828.男子高校七不思議13
俺たちは屋上へとやって来た。
正直ここへくるまでどれくらいの敵が出てくるかと思っていたのだが、まさかの一切敵エネミー出現ゼロという驚きのステージだった。
男子校には幽霊はそこまで出てこないようだ。
なので俺たちは何かしらの足止めもなく普通に屋上までやってこれていた。
時折視界に映るオギャるおっさんがちょっと目の毒だけど、それ以外はほんとに何もなかった。
コンクリート製の屋上には、フェンスも何もなく、目の前にあるのは一つだけ。
手作り感満載の掘っ立て小屋だった。
掘っ立て小屋といっても地面に柱がめり込んでいるわけではなく、素人が建てた簡易な小屋という奴だ。
人が一人入れる程度の造りで、木製のそれが、ナナシさんの家であるらしい。
ただ、見た感じ、生活感ゼロだぞこれ?
俺は隣のナナシさんを見る。
名前のない美少女にしか見えない男の娘。
なぜか胸もあり、俺に好意を寄せてるらしい。
うん。意味が分からん。なぜダイスケじゃなく俺なのか?
まるで運営が俺用に用意したかのようなおあつらえ感がある。
「中入っても?」
「どぞどぞ」
家の持ち主が許可したので俺たちは小屋を覗いてみる。
人が一人、寝泊まりできるだけのスペースはある。
しかしベッドもなければ布団もない。
これでは野宿と大差ないのではないだろうか?
「ここに、寝泊まり?」
「そだよ? 何か問題?」
問題と言うか、問題しかないというか。
これ、食事どうしてんの?
「ねぇナナシさん、食事はどうしてるの? カップ麺とかでも残骸ないし」
「え? それは……」
ん? どうした? 小声で何かつぶやきだした?
「食事? 食事は。しょしょしょしょしょしししししししししししし……」
あ、これまさか……
「どうしたんです? 私の問いそんな考えることじゃ……」
「あー、そうだナナシさんや。体、そう体はどこで洗ってるんだーい」
「え? えーっとそこにある蛇口?」
屋上への階段を囲ってある壁の屋上側に蛇口が一つ。
そこにレモン石鹸がぶら下がっている。
なるほど、ここを使っていると、どこのグレートなティーチャーかな?
「あの、私の質問は? 食事はどうや「おっとナナシさん、ダイスケとちょっと遊んでやってきてくれないか?」」
格ゲー少女の言葉を手で制し、俺はナナシさんにお願いする。
わざとらしいお願いだったが、ナナシさんも理解はしたようで、おとなしくダイスケの元へと向かっていった。
「ちょっとヒロキさん、なんで遮るんです? 私の質問何かダメでした?」
「ああ、ダメっぽい。なので格ゲー少女とタツキ君、あとモヒカンの代表者集まって」
と、代表者にだけ伝えようと思ったんだけどハナコさんたちまで寄って来た。
まぁ、いいか。
「さっき格ゲー少女が尋ねたことでナナシさんはパラドックスに陥った。いや、パラドックスというか矛盾の方が正しいのか? なんていうんだこの場合?」
「どういうことです?」
「おそらくだが、ここでナナシさんが生活した事実がないんだ」
皆何を言ってんだって顔で小首をかしげている。
「ようするに、名もなき美少女みたいな男性が夜の校舎にいるという七不思議がある。それに辻褄を合わせるために造られたのがここの小屋だ。つまり彼の出現が先でここで生活しているという設定が後付けなんだ」
「それって……」
「だからここで彼は生活してない。つまり彼はここで食事をした覚えがない、だからしていない食事内容を聞かれても答えられずAIはパニックを起こしかけていた」
「じゃあ、私の質問無視したわけではなくて……」
「答えがなかったから答えられなかったんだ。そのためここは確かに小屋があるけど寝泊まりした形跡がない。つまり小屋というデータがあるだけの場所だ」
「それじゃ、ナナシさんって……」
まずナナシさんという怪異が存在した。それを補完するためにいろいろと後付けが造られた。
つまり、七不思議の本当の噂は、名もなき美少女が男子校にいる、ここから始まっただけで、後はそれを違和感がないようこの世界に落とし込むためにAIや運営が後付けで家を作って今まで生活してました、とか夜中に彼がいても問題はないですよ。という、いや、もしかしてこれは俺たちの願望が彼を形作っている?
女性みたいな存在だけどこの男子校にいるなら女子じゃなく男子だろという集団的思い込み。
そしているならどうしてここにいるのか、学校住まいだったら問題はないよな? という思い込み。
俺たち自身で彼を形作ってる? もしそれが本当だったなら……ダイスケ以外全員ここにいるし、やってみるか。
「皆ちょっとお願いしていいか?」
俺はちょいと簡単な思い込みを皆に伝えた。
やるだけならタダだし、そんなことありえないとは思うけど。やってみる価値はあるはずだ。
「ナナシさんは実は本当に女の子だった!!」
俺たちは、俺の言葉で一斉に同じことを思う。
それが本当に起こるか否か、どうだ、名もなき七不思議!




