791.女子中学校七不思議2
家庭科室へと入る。
見た感じ普通の家庭科室だな。
そもそも家庭科室なんてほとんど入ったことないから普通がうろ覚えなんだけどな。
グループ用机の合間に手洗い場がある机に、椅子が8脚づつ。六つの机が並んでいる。
机の側面には戸棚が取り付けてあり、開けば包丁やらフライパンやら授業で使うものがいろいろと収められている。
そう、包丁だ。
この包丁があるのがここか食堂ぐらいなのである。
「ここだといいんだけどな。ダメなら食堂の調理場行かないと」
「一応怪異が出そうな感じではあるけれど……」
アカズさんがそう告げながら黒板を見る。
ふむ。普通の黒板だな。使った後は元に戻す、とチョークででかでか書かれている。
「包丁が飛ぶ条件とか書かれてないわよね?」
「何も書かれてないな。勝手に動き出すのを待つか?」
「そんなまどろっこしいことしなくとも、一本折ってみりゃわかんでしょ」
あ、キョウヤ君、それ死亡フラグじゃ……
キョウヤは無防備に机に近づき、戸棚を開いて一本包丁を手に取る。
それを机に置いて、スコップを振り上げる。
「死ねオルァ!」
ガァンっと机にスコップが叩きつけられる。
包丁は? いない?
スコップに叩かれたことで吹っ飛んだ、じゃないよな?
「あ、が?」
まさかまさかの包丁はスコップが当たる瞬間、矢のように飛び出しキョウヤの喉元へと突き刺さっていた。
うをい!? 反撃で殺されてんじゃねぇよ!?
「キョウヤ!?」
「言わんこっちゃない。お前考えなし過ぎんだろ!?」
キョウヤ死亡と同時に戸棚が一斉に開き、無数の包丁が空中へと浮かび始める。
「うっわ、嫌な感じ」
「稲荷さん、神通力で何とかできる?」
「うーむ、ちょっと難しいのぅ。こっちに来ないように風の流れを変えるのは出来るが、なんかあの包丁が飛んできそうじゃな」
と、稲荷さんが見つめる先に、他の包丁とは一線を画す禍々しい気配を迸らせる包丁が一振り。
あれは、アカン奴や。
蛇々利さんとかいたら喜んで武器にしてそうだけど。
「コトリさんの呪物にどうだろうか?」
「本人が納得しないとアレはおとなしくならないんじゃない?」
「来るぞ!」
「全員迎撃用意! 獲物が小さいからミスったら致命傷狙われるぞ!」
俺もレーザー銃をいつでも取り出せるようにして構える。
が、なぜか宙に浮いたはずの包丁たちが急にぼとぼとと落下を始めた。
キョトン顔の俺たち。その背後から、そいつはゆっくりと前にやって来た。
「なるほどなぁ、おいちゃんようやく使い方分かって来たわ」
一睨みで即死を振りまく人面犬。
どうやら敵は包丁でもしっかりと即死が効くらしい。
今は見ないように気を付けないと。
多分俺らでも視界に納めた瞬間死亡する、それくらい強力な呪詛が位相世界から放たれている。
あの即死技、予想より数倍ヤバい奴じゃね? 人面犬無双とか誰得だよ。
「さぁ。ウチに貰おか、その包丁。おいちゃんもっと強くなんねんで」
うーん。なんだろう、強くなるのはいいんだけど、人面犬の強化って強くなりすぎじゃね?
嫌な予感だけが膨れ上がるなぁ。
ま、俺には関係ないか。タツキチーム頑張れ。俺が尻拭いさせられないように頼むぞー。
包丁たちも頑張った。必死に飛び交い人面犬に襲い掛かる。
しかし攻撃モーションに移った瞬間を見計らい即死の魔眼が発動。
包丁たちは次々に打ち落とされて行き、起き上がることなく消えていく。
次の家庭科の授業、どうするんだろう?
包丁全部なくなっちまったぞ。
犯人は人面犬だからな、怒られたら全部あいつのせいにしよう。
最後の一振り、ボス級のオーラを放つ包丁が人面犬と一騎打ち。
誰か手伝わなくていい?
いいの? そりゃ確かにここの特攻持ってそうだけども。
そっか、空飛ぶ包丁って犬と親和性高いのか。
んなわけねぇだろ!?
なんで空飛ぶ包丁と人面犬で強化受け付けてんだよ!?
どうせ人面犬に遠距離攻撃をと思って急遽取り入れたんだろ。
分かってんだよ運営。このゲームでこういうことやる時は途中で思い付き取り入れて整合性取れなくなった奴だろ。
ったく、そういうことやるから変なスキルやヤベェプレイヤーが生まれるんだって気付けよなぁ。
ま、こういうことするのは十中八九AI運営側だろうけど。
それにしても、人面犬、普通に強いな。
相手の攻撃も幻惑スキルで回避してるし、ボスだから即死効かないみたいだけど。爪の連撃で意外と善戦出来ている。
とどめ、とばかりに大振りの一撃で床に叩き落とし、再び空中に飛び立とうとする包丁を前足でたしっと押し留める。
「どや、おいちゃんもやるもんやろ」
「いや、ほんと意外と強くなってるのに驚いた」
包丁も、観念したのか光と化して消えていく。
しかもなぜか人面犬に光が吸収されていく。
これってやっぱり包丁が周囲に出現して自動攻撃してくれるスキルだよな。
もうこんなスキル使う奴、人面犬じゃねぇよ!?




