820.男子高校七不思議5
「せっかくだし、君、名前付けてよ?」
なんで俺!?
えー、まぁ確かに呼びにくいか。
名前ないんだろ。えーっと英語で名前無しはジョンドゥ、あるいはジェーンドゥ。
日本語だと、ナナシの権兵衛……さすがにそれは……
「まぁ妥当にナナシさん、かなぁ」
―― ナナシが愛人枠としてテイムされました! やったね! ――
おい、止めろ! あれは男。俺のテイムキャラは女性で統一……元男とか性別不明とかいるけど、基本女性で統一されてんだから男の娘とか入れんなよ!
―― 娘入ってるからセーフ、よし、通れ! ――
通るな!?
なんなのこの天からの声は!?
テイムしないって、しないってば、しないの! あ、イエスかはい、しか選択肢が消えた!?
「あはは。まぁ冗談だとしても、今日くらいは一緒にいてもいいかな? ボクも七巡りしてみたいんだよね、だめ?」
「ダメではないけども。まぁ七不思議体験終わるまでならいいか」
「お、話が分かるね、そういう人、ボク好きだよ?」
って、おい!? なんで腕に絡まる!?
ひぃ、なんか凄く良い匂いが!?
なんで胸の感触あるの!?
「男ですよね!?」
「ん? そうだよ? ああ、胸のこと? 男でも胸おっきくなる人いるでしょ? ボクそれみたいなんだよね。ふっふーん。柔らかいだろー?」
やめてぇ。俺はダイスケとは違うんだよ。
ほら見ろ、ダイスケから俺の女に何してんだテメェっていう嫉妬の炎がこっちに来てるだろ。
っていうかお前こいつが女じゃないってわかっても嫉妬すんのかよ。
「いや、違うんだ。なんかこう、もやっとするというか、自分の理想的な女性が他の男になびいているような、なんだろうなこのNTR感? 俺は今、ヒロキさんを殺したくてたまらねぇぜ!」
マジになんなよ!? 別に男同士でもいいと思うぞ。ほら、ナナシさんもダイスケに抱き着いてやれって。
「えー、しょうがないなー」
「ふお!? ち、違う、俺は違うんだ! 違うんだァ!!」
びっくーんと棒立ちになったダイスケ。腕に美少年が絡みついてきただけなのに凄い反応だな。
慌てて違うんだとか叫びながら振り払う。
ひゃんっと吹っ飛ばされたナナシさん、予想はしてたので倒れ伏す前になんとか受け止める。
「あ、ありがと」
「冗談なのに凄い反応だったな」
「あはは、これはこれで面白いんだけどねー。可哀想だからやっぱりからかうならヒロキ君だね」
なんで俺なの!?
「ちょっとボクっ子被り! ボクが先に見つけた少年君だぞー」
あれ? なんでキマリスさんが俺を取り合おうとしてるんですかね?
『あはは。両手に華だねーヒロキ』
待ってハナコさん、こいつら両方ツイてるんです! 女性じゃないんですよ! だから両手に華じゃないんだよ!
「はいはい、次に行こうねー。次ってなんでしたっけ?」
「えーっと。って、待って。何それ?」
格ゲー少女がタツキ君に促し、次の場所へと移動しようとした時だった。
タツキ君がふと見たのは、アミノサンに抱かれた状態の人面犬。
声に反応して俺たちもそれを見る。
イケメンが、いた。
いや、イケメンというか、ナナシさんの顔だけパクってパグの体へと挿げ替えたような、美少年型人面犬、だとぉ!?
「え、ナニコレ?」
「可愛くない……」
美少年犬に変化したらしい人面犬だが、アミノサンからは超絶不評だった。
嫌悪感丸出しの顔で人面犬を地面に降ろすと興味なくした、とばかりに次の七不思議向けて歩き出す。
「ええ、ちょい待ってぇな、なんか身綺麗になったんに拒絶感マシマシやん!?」
「そりゃそうだろ。アミノサンが気に入ってたのはオッサン顔の人面犬だぜ? それが美少年顔になったら気に入らないの当然だろ?」
「嘘やん!? こんな可愛くなったんやで! おっちゃんカワイイってむしろメスにベタ惚れやろ普通!」
「いや、美少年の顔に犬の体とか逆にキモい」
「ちょっと、おっさん顔の方がまだ見れた気が……」
「違和感がドぎつい」
散々な言われようだ。可哀想に。
「なんでやー!? 上位存在なったはずやのにむしろ嫌がられとる!? ええいもう、これでええか!」
あ、元のおっさん顔に戻った。
「うん、やっぱり人面犬はそれが一番」
アミノサンが踵を返して戻ってくると、おっさん顔のキモ可愛犬を抱き上げる。
ふんす、とお気に入りの犬が戻って来たことをどや顔で表現するアミノサン。
もともと顔の表情は死んでる方なので表情筋は変化してないが、ドヤっているのは雰囲気で理解できる。
しかし、まさかのナナシさんが人面犬の強化イベントになっているとは。全然似合わんな。
待てよ、ナナシさんテイムしたってことは人面犬と同じ七不思議を回ればナナシさんを強化できるってことでは? というか、この人テイムしちゃったのか、それともただの冗談だったのか、どっちだ?




