847.大切な泉を探して3
だんだんと神聖な気配が強まっていく。
森もどこか神秘的な気配を纏い始め、出現する敵も光や聖属性の敵性生物が増えていく。
さらに、オーブっぽい光り輝く小さな玉が飛び交い始めた。
森が、輝いてやがる……
緑の森は今や白く輝く森へと変化していた。
明らかにおかしいのは見て分かるんだけど……
出現する敵も様変わり。
光る鹿に光を纏うイノシシ、空飛ぶ兎に輝くシマエナガ。
シマエナガってめっちゃ可愛いな。アレ一匹捕獲していいかな? 稲荷さん虫取り網貸して。
空から突撃してきたシマエナガを虫取り網に突撃させるように誘導し、そのまま力を流すように真下を通ってくるりと回転。相手の落下威力を受け流して捕獲、一回転して地面に落とす。
おお、ばたばた激しくのたうってやがる。残念だったな、お前はもう籠の仲の鳥よ。
稲荷さんの虫かごにシマエナガを確保。
これってテイム出来るの? 無理? とりあえず飼いたいんだけど?
稲荷さんなんかこう、良い感じの何かできない?
「儂なんでもできるような存在じゃないぞえ。鳥のことじゃし天狗にでも聞いたらどうじゃ」
シマエナガって凄く小さくて可愛いよな。
現実じゃ飼えないからこっちで買いたいんだ。あとで鳥かご買って置こう。
虫かごだからか凄く不満そうにしてるシマエナガ。一応名前としてはシマエナガライジングという生物らしい。
どの辺りがライジングなのかは知らないけど、とりあえず飛び上がると光り輝くようだ。
「お、ようやく上流に辿り着いたっぽい」
「ここが源泉とか言う奴か?」
「石清水って奴だな。山の一部から水が湧きだしてるん……なぁにあれ」
湧き出た水が神社を通って煌めく水源へと変化してそのまま流れている。
まるで浄化機関だ。
「小型の神社?」
「凄いな、ここを通った湧水が全部神聖なものになってる」
「水天神系の神社だな。ふむ……ちょうどディーネがおるなら挨拶しておいても悪いことにはならんぞ。むしろ良いかもしれん」
んじゃまとりあえずお参りしようぜローリィさん。
「はいはい、ご縁がありますようにー」
ところでディーネさんはいつまでこっちいるの? ダンス練習とかよかったの?
「今日はほら、四日連続にならないように休みの日。ピアノの呪い解きの日なのよ」
ああ、怪異系のスキルか。アレ地味に面倒だよな、こういう時。
「おりょ? あら? 何か体が?」
ディーネさんの体が光り輝きだす。
あ、これ浄化されとる。神聖水とでも呼ぶべき水で構成された体になったようだ。
「ありゃー、マネージャーさん、ディーネ神聖化しちゃってるんだけど」
「ふむ、本人は出てこんみたいじゃな。しかし加護は与えてくれたようじゃ」
「へー。せっかくだし皆もお参りしときなよ。ありがたやありがたや」
俺の言葉が終るより早く皆お参りを開始する。
御利益はありそうだな。
「ヒロキ、せっかくじゃし、ここの水汲んでおこう。神聖水か聖水になっておるはずじゃ。アンデッド系に利く水になっとるはずじゃぞ」
「へー、じゃあお言葉に甘えて……なぁ稲荷さん」
「なんじゃ?」
「変若水とかいうのになってんだけど?」
「ををぅ!? そんな馬鹿な!? 神聖神聖と思うておったが。まさかここの神社、月読の系列か!?」
月読って言ったら月読命? あの天照大神と素戔嗚と兄弟の?
え、それってすげー神様の神社じゃね?
とりあえず拝もう。スキル使ってめっちゃ拝んどこう。
ドール討伐でこの世界が終ったりしませんように。
「あら?」
どうした芽里さん? ん? 何持ってんの?
「さっき空から降って来たの。何かと思ったけど、これもしかして生きてる糸?」
まさかここで謎の糸が出てくるの!?
「ふふ、月読様にお祈りしたおかげかしら」
ともかく芽里さんの強化スキルは残り一つ。絡繰り手引書とかいうのを読破するだけだ。
どっかの図書館にあるんだろうか?
すっげぇ、勝手にくねくねしてるぞあの糸。
ちゃんと意志通りに動くのソレ?
「ものさえあればあとはナス師匠に教えを乞うわ」
なるほどね。でも今は邪魔になるっしょ。アイテムボックスしまっとくよ?
芽里さんもさすがに生きてる糸を連れ歩く気はないらしい。素直に俺に手渡してきたのでアイテムボックスに放り込んでおく。
シマエナガは……やっぱりアイテムボックスには入れられないか。敵だもんな一応。
あ、そうだ。この水飲む?
「ジュルル」
お、飲んだ。虫かごに器入れたら普通に飲んだな。
というか、ついさっきまで稲荷さんが捕らえていた昆虫の小さい奴、捕食されてね?
「あれ? のぅ、なんか虫かごの中の虫、減っとらんか?」
「気のせいじゃねーかな」
うん、気付かなかったことにしよう、シマエナガが食ったと分かったら放逐しそうだし。
現実世界じゃ野鳥保護法だかで飼えないからな、ここでなんとかテイムするか飼えるようにしてやらないと。この愛らしい姿。映像撮るだけでバズるぞ絶対。




