784.デスゲーム委員会の存亡3
「ええい、なぜこんなことに!?」
デスゲーム委員会委員長は脱出装置の先に辿り着くと、即座に座席から飛び出し、走り出していた。
皆でデスゲームを鑑賞し、ゆったりとしたディナータイムを過ごしていたはずだった。
何者にも邪魔されることなく、仲間内でいつものように死に行くものたちをあざ笑いながら肉を食い、ワインを嗜み、デザートを完食する。
そんないつも変わらない日常の朝。
突如始まるデスゲーム。
仲間たちを見捨て、即座に逃げる選択を取れたのは彼自身が常日頃から考えていたデスゲームの光景、その一つと今の光景が合致したからである。
ともかく、誰が死のうとも、自分一人生存していればまたデスゲーム委員会は立ち上がる。
物好きな暇を持て余した金持ちはいくらでもいる。
余興としてデスゲームで誰が生き残るかの賭けを持ちかけるだけで出資者が増えていくのだ。
だから自分さえ生き残ればそれでいい。
「む、ここには来ない日のはずだが、何かあったか?」
「緊急事態だ。闇のゲームの契約は既に有効だな!」
「う、うむ。だが、その慌てようは?」
通路の先で出迎えてきたのは闇のゲームを開催していたらしい黒い靄のような生物。
委員長は利用するだけ利用して消し去るつもりだったが、今は彼の助力が少しでも必要だ。
「危険人物ツチミカドヒロキ一派が奇襲を仕掛けてきた! 逃走するために力を貸せ!」
「……無理だ」
「闇のゲームでここをフィールドにしてしまえば奴らもおいそれとは追ってくるまい。ほら、お前得意のゲームで奴らを……は?」
「だから無理だ。我は一度ヒロキに敗北し、奴らと再戦しないことを約束させられている。ゆえに手伝うことは不可能。では、さらば」
「な!? オイ、話が違う!?」
委員長の言葉を無視するように、ソレはすぅっと逃げ去っていく。
慌ててその後を追うも、全速力の影はあまりにも早く、一瞬で見失ってしまった。
「ええい、どいつもこいつもっ! 不甲斐ない奴らめ!」
「残念デすが、貴方も不甲斐なしです」
委員長は背筋を伸ばす。
不意に背後から聞こえた声、それはまさしく死神からの声掛けだった。
「ば、馬鹿な。ここに辿り着く術は脱出口しかない、はず」
なぜ、後ろから?
委員長は絶望と共に振り返る。
そこには、先ほど自分が移動に使った椅子を粉砕し、緊急脱出通路から出て来たばかりのエルエが待っていた。
「追って、来たのか? あの狭い通路を? 縦に長く人間なら確実に潰れたトマトになる高さをものともせず?」
「自明の理、デす。ロボットなノで、ものともしマせん」
「くっ、ならば、ならばこの闇のゲームで起死回生を願うのみ! 目に物を見せてくれるわ!!」
「っ!?」
「闇のゲーム、起動!!」
委員長の声が一瞬早く。エルエの放ったレーザーが虚空を穿つ。
闇のゲームが展開され、その場にいた二人の人物を、固有空間へと放り込むのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ……」
施設内部の敵性存在を粗方片付けた俺は赤熱したレーザー銃を降ろし、息を吐く。
意外とかかってしまった。
本部内がかなり広いこともあり、一つ一つ確実に確認をすると結構な時間がかかるらしい。
一人きりでやるんじゃなかった。
せめてどっちかチームから一名引き抜いておくんだった。
エルエさんと突撃するから俺だけで充分だろ、と思ってた自分を殴りたい。
いや、確かにエルエさんと協力すれば半分くらいの時間でここまで制圧できる都合だったのだ。
問題は最初の段階で察した委員長が脱走を図ったせいでそちらを追うのにエルエさんを使ってしまったことだろう。
まぁ自分で選択したんだ。すでにだぬさんに連絡して向こうのチームから助っ人お願いしてあるし、問題はないだろう。
よし、この階層はこれで終わり。後は二階を制圧してしまえば俺の仕事は終わりだな。
エレベーターのある場所へと向かい、ボタンを押そうとして、気付く。
誰か登ってくる?
「あら、ダーリン!」
「ヤミコさん? ああ。助っ人はヤミコさんだったか。上から三階まで制圧済み、二階は?」
「先ほど掃討終わったわ。となると、後は一階だけか。あぁんもぅ、もうちょっと残ってればダーリンと一緒に殺しまくれたのに」
残念だけど、同じ階になるようなら手分けして撃破していくわけだから普通に離れ離れだけどな。
あえて言わぬが花であろう。
一緒にエレベーターに乗り込み一階へ。
一応可能性を考えてエレベーターの天井部から上へと逃げておく。
うっわ、一階に付いたとたんに一斉射が襲い掛かるじゃん。
予想はしてたけどだぬさんえげつねぇ。
「馬鹿な!? 誰もいない? 知恵の回る奴が居たのか?」
「俺だよだぬさん」
「む、おおヒロキじゃねぇか。ってこた掃討終わったってことか?」
合流完了。あとはもう一チームの状況次第だな。




