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856.もふはその手の中にあり

「これは参った。まさかこれほど簡単に負けるとは」


 プレイヤーたちからもすげーって声が多いな。

 ナスさん独りぼっちで虫相撲極めてたみたいだからな。そらもうぼっちは伊達じゃねぇって。

 おそらく虫たちに名前付けて話しかけたりしてたんだぜ。


「ヒロキよ。そら、これが勝利報酬だ」


「うす、ありがたく受け取ります。ちなみに、このゲーミングカラークワガタもう一匹とか持ってません?」


「さすがに捕まえてないな。私の管轄内にも滅多に現れない希少虫だ。ゲーミングカラースィーケィダと同様くらいの希少性がある」


 また変な生物の名前が。稲荷さんが欲しがるからあまり変な虫紹介しないでくださる?


「あー、ヒロキンさん、俺、ゲーミングカラークワガタ一匹捕まえてます」


「マジで!?」


 見学していたプレイヤーの一人が手をあげる。

 これはまさかの救世主。金に糸目はつけんぜ。なんなら今持ってる全額でもいいぞ。どうせ放っておいても金増えるし。


「いくらなら貰える?」


「それなんだけど、ちょっと……」


 お、もしかして内緒話?

 俺は彼の傍に向かい耳を貸す。


「稲荷さんのケモミミもふらせてほしいっす」


 なん、だと!? こやつもふらーか!

 うーむ。稲荷さんちょっちこっち。

 稲荷さんを手招きしたら両方来やがった。

 せっかくなので二人に今の話を伝えてみる。


 むむっと唸る稲荷さん二人。


「ちなみに月読から手に入れた奴はどうするつもりだ?」


「まだ迷ってる。でももう一匹いるならシマエナガのテイムも稲荷さんの虫集めも両方達成できる。どちらかを諦める必要がないなら俺としては喜んで、と言いたいが、さすがに本人の許可なくもふらせるのはな」


「そうじゃな。儂としてももふるのはあまり好きでもないが耐えられんわけでもない。じゃがヒロキよ。分かっておるか? NPCとはいえ、体に触れるという行為、ラッキースケベ無しでは……」


 あー、垢BAN案件になるかもしれないのか。


「ああ、それは安心しろヒロキよ。ヌエの阿呆はそれをやり過ぎたらしく今禁止されている。他の運営のAIが引き継いでいるから交渉してみよう」


 おお、月読さんマジすか。

 あとは稲荷さん次第か。


「ふむ……」


「……よし、管理者から許可は取った、今回交渉人との交渉が完了次第、もふる行為に関しては許可されるそうだ」


「マジか。でも一度許可したら他のプレイヤーも条件とか出してこないか?」


「そこは天の声との交渉じゃろ。うむ、ゲーミングカラークワガタのため、儂はあえてもふられようぞ!」


「そこの君、交渉成立だ」


「マジで! やった!! 言ってみるもんだ」


「ただ、今回のみの例外だそうだから心置きなくもふっておけ。一応映像は撮っとくが以後は難しいぞ」


「問題ない。俺の一生の夢が叶うんだ。これでBANされても満足して死ねるさ」


 いや、この程度で死ぬなよ。というかバーチャル空間でもふるのを一生の夢にするなよ。

 ゲーミングカラークワガタ二匹目の引き渡しが終り、稲荷さんが男の元へ。


「あ、あまりいやらしい手つきではやるでないぞ?」


「ぐふっ!?」


 ちょ、稲荷さん、そんな伏し目がちで言ったらそのモフラーにはクリティカルヒットだぞ!?

 もふる直前に致命傷を受けた男だが、なんとか震える手で稲荷さんの狐耳へと触れる。


「んっ」


「ごふっ!?」


 恥ずかしそうにぴくんと耳を揺らした稲荷さんに俺も彼も二度目の致命傷を受けた。

 不味い、このままだと彼は堪能する前に死にかねない!?


「無心だ! 無心で撫でろ、君の夢はもうすぐ叶う!」


「わ、分かってる、わかってるが尊みが凄すぎてっ」


 それでも、彼は果敢に手を伸ばす。

 柔らかそうな狐耳に優しく触れて、驚愕に目を見開く。

 うわ、幸せそうな顔しやがって。って、手が止まった?


「おい、待て! まだだ! 死ぬには早すぎるだろ!!」


 こいつ、興奮しすぎて昇天したのか!? ここで強制ログアウトだと!?

 まだお前は撫でてないだろ! 触れただけなんだよ! 戻って来い、戻って来いジョォォォォ――――ッ!!


「っくは!? あ、あぶねぇ、一瞬ログアウトしてたぜ」


 よ、よかった。戻ってきたか! せっかくゲーミングカラークワガタを対価に手に入れたもふもふタイムなんだからな。一瞬しか楽しめずに終わるなんてさすがに可哀想過ぎる。

 がんばれ……頑張れっ!!


「行ける、行けるぞ!」


「そこだ、ほら、撫でるだけで良いんだよ!」


「意識を手放すな! お前ならやれる!!」


 周囲のプレイヤーたちも自分たちの代わりにもふりを堪能してくれ、とばかりに声援を送ってくる。

 今、会場は一つになった。

 青年の、儚くも壮大なたった一つの願いに、彼らもまた熱き思いで願うのだ。

 どうか、もふってくれ、と。


 皆の思いを一人で背負い、男は狐耳へと力を籠める。

 もふ、もふっ。


「は、はおぉぉぉぉ……」


 この日、一人の男が世界の真理に到達した――――

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― 新着の感想 ―
稲荷さん吸いは垢BAN対象?吸える?駄目?
外道のヒロキンは死すべしっ!!!!! 業が深すぎる!? 不動明王でも匙を投げるかもしれない業の深さ・・・・・・・?
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