851.殲滅力が足りない
「やーっ」
気のない声と共に水が走る。
無数のネズミたちが疾走する水に撥ねられ空を舞う。
シェリーさん意外と強かったんだな。
でもシェリーさん連れてくる必要なかったな。キマリスさんとかルルルルーアさん呼んでりゃ殲滅力が高かったのに、今のメンバーで全体攻撃が可能なメンツはいなさそうだ。
芽里さんはナスさんともども糸を使った高速移動で無数のネズミを切り裂いている。
ツチノコさん二匹は火炎ブレスを交互に吐いて波状攻撃をしている。
稲荷さんと風狐は単体攻撃ではあるモノの周囲に飛び火するような連撃で範囲攻撃を放っていた。
ミツヅリは槍で直線状のネズミを串刺しにするスキルを連発しており、その背中に背中を合わせる形で勇者ブレイドがブレイブバスターを発動しつつ近づく相手を切り裂いている。
俺の傍にいるのは(V)o¥o(V)さん。猟銃ではなくセミオートの銃を使って無数のネズミをハチの巣にしているが、近づかれるとすぐに死にかねないらしいので俺の銃撃に守られる形で安全圏からの狙撃をしているのだ。
唯一、広範囲殲滅魔法を持つローリィさんだが、詠唱に時間がかかる。
無詠唱スキルはあるが広範囲となるとまだ詠唱がいるらしい。
なので、殲滅力一位はやっぱり俺になっているようだ。
レーザーを打ち放つことで手前のネズミばかりか貫通して背後のネズミを纏めて倒せる。
それを両手撃ちで撃ったそばからアイテムボックスに突っ込み新しいレーザーを放つ。これの繰り返しで数多のネズミを駆逐しているのである。
しかし……
全体でまだ千匹くらいしか殲滅出来てない。
敵の総勢力はおおよそ八万四千。正直このままでは俺らが飲まれる方が速い。
コトリさんとかエルエさん連れてくるべきだったかもしれない。
「埒が明かん、鉄鼠を狙うべきだ」
(V)o¥o(V)さんそうはいうけど(V)o¥o(V)さんの攻撃じゃダメージになってなかっただろ。アレを倒すには……そうだ!
「ミツヅリさん、あんた確か確殺攻撃出来ただろ!」
「ん? あ、ああ。できたが……」
「鉄鼠優先で確殺撃破してくれ!」
「あー、ソレは無理だ」
なんでだよ!?
「ヒロキ君は知らないか? 前回イベントで確殺スキル多用でコトリさん撃破しまくっただろ。あのイベントの後ボスキャラが確殺されるのは如何なモノか、とかいう運営のコメントが出てナーフされたんだ」
「マジかよ」
「サイレント修正だったから確殺持ちだけがスキルの仕様変更で気付いたんだけどさ」
えげつねぇ、運営えげつねぇよ。でも確かに確殺スキルは強すぎるもんな。一発当てればボスキャラ撃破とかないわ。
そりゃゲームバランス壊しまくるからナーフされるわな。
「確殺可能なのは普通の敵のみ、ボスには無効、つまり鉄鼠には効かないんだ」
「何もこんな時にナーフせんでも、こいつの後でよかったじゃん。ええい、殲滅力が足りん!」
「師匠……」
「仕方ない。ヒロキ、死人使う」
「ナスさん? そうか! 頼んだナスさん!」
「ん。死者よ甦れ、今回疫病は無しで。バイオハザード!!」
先ほど倒しまくった鼠たちが起き上がる。
ゾンビ鼠がネズミへと襲い掛かり、襲われたネズミが死亡、ゾンビ鼠となって蘇る。
「チュチュ!?」
鉄鼠もさすがにこれは想定外だったらしい。
「空想糸結び」
さらにナスさんは空へと舞い上がり、両手で何かを編み始める。
「少し時間いる。守って」
―― お、お前たち! 奴だ! 何かヤバいぞ奴を食い殺せ! ――
ネズミたちに指示を出す鉄鼠。
しかし空中に糸で浮かんだナスさんを食い殺せるようなネズミはいない。
残念ながらネズミは地を這うだけ、空へは上がれないのである。
「蜘蛛の子殺し」
ナスさんが糸を引く。遠く離れたネズミたちが一瞬で切り刻まれた。
え、何今の!? 広範囲攻撃、ナスさんも出来たの!?
「大魔法行くわ! エクスプロージョン!」
ちょ、爆破魔法とか何考えてんのローリィさん!?
俺は慌てて(V)o¥o(V)さんを地面に蹴転がす。
ローリィさんを中心に膨れ広がる爆炎魔法。
ナスさんが慌ててさらなる空中へと逃げていくのを視界の隅に捉え、俺は地に伏せる。
刹那、音が消え去った。
ぐおぉ!? 振動、振動が凄い。でもダメージ来てない?
「ヒロキ、どうやら味方にダメージは入らない魔法のようだぞ」
俺と一緒に地に伏せた(V)o¥o(V)さんが一早く気付いて立ち上がる。
マジか? じゃあ逃げる必要ないのか。でもローリィさん一言説明欲しかったんですが。
爆炎が周囲を覆い尽くしている。
ネズミたちの姿は爆炎の向こう側だ。
俺も(V)o¥o(V)さんも警戒しながら爆煙が晴れるのを待つ。
晴れる爆煙の先には……ネズミの群れが、健在だった。




