85.御炬トンネル殺霊事件
峠を越えて、薄気味悪い廃トンネルへとやってきた。
正直入るのも躊躇う真っ暗な大口開けたトンネルは、ひんやりとした冷たい空気を外へと吐き出し、来るものを拒んでいるようだった。
「これは、さすがにちょっと、入る気にならないなぁ」
「絶対居るわねぇ。ヤバいのが」
「ふむ、ヒロキよ、折角だからここでトンネルに鑑定してみよ」
鑑定? まぁやってみるけ、ど……
ぱっと出現するステータスが描かれたメッセージボックス。それが一つ二つ、三つ四つ五つと増えていく。多重に開かれていくメッセージボックスは、パソコンで開かれるバグったダイアログボックスのように数十数百と増えていく。
「ダメだここ、入ったら死ぬトンネルだ」
「おねーさんもさすがにここには入りたくないなぁ」
「幽霊多過ぎ……あ、待てよ。これだけ密集してるなら。九字切り」
うぉぉぉ!? なんか凄い数の悲鳴がっ!?
「ほぅ、いいぞヒロキよ、それだ!」
稲荷さんも隣に並んで九字を切る。
おー、なんか凄い勢いで幽霊が消えてくぞ。
「二人して動きが怪しすぎる」
「そ、それでも我はダーリンのことを嫌いにはならんぞ? ならんからな」
やめろ、俺のガラスのハートが粉砕されるから。
嫌いとかNGワードは言わないで。
「あー、でもマネージャーさん、さすがにそれだけじゃ全部は倒せないみたいよ? あぶれたのが側面から襲って来てる」
「そのくらいなら私達でやれるでしょ。右はお願いね」
「テケテケさんラジャーです」
未だにトンネルに入ることも無く、入り口前で幽霊退治。物凄い数の幽霊がトンネルから襲いかかって来て、九字切りにより消し飛ばされる。
しかし、はやりその隙間から逃れる個体もいるようで、俺達向けて襲いかかる幽霊たちを、テケテケさんとディーネさんが撃破していく。
「シャーッ!!」
そして何かを手伝いたいツチノコさんが俺の頭の上に乗って叫びだす。
シャーシャー煩いよ。まぁ応援だと思えば……やっぱ煩い。
「シャーッ!!」
何度目のシャウトだろうか?
突然、音の重みが変わった気がした。
叫び声に幽霊たちがその場で硬直する。
「なんだ?」
「新しいスキルでも覚えたのではないか。それより続けよ!」
「それもそうか」
何にしろ、ツチノコさんの執念が何かのスキルを呼び起こしたのだろう。
ツチノコさんだって何かの役に立ちたいのだ。ならば彼女の意を酌むべきだろう。
「あらかた倒したか?」
トンネルに入ることは出来そうだな。
とりあえず懐中電灯点けてっと。ひえぇ、暗っ。
「おっと九字返しをしておかねばな」
「必要?」
「必要じゃ。こういう場所は特にの。そのままにしておくと別の悪霊や異界のモノが住み着いてしまうでな」
それはさすがに恐いな。
二人で九字返しをしてトンネル内部へと入る。
うっわ、暗い。
「ダーリン、さすがに我はここでは何も出来んぞ」
と、震えながら背中にぴっとりくっついてくるスレイさん。
そういえばさっき何の声も聞こえなかったのは恐怖で震えてたからか。
怪人ドクターにも苦手なモノがあったんだなぁ。
「放電は意味無いの?」
「意味、あるのか?」
「おー、丁度一体こっち来たぞ。右斜め45度上側じゃ」
「ほ、放電っ」
稲光のような紫電が走り、幽霊に直撃。
そして……幽霊がさらに寄ってくる。
「やっぱダメみたいねー」
そんな幽霊はディーネさんの水弾により成仏した。
どうやら普通の雷攻撃は効かないらしいが魔法で作られた水は有効らしい。
幽霊がプラズマ系だったら雷攻撃でも当たりそうなんだけどなぁ。
「あ、そうだスレイさん、これ使って」
「塩?」
「これを幽霊に掛けて殴れば戦えるぞ」
「えぇ、幽霊だぞダーリン?」
「幽霊なんて怖くない。何しろ俺は……霊打持ちだから、な」
目の前に近づいていた幽霊を殴り飛ばす。
ふはは。一撃。
レベル的には小学校の幽霊たちより強いけど、レベルが上がってる御蔭で随分楽に闘える。
数の利さえなければ十分勝てる。
「ほ、ほんとに拳で倒しおった」
「ほら、やってみな」
「う、うむ」
稲荷さんが先導してスレイさんが幽霊に塩を掛ける。その幽霊を拳で殴るスレイさん。
あ、放電も塩掛かってたら効くんだ?
「放電が、効いた!?」
「塩ってすごいわねぇ」
幽霊には清めの塩、まさかここまで効果的だとは。
ん? どうしたのツチノコさん? ツチノコさんも塩欲しい?
はい、どうぞ。って、ああっ!? ツチノコさんがどっかいった!?
「幽霊に突撃してったわよ。塩全身に被って」
それはそれで体内の水分全部持ってかれない? 大丈夫?
まぁ幽霊には効果的な体当たりになったようだけど。
「ん? ダーリン、そこに何かあるぞ?」
「ん? これかな? 携帯電話?」
スレイさんに言われて思わず手にした携帯電話。女の子らしい可愛らしいストラップが付いたピンクのソレは、よく見れば血が付いている。
「うわ、血付きの携帯電話っ!?」
気付いた瞬間、携帯電話は突然着信音を鳴らし始める。
あ、これ出たらヤバい奴では?
あ、違う、出なくても通話する奴だコレ。
『私、メリーさん。今からあなたに会いに行くわ』
なんかやべー電話だった!?




