819.男子高校七不思議4
「気を取り直して、美少女の居る教室に向かおうか」
トイレショックによりしばらく立ち直れなかった俺だったが、なんとか心の傷は致命傷で終わった。
うん? 致命傷はアウトか、じゃあ一歩手前くらいだな。うん。
「美少女とかいってるけど、ここって男子校ですよね?」
「だからおそらくだけど女装系男子だと思うけど。夜にいるかな?」
まぁいるんだろうな。七不思議は基本夜中だし。
えーっと教室内にいるんだよな。
ここ浮遊霊がいないから聞くのも出来ないんだよなぁ。
『あ、ソレは大丈夫よヒロキ、さっき太郎に聞いておいたから』
呼び捨て、だとぉ!? がはぁっ!?
「えぇ、吐血した!?」
「ダイスケさんよぉ、違うぜ。こりゃトマトケチャップだ」
わざわざ用意しました。こんな使いどころあるんじゃないかって。
「食べ物粗末にしないでください」
えぇ、そっちで怒られるの!?
格ゲー少女に怒られる俺。
一緒に吐血するためか、ケチャップ受け取ってたモヒカンまで一緒に怒られていた。
「ハナコさんも、ヒロキさんのリアクションが見たいからって変な思わせ言わないでください。いちいちリアクション取るから全然進まないですよ」
それが俺らの歩行スピードなんだけど……いえ、なんでもありません。行きましょう、今すぐにっ。
『あそこの教室にいるらしいわ』
「へぇ、あそこの……おー、髪なっげ」
教室には一人の人間。
スカートとブラウス姿の見るからに女性としか思えない存在が机の一つに座り、夜空を見上げていた。
綺麗な金髪のストレートヘアを時折手の甲で手直ししている姿はとても儚く物憂げで、蠱惑的な何かがあった。
「……可憐だ」
ダイスケ?
「あー、あれはダメだ。ダイスケの理想の彼女に瓜二つだ」
なんだその理想の彼女って。
タツキ君に尋ねてみれば、どうやら付き合うならどんな彼女がいい? という話で前に盛り上がったそうだ。
金髪の綺麗な美少女。高校生くらいならなお良し。とかいうのがダイスケの彼女感だそうだ。
そこら中にいるだろ金髪女子くらい。
というかこいつの実年齢いくらだ? 三十越えてるのに高校生相手とか言ってるならロリ確定だぞ?
……いや、アバターはともかく実年齢は推察せまい。
それは地獄への一本道。誰も幸せにならない結末しかない。
「お邪魔しやーす」
とはいえ、ダイスケが動かないからってそこで俺らも立ち止まっている訳にもいかないので、さっさと教室に侵入する。
「え? ああ、夜の学園に来たってことは七不思議の探索?」
くぅぅ、声まで女の子っぽいじゃないか。
振り向いてきた彼女は完璧なほどに美少女だった。
若干だけど胸、あるか? あるな。小山が出来てる。
パッドじゃなければ確実に胸だ。女の子、なのか?
「七不思議探索隊っす。男子校なのに美少女がいるっていう七不思議は君でいいのかな?」
「そう、なるかな。でもボクはほら、見てわかると思うんだけど……」
いや、見てわからんよ。普通に美少女じゃん。
「あ、あの、す、す、好きです! 付き合ってくれ」
えぇ、ダイスケ落ち着け。男子校にいる怪異だぞ。さすがに後先考えずの告白は……
「ふふ、ボクなんかでいいの?」
机から飛び降り、美少女はダイスケの元へとやってくる。
背丈は140くらいか。小柄だから美少女と言われてもしっくりくるんだけど。
歩き方で理解した。こいつは……
「き、君は俺の理想の姿なんだ! 頼む、俺と……「ボク、こっちだけど、いいの?」……へ?」
美少女はおもむろにダイスケの手を取り、いいの? といいながら自分の股間へと手を押し当てた。
大胆! と思った俺たちとは裏腹に、それを握ったらしいダイスケの時間が止まった。
「あん、手つきやらしぃっ」
「ふにふに、してる? 玉と、ぼ……ぅ」
はい、トマトケチャップ。
「ごふぁっ!?」
ダイスケは吐血してその場に倒れ伏した。
うん、問題ない。致命傷だ。
「にへへ。ごめんね。ボクは男の娘でしたー」
ですよねー。知ってた。
「なんでまた七不思議なの?」
「ボクこの学校で暮らしてるんだよね。屋上に家があるの。夜の学校結構楽しいよ? たまに浮遊霊でるから退治しないとだけど。外にさえ出なければ危険もあんまりないし」
髑髏さん出てきましたが?
「ちなみにお名前は?」
「ボク? 無いよ? 名前は無いんだ。この学校に所属してるわけじゃないし、高校生でもないからね」
おい、それはそれで謎しかないんだが。お前一体何なの?
「ふふ、何者なんでしょーね。えへへ」
やばい、普通に小悪魔少女にしか見えない。
よく見ればルーズソックスじゃん。右手にはちょっと大きめのリングハマってるし。
こいつ、白ギャルに近い感じのイケイケ美少年だぞ。




