83.吸血洋館『ドラクル』
扉はライオンの頭にドアノッカーが付いた観音開き。
その片方を少女が背伸びしてドアノッカーを手にして二度、鳴らす。
「すいませーん、ドワーフ鍛冶屋『へファイ』よりデュラハン様にお届けモノです」
少女が告げてしばし、ぎぃっと扉が開かれ、青白い顔のお爺さんがゆらり、ドアの隙間から覗いて来る。
こっわ。
『これ、いいわね。ドアの隙間から覗くの』
どっかの映画にあったな。確かに恐いけど肝試しでこれ、使えるか?
「少し、お待ちください。ところで、後ろの人間は?」
「あ、俺は護衛っす」
「……ここは他言無用に願います」
「あ、はい」
これ、画像として残しちゃダメっぽいな。
あと人外相手だし、なんか安心できる称号に変えとくか。
えーとなにがあったっけ?
とりあえず河童の知り合いとか? もう一つは……蛇神憑きとかでどうだろう?
ユニコーンの友? 変態の仲間とか心証悪くなるだけだろ。
「おや、その称号は……成る程、秘匿性の高い河童の知り合いであるならば口は堅そうですな。安心しました」
よかった。称号合ってたっぽい。
執事さんが引っ込んでしばし。呼ばれて来たらしい存在が扉を開いて現れる。
おお、見事に首無し甲冑だ。小脇に抱えられてるのは綺麗なお姉さんの首。
つまり女性型デュラハンだこの人。
「わざわざすまんな」
「いえ。ご要望の品です。お確かめ下さい」
「ふむ。良い仕事だ。さすがはへファイストスだな」
それって鍛冶の神様じゃね? なんか聞いたことあるぞ。
「名前を名乗ってるだけですよぅ、お父さんなんて名前負けしてますし」
「うむ、これが報酬となる。収めてくれ」
あの首、凄く邪魔そうだなぁ。報酬渡すのも剣振るうのも片手が首持ちに使われているので面倒そうだ。
「まいどどもう、です」
「で、そこの人間共は何用でここへ?」
「あ、付き添いです。目的は鍛冶屋でユニコーンロッド作ってほしいので同行してます」
「あ、はは。道中変な怪人に邪魔されてたのを助けてくれたんです」
「そうか。この地の平穏を乱さぬのであればよい」
了解、逆らいませんッ。
なんか見るからに強者だし。せっかく作られたドワーフの武器による試し斬りとかされたくないから一度この近辺からは離れるべきだろう。
ドワーフ娘ともどもさっさと帰ろうか。
屋敷を後にした俺達は再び路地裏を歩いて戻る。
どうやら帰りはさすがに奴等出てこないらしい。
ホントにただの鍛冶屋の娘さん遭遇イベントのお邪魔キャラでしかなかったようだ。
「いやーほんと助かりました」
「こっちも目的のついでだったしね。しかし凄い場所だったな、あの洋館」
「吸血洋館ドラクルというらしいですよ。なんでも吸血鬼のオジサマが館の主なのだそうです。怒らせると門の前に串刺し死体として並べられるって聞いてますからあまり変な事考えちゃだめですよ」
「何か用事があった場合以外は近づかないよ、さすがに命が惜しいし」
その内辿りつかなきゃいけない場所だったかもしれないけど今の段階では不要だろうから見なかった事にする位の方が良さそうだ。
裏鍛冶屋通りへと戻ってくると、ドワーフ娘が率先して俺達を誘う。
入る場所をしっかりと覚えてマップに記入。
あとは家の主と契約出来れば万々歳だな。
「ただいまー」
「遅かったな」
「ちょっといつもの道に怪人さんが沸いてて」
怪人って沸くんだ……虫扱いかな?
「む?」
「こちらのお兄さん達が助けてくれたの」
カウンターから顔を出していた髭もじゃのおっさんが鋭い目で俺を睨み付ける。
「そうか」
「この人たちお父さんに武器打って貰いたいらしくてね、ついでだからって配達も手伝って貰っちゃった」
「そうか」
会話が続かないタイプの頑固親父だこのドワーフ。
ドワーフだからだろう。背丈は子供くらいなので、人間用カウンターに合うように長い椅子の上に座って背丈を嵩増ししているようだ。
腕が丸太みたいな筋肉で出来てるから俺位なら軽くひねれる実力持ちだろう。
下手に逆らっても意味が無いのである程度はこちらが下手に出た方がいいかも、いや、それよりも対等な関係を気付いた方がいいか。
「娘が世話になったらしいな」
「行がけの駄賃だ。貴方を紹介して貰えるかと打算してね。怪人や戦闘員が邪魔していたから手伝っただけだよ。さすがに彼女一人だと荷物が奪われるかもと愚考したものでね」
「そうかい。で、何が欲しい?」
武器か? 防具か?
「本来なら人間なんぞにはやらんが、娘の恩人だ、一度だけ打ってやる」
おっと一度だけか。
「一度だけでも恩の字か。じゃあ、こいつを頼む」
カウンターに持って行ったのはユニコーンの角だ。
「ユニコーンロッドだっけ? それを作ってほしい」
「聖獣を狩ったのか、なんと罪深い……いや、これはっ!?」
憎しみの籠った眼で睨まれ思わず焦る。
が、次の瞬間職人は気付いた。
慌てて二つ名をユニコーンの友に入れ変える。
「ユニコーンに認められたのか!? 人間の、男が!?」
「どうだろう?」
「……いいだろう。受けてやる。金もいらん。ただ、こいつを俺に打たせてくれ」
金、要らないのッ!? さすがにそれは……
「ねぇねぇマネージャーさん、ディーネのマイクはー」
「あー、それは……ドワーフさん。悪いんだが、他に俺らでも作ってくれそうな鍛冶屋知らないか?」
「精霊だと!? ああ、いや。ちょっと待て。マイクが欲しいのか?」
「せっかくなら鍛冶屋で専用マイク打って貰おうかと思ってさ、防水仕様か水の中でも使える奴を」
「つくづく変わった人間だな。はぁ……わかった。お前さんならいいだろ」
「ん?」
「俺が契約してやる。どうする小僧? 契約は一度きりだ。俺と契約すりゃ鍛冶関連は全て俺のとこ持ってこねぇと武器・防具が作れなくなるぜ?」
「契約、いいのかよ? じゃあ迷う必要はなさそうだ。あんたと専属契約だ」
ドワーフが腕を差し出して来る。
これはおそらく握手だな。
「契約成立だ。俺ァドワーフ鍛冶屋『へファイ』の主人ヘファイストス。さっきの娘がファイだ」
「俺はヒロキだ。契約ありがと。贔屓にさせて貰うよ」
人外鍛冶屋と誼が出来たのって俺が一番じゃなかろうか?




