855.真剣勝負、神と神
廃神社でのお参りを済ませ、予定になかった鉄鼠戦を終えた俺たちは、稲荷さんの本体がいる神社へと向かうことにした。
と言っても、選択肢を選ぶだけの簡単な移動方法だけどな。
廃神社から選択肢を選んだ次の瞬間には稲荷さんのいる神社入り口へとやってくる。
相変わらずここは結界の向こう側に浮遊霊が張り付きまくってるな。
稲荷さんがここにいることで張られてる結界ではないから彼女が居なくなっても奴らが入ってくることはないらしいけど。
なんというかこれだけ毎日びっしり浮遊霊が張り付いてるといつびしっと結界に綻び出来てもおかしくないしそっから浮遊霊入って来てもおかしくない気がするんだよなぁ。
って、プレイヤーがいるのか。
なんか結構多いぞ。
それと、稲荷さんがいる場所はプレイヤーたちの中心地か。
どうやら切株を前にして対面の誰かと虫相撲しているようだ。
相撲にすらならないけど稲荷さんアレ好きなんだよなぁ。
大会いつあるのか聞いておくか、そろそろ大会参加フラグありそうだし。
「稲荷さん、本体は何してんの?」
「分体じゃからなー。本体がなにしとるかはわからんのじゃが、あれは月読神と虫相撲しとるんじゃろ」
なるほどー、分体、つか式神は式神のしてることは本体丸わかりだけど式神側からはわからないのか。
でも相手は見たらわかる存在だった、と。
月読様? それってつい最近聞いたことあるな。
「む? おお来たかヒロキとその仲間たち」
あれ、俺の名前すでに知ってる?
まぁ稲荷さんから教わったのかな?
「随分と遅かったな。私の方が先にここについてしまったぞ」
「ええと、どういうことです?」
ぞろぞろやって来た俺たちを見たプレイヤーたちがざわめいている。
シェリーさんとか初見が多いだろうしな。そりゃ話題性抜群か。
「我が社に来ていただろう? こちらに来るような話を聞いていたのでわざわざ現界して来たのだ。稲荷の相手をしていたのだが、まともな勝負にならんでな。少々あいていたとこだ」
「なんじゃとーっ! 勝ち逃げは許さんぞ! そのクワガタ寄こせー、シャーッ!!」
クワガタ?
「ん? ああ。稲荷が勝てばくれてやろうかと思って近場の虫を持ってきたのだ。酸フラッシュカミキリと瞬殺夜光虫、それとゲーミングカラークワガタだな」
うわ気色悪っ。
って、ゲーミングカラークワガタだと! それ、シマエナガライジングがテイムされてもいいっていう条件の虫!
これは幸運! まさか手に入れるフラグが向こうからやって来るとはな!
「ぬおお、ゲーミングカラークワガタではないか! 欲しい、欲しいぞヒロキ!」
そういえば稲荷さんもむっちゃほしいとか言ってたな。
「お主今面倒だと思ったか? 奴だろ! あのクソ鳥にくれてやろうと思っておるじゃろう! 儂にくりゃれ!「くれるなら神本体が参戦してもええんじゃぞ!!」」
ぎゃあぁ!? 稲荷さんが二人になった!?
本体も稲荷さんの隣に来てゲーミングカラークワガタ欲しいとか言い始めやがった!?
ぬ、ぬぐおぉぉ! 究極の選択!? 稲荷さんを選べば稲荷さん本体が味方として参戦してくれるし、シマエナガを選べばあの愛らしい鳥をテイム出来る。
どっちも俺にとっては嬉しい、しかしどちらかしか選べない。
「そこで迷うのはいいのだが、まず私に勝ってから、ではないのか?」
「当然だ!」
って、稲荷さんが応えるのか!?
しかも本体が式神の稲荷さんに交代した!?
「本体はここから動いてないからな、我がチェンソーカブトが貴様の息の根を止めてくれるわ!!」
いや、相手の虫手に入れるんだから殺しちゃだめじゃん!?
そんな俺の思いもむなしく、神対神の真剣勝負が始まった。
「ぬあぁ、なんでじゃーっ!!?」
そしてチェンソーカブト切株から即落下、戦闘開始前の出来事であった。
稲荷さん、不戦敗。
しゃーない。
「ナスさん、やっておしまいなさい!」
「おーけー、月読、やる?」
「む、貴様が相手か。まともに相手してくれるのならば誰でもいい。勝てばこの三種をくれてやる」
今回戦場に出されたのはゲーミングカラークワガタ。
対するナスさんが戦場にだしたのは、ヒメクワガタ。
クワガタ同士の戦いだが、立派な角を持つゲーミングカラークワガタに対し、ヒメクワガタはどう考えてもリーチが足りない。
「それでいいのか?」
「ん。いつでもいい」
んじゃ、司会やりまっす。試合開始ーっ。
「ヒメちゃん、GO」
開始の合図とともに指揮棒を取り出したナスさん。
くるっと棒で指示を出した瞬間だった。
迫りくるゲーミングカラークワガタに向かって一気に突撃するヒメクワガタ。
ゲーミングカラークワガタの鋏がヒメクワガタに襲い掛かる。
しかしその真下を素早く潜り抜けたヒメクワガタはそのままゲーミングカラークワガタの真下へと入り込み思いっきり突き上げる。
って、それカブトムシが使う持ち上げ方!?
ヒメクワガタは鋏が小さい、しかしゼロ距離であれば体を持ち上げれば相手の体ごと持ち上げることはできるようだ。
真下から持ち上げられたゲーミングカラークワガタはあっけなく持ち上げられてひっくり返る。
そんなゲーミングカラークワガタを横から押していくヒメクワガタ。
まるで意思を持っているかのようにナスさんの棒捌きにしたがってゲーミングカラークワガタを切株から落とすのだった。
さすがナスさん。伊達に虫操作260まで上げちゃいねぇや。
 




