79.鍛冶屋に行こうぜ
まだハナコさんは戻ってこない。
このまま待ってたらいつ帰ってくるかわからないということで、先に鍛冶屋に向うことにした。
俺としては別にハナコさんが戻るまで何時間待ったって問題は無いんだけど、他の皆が待てないらしいからさ。こればっかりは仕方無い。
ハナコさんもテケテケさんが連絡してくれたようで、遅れて合流してくれるようだ。
むぅ、俺にはまだ連絡先教えてくれてないのに、テケテケさんハナコさんと話せてズルい。
押し入れ兼アイテム倉庫に入手済みのアイテムをブチ込んで、俺たちは鍛冶屋へと向うことにした。岸涯小僧のドロップアイテムとかあったからね。使わないだろうし全部放り込んどいたよ。
持ってくのはユニコーンの角とクワガタムシかな。それ以外は押し入れでよかろ。テントウムシ? 必要かい?
「鍛冶屋かー。私の鎌新しく出来るかしら?」
それ、幽体状態でも振るえる奴ですよね。現代の鍛冶屋で何とかなるとは思えないんだけど?
「あ、そーだマネージャー。ディーネのマイクとか欲しいなー」
マイク? あー、いつでも歌えるようにか。
でもマイクなぁ。
とりあえず携帯出来るマイクかつ防水加工が必須だろうなぁ。
一応聞くだけ聞いてみるか。
「シャー!」
「おや、ヒロキよ、ツチノコさんが武器が欲しいそうじゃ」
いや稲荷さん、ツチノコさんに何を持たせろと?
他のゲームで魔獣系キャラの武器と言えば爪とか牙だよな。鉄の牙、とか。付け替えできるのかな? 一応聞くだけ聞いてみるけど、多分無理じゃね?
「ダーリン、我は武器はいらんがメスなどの改造に使う道具が欲しいのだ」
ウチで改造する気か? あー、でもスレイさんも怪人だっけ。なんかメンテナンスしたりするなら必要か。
お金あったかな? また霊子の欠片売るか。
輝君に聞いた鍛冶屋が乱立する場所へとやってくる。
なるほど、この一帯は工業地帯みたいな作りになってるのか。無数にある煙突から黒い煙が噴き上がってやがる。あそこのドア一つ一つが鍛冶屋ってことでいいのか?
既に鍛冶屋を知ってるプレイヤーたちが何人か入ってるな。
「そこのおねーさんちょっといい?」
「え、何?」
すぐ傍をスタイルのいい姐御肌タイプのクール系美女がいらっしゃったので尋ねることにした。
いきなり男性プレイヤーに声を掛けられたためか、若干警戒した様子の彼女だが、いきなり攻撃してくる気はないようだ。
「この一帯って鍛冶屋街みたいだけど、お勧めの鍛冶屋とかありません? あと諸注意みたいなものがあれば……」
「ああ、君は鍛冶屋は初めてなのか」
「輝君に聞いて来たんです」
「成る程。じゃあ各鍛冶屋によって当たり外れがあることも分かってる訳ね」
よかった。警戒が解かれたみたいだ。
こっちがナンパ目的じゃ無く純粋に鍛冶屋に付いて尋ねたかったと分かったようで幾分表情を和らげて話に耳を傾けてくれた。
『また女の人に声掛けて。他にもお兄さんとかおっさんとかいるじゃない』
ちなみに、何故か皆姿を隠すのでお姉さんから見ると俺とスレイさんしか居ないように見えている。
テケテケさんは霊体化してるし、稲荷さんは小人化して俺の胸ポケットに。ツチノコさんは背中がお気に入りのようだ。くすぐったいのであんまし動かないでほしい。
ディーネさんは腰に下げた小瓶に揺らめく水の中。容積どうなってるんだろう? 精霊だからあってないような物なのかな?
というかテケテケさん、良く見て。あのお兄さんは目が恐いし、おっさんはなんか騙してきそうでしょ、なので消去法的にもお姉さんが一番の安牌なのだよ。
「まず基本的に覚えておかないといけないのは、一度契約した時点でその鍛冶屋以外に向うとペナルティが発生するわ。簡単に言えば鍛冶商会経由で鍛冶屋が連盟くんでるらしくて変な客とかには割高になったり良いモノを売ってくれなくなるの」
それはまた面倒臭い。
「もちろんぼったくり店も存在するし、そういうのに引っかかると余計にタチが悪いわよ」
「うわー。最初の選びが肝心かぁ」
「一応攻略班がいろいろ試してるみたいだから事前に掲示板見てみたら?」
「そうですね。その方がよさそうです」
「それと、私のお勧めはそこの鍛冶屋ね。私も専属契約してるから紹介したら報酬でるのよ」
ネズミ講かな? 一応候補の一つとして選んでおこう。
「あはは、候補としておきます」
「あら残念。それで、危ない場所は一度断ろうとしたり契約前に店を出ようとすると必死に契約させようとしてくるわ。そういうところはかなり黒だから絶対に契約しないこと。それと頑固な鍛冶屋もいるけど頑固だからって腕が良いわけじゃないからそこを基準に考えない方がいいわね」
「人外の鍛冶屋とかっています?」
「さぁ? 一応いるんじゃないかしら? ドワーフとか居そうよね。まぁ話聞いたこともないけど」
「了解です。ありがとうございました」
「こういう質問だけなら大歓迎よ。この容姿でプレイし始めてからナンパが多くて。小学生や中学生にナンパされると何とも言えない面倒さがあるのよ」
「あはは、おねーさんクール系で綺麗ですからね、男ならナンパしなきゃって思わずに居られないんでしょ」
「あら、なら君もやっぱりそのつもり?」
「あー、確かに好きな相手がいなけりゃ声掛けてたかもですが、俺の場合は思い人と一緒に居れますんで」
って、お姉さんの視線がスレイさんに向けられる。顔を赤らめるスレイさん。いや、違う、違うよお姉さん。そいつじゃなくて俺の思い人はハナコさんっ。あ、ダメだ完全に勘違いしちまってる。
まぁ、いっか。どうせ一見さんだ。
「好きなNPCと一緒に冒険かぁ、それはそれで面白そうね。お互い、このゲーム楽しみましょうね」
「はい。あ、そうだ。俺次のイベントで小学校で脅かす側になってるんですよ、なので恐怖体験したい場合はぜひ来てみてください」
「あはは、気持だけ受け取っておくわ。恐いのはあまり得意じゃないのよ。それじゃ、彼女さんと仲良くね」
あら残念。
まぁ折角知り合ったのに脅かして嫌われるよりはマシか。
ちなみにチューブに動画出すのはOKしてくれた。




