843.ご近所さんにお願い7
「おー、安もんだが酒は好きだ!」
適当に買って来たお酒を奉納する。
酒吞さんは基本酒を送れば上機嫌だからな。キレたら怖いし突然ブチ切れするけど、そういう時もある程度どうすればいいかは部下の鬼たちに教えて貰ってる。
「おいヒロキ、飲まないなら酌してくれや! 首領もそれならいいだろ?」
「ったく虎熊はヒロキに酌させるの好きだな。いいかヒロキ?」
「あのおっさん、やらないと癇癪起こすだろ。酒注ぐくらいはしてやんよ。それより、話聞いてくれよ酒吞さん」
「話なぁ。まぁ聞くだけなら酒の肴になるかぁ」
新たな酒を脇に置き、茨木さんを自分の胡坐の上に座らせると、小柄な茨木さんを抱きしめながら一升瓶をぐい飲みする酒吞さん。
俺は虎熊さんのお酒を注いでやると、酒吞さんに尋ねる。
「とりあえず聞きたいことは二つなんだけど。十種神宝と英雄とかの神剣、魔剣の場所、知りません?」
「ほーぅ、なんぞまたイベントとやらかぁ? 神宝なんぞ欲しいとは」
「いやさ、ファラオさんにも言ったんだけど、この前黄泉比良坂行ったらシコメさんをテイムしちゃって。どうせなら復活させられないかな、と」
「あー、なんか聞いたことあるな。勾玉四つで復活できるんだっけか? んー。ウチにあるのはなぁ、おい金、話聞いてたか?」
「ええ。ウチにあるのは蛇比礼ですね。物質的な障害を追い払い、身を守ることができるスカーフといった奴です」
酒吞さんが八岐大蛇の子説があるから蛇比礼かな?
残念だけど貰っても使い道はあまりなさそうな、いや障害を払えるのは凄いけど。
「あー、その顔、いらないなとか考えてるだろ! このオレ様の宝を屑鉄みたいな扱いしやがって! ええい分かった! ならばお前に教えてやる! 鬼の宝の一つ、名剣童子切安綱だ!」
ばばーんとどこからともなく取り出された刀。それって酒吞さん斬り殺した刀じゃなかったっけ?
「どうだ! ヒロキよ、この武器が望みであろう!」
んー。これは名刀ではあるけど神剣でも魔剣でもないようだ?
「んー」
「首領。どうもヒロキの反応がいまいちですぜ」
「ぬぅ、ならばこの神便鬼毒酒」
「それって酒吞さん暗殺用の酒では?」
「なんでオレ様が持ってんの?」
それ俺に聞かれても答えられんぞ。
「んーむ。オレ様の持ち物ではお前の欲しいもんはなさそうだな」
「首領、アレはどうです? 祠の奥の」
「あん? 星熊、何を……ああ! あれか! そこの洞窟の奥に神社があってな! 鬼岳稲荷山神社
と呼ばれておるんだが、そこになんぞ武器が奉納されとったぞ!」
え。稲荷、神社ぁ!? え、ここにも神社あるの!? すぐ傍に二つも!?
「お、顔色変えたな! しっしっし、ええぞええぞ、中に入ることを許そう!」
酒吞さんの許可を得て、俺たちは岩の洞窟へと向かう。
ここは入ったことないからちょっと不安だな。なんか敵とか出てこない?
あ、全然狭いわ。
少し通路があっただけで、あとは鬼が全員集まれるだけの広場と、その先に神社の社が一つ。
俺たちが近づくと、狐顔の少女が巫女服を着て現れる。
煙が生まれてドロンっという感じで俺たちの前に出現したので思わず戦闘態勢になったけど、敵意を感じないので戦うイベントではないのだろう。
「ご機嫌よう稲荷神様」
「ここの御使いかの、ごきげんようなのじゃ」
「鬼岳稲荷山の稲荷です。ここでは稲荷と鬼を祀っております。御用は?」
「お参りと御朱印レースかな。ほらこれ」
「稲荷の御朱印ですか。ここに来るのは珍しいですね。10の御朱印を集めるだけなので他の有名神社を回っていればすぐに溜まるのですが。なるほど一葉から始めたのですね」
なんか口調がめっちゃ丁寧だこの稲荷。
「ではお参りの間に御朱印を持ってまいります。鬼系神社の御朱印巡りもされるのであればそちらの用紙もお持ちしますが?」
「あ、じゃあ人数分お願いします」
再び四十五円を取り出しお賽銭。
ローリィさんも神社巡りがスキル習得になるので率先してお参りする。
しかし、そうか、御朱印巡りイベントも白兎、稲荷、鬼、あと蛇もあるんだろう。他にもあるんだろうか? シーサー系とか? 狛犬系もあるかも。つまりその分神社がこの世界に存在するってことか。となるとローリィさんのスキル習得イベントは途中で止めとかないと今日中に終わりそうにはないな。
神社が多すぎる。後で神社関連どこにあるか探ってみるか。どっかの設定厨が纏めてんだろ。
ハンコを付け終え、俺たちは巫女さんに尋ねることにする。
神剣、あるいは魔剣関連持ってないかな、と。
一応ここにあると聞きはしたけれど。
「ああ、あの神社内に立てかけられてる奴ですか? 昔に人間の男がそこに置いて行ったのです。もう使わないから、いつか必要とする奴の為に置いていく、と」
ってことはやっぱり武器か。
「蚯蚓絶と言うそうです」
うん、覗き見える武器、あれ斧ですわ。稲荷全然関係ねぇ!?




