

 御朱印ブームが来ようと俺のせいじゃない。

 俺はただゲームシナリオに従ってスタンプラリーを始めただけで、ここで御朱印を貰おうとしただけだし。


 それがたまたままだスタンプラリー知らなかったプレイヤーの目に留まって俺もやろう私もやろう、ってなってるだけだし。

 うん、俺悪くない。


「だあぁ!? なんでお前は敵前逃亡するんだぁ!?」


「おい、後ろじゃない、前だ! 前に進めと言っておろうが!!」


 当分勝負付きそうにないなぁ。


「ヒロキよ、まさかとは思うが、稲荷神は虫相撲苦手なのか?」


「苦手というか、下手の横好きって奴ですね」


「なるほど……下手、の範疇か?」


「致命的とも言えます。でもまぁ、虫相撲は本気で好きらしいので」


「そうか、アレをテイムするのは苦労するだろう」


 月読様と二人、隣り合って頷き合う。

 この人結構話が合うな。

 合理的というか、本人が納得できることなら理不尽な事でも許可するタイプだ。

 定めたルールに従うというよりルールがあれば独自解釈して、その独自ルールに対してゼロかイチかで判断する、もし間違ってると自分が納得できればルールも変える柔軟さも持ってる。ただまぁ、そのうえでルールから逸脱した相手にはたとえ仲間だろうと恋人だろうと容赦なく切り捨てる冷酷さも持ってるみたいだけど。

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― 新着の感想 ―
稲荷さまは強い虫を探すのではなく虫相撲の基礎レベルを上げよう(ポ⚪︎モンのバッジ不足的な)
>ゼロかイチかで判断する そもそもの話 イチまで届いてるかも謎よね よくて0.5 悪くて0.1
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