80.鍛冶屋選びは慎重に
お姉さんと別れ、俺達は鍛冶屋街を見回る。
大体同じ建物だけど、微妙に扉の前にある装飾とかが違うな。
もしかして何かしらわかりやすい見分け方とかあるんだろうか?
一応皆に装飾が違うことを伝えて各自考察して貰うことにした。
とりあえず大通りを端から端まで見回ってみるが、実際に入ってみないとどれがどんな場所かわからない。
一先ずマップを見ながらここに第一印象の鍛冶屋を書き込んでいくか。
「おにーさんちょっといい?」
「そこのおじさん、少しいいかの」
なんかマップとにらめっこしてるうちに稲荷さんとディーネさんが適当な人に声を掛けていた。
しばし話し込んだ後、お礼を言って戻ってくる。
「何二人とも、隠れるんじゃなかったの?」
「主が誰にも尋ねようとせんからわざわざ聞いてきたのじゃ」
「マネージャーさん、仕事取ってくるのはアイドルの仕事じゃなくてマネージャーの仕事でしょ。まぁ新米だから仕方ないけども、良い仕事場を見付けるのも人に聞くのもマネージャーがやらなきゃいけないんだからね」
どうやら俺が不甲斐ないせいで二人が自分から聞きに行ってくれたようだ。何かごめん。でもおっさんに尋ねるのはどうもなぁ、なんか上から目線で話されそうだし。
というか、アレプレイヤーだよな? わざわざおっさんプレイとか何考えてんだ? しかも普通に中年太りしたおっさんだし。
もしかして、アバターの意味分からず実際の姿のままログインしてるとか? ……まさかな?
「んで、何か教えてもらえた?」
「うむ、あそことあそこはぼったくりらしいぞ」
「私が教えて貰ったのはー、あそこのお店は良いお店だって。是非行ってみなって言われたわ」
とりあえず仮でぼったくりと地図にマーキングして、ディーネさんが教えて貰った店を扉を少し開いて覗く。
……うん、やめよう。いい場所かもしれないけど店主がニューハーフでガタイの良いオネーサマだ。絶対にここには行くまい。というかこんな場所ディーネさんに教える若い男って何考えてんだ? いや、意外と腕が良いから純粋に教えてくれただけかもしれん。
とりあえず店の前の形状等を覚えて他の場所を見比べて共通点を探す。
うん、全く分からん。
「ふーむ。ぼったくり店についてはなんとなくわかったぞ」
「稲荷さんほんと!?」
「うむ、外装にそれとなくだが札束が描かれておる」
「お、おお、ほんとだ! なるほど、お札付きはぼったくりなのか」
「共通点というだけだがな」
なるほど、となるとニューハーフのお店は……髭とスカートが描かれてるけど、もしかしてこれかな?
んじゃおねーさんが優良って言ってたお店の外観は……なるほど、怪しい絵とかがないな。ハンマーが描かれてるな。あとは剣かな。
「成る程、なんとなく理解して来たぞ。これを参考にして全部をもう一度見回ってみよう」
俺達は再び最初から店の前に描かれた紋章や絵を参考にして行く。
「三件目は防具特化店みたいだな。右列の四件目はお姉さんが教えてくれた剣特化の鍛冶屋だ」
「なるほどのー。これは参考になるのぅ。ここは盾特化か?」
「それじゃーここは弓特化?」
「鍛冶屋にそんな特徴があったとは。それで、ダーリンはどこに特化した鍛冶屋に行くのだ?」
何処と言われても、杖?
でも大通りには杖ないんだよなぁ。もしかして路地裏にひっそりとあったりするだろうか?
よし、脇道にも行ってみるか。
俺達は大通りから外れた場所へと足を踏み入れる。
暗がりの細道は、一歩踏み入れた瞬間から何やら不穏な空気を纏っていた。
「うーむ。これは……」
「うへぇ、マネージャー、ディーネちょっと戻ってるね?」
あ、ディーネさん速攻瓶の中に引っ込んだ。
つまりそれだけ不穏というか不浄なのか。
大丈夫かなここ、なんかヤバそうなの出てこない?
「おっと、その先十字路じゃな」
『霊体なおねーさんが先行してあげるわ』
おー、テケテケさんありがと。っていうか、テケテケさん?
『引き返そうヒロちゃん、ここはダメだわ』
「え、なんかヤバそう?」
『早く、早く走って!』
なんかヤバそうだったので速攻走りだす。
稲荷さんも小人化して俺のポケットに飛び込み、俺はスレイさんと一緒に駆けだした。
「な、ななんだアレはっ!?」
「スレイさん後ろ見なくていいから走って!」
テケテケさんはどうなっただろうか? というか後ろどこまで追って来てるんだ?
恐くて何が来てるかもわからん。振り向けないっ。
大通りに戻ってきた俺が振り向くと、ヘドロのような黒い波が細道一杯に押し寄せ、俺達が大通りにでたことで波が引くように去っていくのが見えた。
そして、霊体だったがゆえに取り残されてたテケテケさんが青い顔で戻ってくる。
『いやー、死んだかと思ったわ死んでるけど』
一般的な道に即死フラグ置くのやめろよ運営さんっ!?




