822.男子高校七不思議7
「フーアユー!」
「日本語喋れや!」
白衣の医者っぽい幽霊が何か叫ぶ。
意味が分からなかったのでダイスケが走り込んで拳を一撃。
吹き飛んだ白衣と入れ替わりに手術台にやって来たタツキとキョウカが手早くアパポテトの拘束を解いていく。
ヒナギさんとアミノサンは応援係なのか。
アミノサンよ、もうちょっと抑揚付けよ? いやいややってるようにしか見えないよ。
「アパポテト、無事か!?」
「た、タツキ、ヤベェよ、あいつら僕の目玉くり抜こうとして来やがった!」
なにそれ怖い。
運営さん、過度の恐怖をプレイヤーに与えるのは不味いって、確かVR法だかに引っかかる奴だよね。
その辺り大丈夫? やらかしてない?
ここで目玉くり抜きとかプレイヤーに行ったら大変なことになってたね。
絶対トラウマになるし、ダメージなかったとしてもやっていい奴じゃないだろ。
ま、まぁとにかく無事でよかったわ。
最悪でも殺されてるだけだと思ったらまさかの検体にされかけとか。
絶対ヤバすぎる奴だから運営に抗議だ。
「おのれ貴様等! 何者だ!」
おっと、意外とはっきりとした声だな。
霊体ってよりはエクトプラズム体って奴か。
実体がある霊体と思った方がいいだろう。
「何者だろうがどうでもいいだろ! テメェは俺を怒らせた!」
ダイスケ、それ言っちゃうの!?
「ええい、貴様が怒ろうがどうでもよい、検体を返せ! 米国の捕虜は我らが検体となる運命なのだ!」
米国? ああそっか。こいつら日本兵の亡霊は第二次世界大戦時の奴らになるのか。
あの頃の日本はアメリカと戦争を行っていたため、捕虜の尋問なども行っていたはずだ。
つまりここは、捕虜尋問施設!?
ダイスケと霊体が激闘を繰り広げる。
いや、メスで戦うとか近接過ぎないか?
しかもダイスケの馬鹿は拳で応えてるし。
なんでわざわざ相手のリーチに合わせてるんだ?
あんなもん遠距離からレーザーぶっぱで一撃だろ。
まぁ楽しそうだから放置しておこう。
えーっと、この部屋の気になる場所は……ないか。
あくまで秘密の地下室ってだけの場所らしい。
体験出来たらそれでもう使われることのない場所なんだろう。
他のプレイヤーが間違って潜り込んだりして大変ことになったとしても、自己責任だ。
さっさとあの医者みたいな幽霊ぶっ倒して外出ようぜ。
っておい、ダイスケ、いい加減ぶっ倒せって!
あっ。
メスを避け損ねたダイスケの頬に一筋の傷が入る。
それに気付いたタツキがフォローに入る。
背後から切りつけられた霊が隙を見せ、そこにダイスケ渾身の拳が突き刺さる。
お、クリティカル入った。
「ぐ、おおおおおおおおぉぉぉ!?」
なんか呪詛みたいに叫んでそのまま消失する霊。
最初から最後まで不快な存在だったな。
「とりあえず、これで七不思議の四つまで終わった、のか?」
「そうなりますね。次は音が鳴る下足ロッカーなんですけど、今まで聞きませんでしたね」
しばらく同じ場所に居たらなるんじゃないかな?
とりあえず下足場に戻ってみようぜ。
地下施設にはもう用はないだろうし。
「あら?」
「どったのテケテケさん?」
「ふふ、なんだか変なスキル手に入れたわ。日本兵の方、私のスキルメイトだったみたい」
スキルメイトって。
まぁいいや。つまりここ、地下施設は関係なく、日本兵側のスキルを手に入れたようだ。
よくわからないが本人が納得しているようなので、ほーぅ。と頷いて地下施設から外に出る。
夜の校舎を歩き、下足場へ。
もう三回くらい通り過ぎてるけど、音なってたか?
「さて、と。音が鳴るロッカーが出るまでここで休憩かな」
「皆お疲れー。日本兵って結構怖いね」
そういえばナナシさんは初めてアレ見たんだっけ。
この学校で生活してるのに今まで出会ったことないって、それはそれで珍しいよな。
あと、あの骸骨に一切出会ってないのも気になる。
しかし幽霊という感じは一切しないし、油断した顔で接したりしてるけど裏切って俺を殺しに来る気配もない。
これでスパイか何かだと言われたらもう、ナナシさんは傾国の美少年か何かだと思われる。
「今のうちに座っとこう」
「あー、疲れた」
「ってかモヒカンたち、そのヤンキー座りは休憩に入らんだろ」
むしろ余計疲れそうな気がするんだが?
まぁ本人的に気が休まるならそのままでいいと思うけど。
しかもなぜか金属バットやらチェーンやらを出して座り方とポーズ整え悪役感丸出しになってるし。
コンビニで屯ってるやられ役かな?
それにしても、ならないな音。
そうなってんだ? ここじゃないのか?
ここじゃないとすると……職員玄関?
なるほど、そっちならまだ遭遇していない理由も納得できるか。




