789.デスゲーム委員会の存亡8
「皆無事か?」
「あ、ああ。だがすまんヒロキ、俺は奴に負けちまった。まさか暗闇で索敵系を封じられてたたかうことになるたぁ……クソッタレ!」
「すまんヒロキ、俺も奴にはもう手を出せないらしい」
ヤミコさんも負けたのか。
闇はトモダチみたいな幽霊なのに。
ああ、本人が一番悔しそうだからそっとしておいてあげよう。
「ヒロキ、あいつの様子からして、倒せたの?」
「ん? ああ、とりあえず後頭部打ち抜いたんだが、まさか死亡しない闇のゲームだったとはな」
「勝敗条件! ヒロキさん、勝敗条件はどうしました!?」
勝敗条件なぁ……
と、自分が何を願ったかを思い出しながら相手を見る。
虚空を見つめたまま精神が戻って来てないようで、身動き一つしない。
何望んだっけか?
確か二度とデスゲームに関わるな、みたいなことを言った気がする。
つまり、委員長はもう二度と、デスゲームには関われない。主催者側としても、巻き込まれる側としても……デスゲームに巻き込まれた場合どうなるんだろうか? その場で死ぬとか?
「なぜ……だ?」
不意に、かすれた声が聞こえた。
どこかと視線を彷徨わせ、目の前にいた委員長だと気付く。
「なぜ、とは?」
「私は、位相世界を移動していた。気配もないし、動く音も風の動きも臭いすらもなかったはずだ。なぜ、私の接近に気付けた?」
「田んぼのところでさ」
言われたことに答える。
しかし俺の言葉に繋がりを見いだせなかったようで、委員長ばかりか皆が小首をかしげる。
なぜの答えに田んぼ? みたいな顔されてもなぁ、ここから話した方が分かりやすいだろ。
「くねくねさんを見たんだわ」
「くね、くね?」
「そ。ヤバいの見ちまったもんでちょいと視界に異常がでててな。位相世界が見えるようになってんだ、俺。つまり、位相世界移動してくれたんで暗闇でも普通に見えたんだ。それが、答えかな」
「く、はは、ははは……たまたま? たまたま事前に田んぼに行き、たまたまくねくねに出会ったせいで視界にバグが発生し、位相世界が見えるようになっていた? たまたまそんな奴相手に位相世界移動で奇襲を仕掛けたから、負けた? 普通に接近してれば、勝てた? は、はは、なんだ、なんだそれは! それではまるで、運よく勝てただけ、みたいじゃないか!!」
「そうだぜ? 俺は運よくお前に勝った。そんだけだ」
「は? はは、あはははははははははは!! ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ―――――ッ!!」
大声で笑ったかと思えば目を見開いて頭を掻き毟らんばかりに両手で黒頭巾をめちゃくちゃに引き裂く委員長。
あーあ、壊れちゃった。
「ヒロキ、そりゃあんまりだぜ」
「もうちょっとその、なんか必殺スキル使ったみたいに言ってやれば……」
「運よいとかそんなレベルじゃないですよね、どんだけ前からフラグ作ってるんですかヒロキさん」
だって、視界バグが役に立つとか知らんもんよ。
ほんと運よく位相世界移動を使ってくれましたってだけだし。
「デスゲーム、僕のデスゲームっ。ああ、あああっ、デスゲームが見たい、見たいのに見れない!? もう二度と見れない? 参加することもできない!? あああ、ああああああ――――ッ!!」
委員長からデスゲームしようぜ、と誰かを誘うことも不可能になったことで彼が今後デスゲームに関わることはもうない。委員会の再立ち上げも闇のゲームの制約で出来なくなった。
もはやこいつがデスゲームに関わる術は、ない。
というか、デスゲームに関われないってだけで本当に精神異常になり始めてんだけど、こいつ大丈夫か? 口から泡噴出してるぞ。
「悪は潰えた、だな。もうこいつぁデスゲームに関わることもない。デスゲーム委員会が復活することはもうねぇだろ」
「もう殺す価値もなさそうだ。俺は殺さずにおくけど、誰かトドメさすか?」
「いや、俺たちは皆奴のデスゲーム内で負けたから手出しはできん」
「あ、そっか、じゃあ俺が放置すると決めたら誰も殺そうとしないのか」
一度、悶える委員長に視線を向ける。
末路、哀れだな。
さすがにこれで死なせてやるのは……むしろ救いになりそうだ。
なら放置する方がいいだろう。
せめて今まで死んでいった奴の苦しみ、万分の一程度でも味わってから死んでいきやがれ。
「帰るか」
「そうだな」
「待ってください、地下施設の方はどうするんですか!」
「そっちもあったな。とりあえず……」
俺は電話を取り出しとある相手に掛ける。
「お、出た出た。どんな感じ? ああそう、こっち来れる? うん、地下施設の生存者を調べてほしいんだ。おっけー待ってる」
「あの?」
「安心してくれ格ゲー少女さん。もうすぐエルエさん戻ってくるから、索敵はお任せしよう」
「エルエさんもう復帰したんですか!? というか、それよりヒロキさんですよね?」
「何が?」
「闇のゲーム中、私の胸さんざん揉んだ人!」
「へぁ!?」
「なるほどなるほど。ヒロキぃ、ちょっと向こうでオハナシしようぜ?」
驚いた俺の肩をぽんっと叩き、未知なるモノさんが能面的笑顔で告げる。
あれ、俺、いつ死亡フラグ踏みしめた?
あ、待って。待って未知なるモノさん、肩痛い、肩握り過ぎ、あ、砕けちゃ……




