770.ようこそドリームランド2
「もともと私、きさらぎ駅に迷い込んでしまった一般人なんですよ。夏休みにお爺ちゃんの家に遊びに行った帰りに巻き込まれちゃって。つい降りちゃったのがまずかったのか不思議な場所で迷子になったんです」
「きさらぎ駅ならもっかい電車乗ればよくね?」
「そうしたかったんですけど、迷ってるうちに向こう側に取り込まれてしまいまして」
……はい?
「ほら、こんな感じです」
ぬぁっとくねくねさんの顔、左半身が二倍に膨れ上がる。
え、キモッ!?
「向こうの世界で死んじゃったんですよねぇ私。そのまま異界に取り込まれてしまいまして。いやー、異界で死んじゃうと輪廻転生も出来ないってつらたんですねー」
とかいいつつめっちゃ笑顔じゃん。
これが陽キャの幽霊というやつか。
「取り込まれてからなんとか電車に乗って現世に戻って来たんですけど、知り合いに会うと皆頭おかしくなっちゃって。途方に暮れてお爺ちゃんの田んぼで黄昏てたんですよねー」
なんでそこで黄昏てたかは聞かない方がいいんだろうか?
くねくねさんが田んぼでよくみられる理由に寄せてるせいかもしれん。
「あ、そうそう、ヒロキさん知ってました? 異界駅、きさらぎ駅以外にもあるんですよ」
「え、そうなの?」
「ほとんどの人がきさらぎ駅ルートに入っちゃうんですけど、低い確率で別の駅に着くことがあるんですよね。私が体験してきた駅ですと、ひつか駅とか月の宮駅とか藤迫駅なんてところにも辿り着きましたよ」
マジかよ、他にも異界駅あったのか。
ゾッとしないな。もう異界駅には行きたくもないので電車には乗るまい。
「そういえば駅ではないが亡者が乗る列車なんてのがなかったか?」
「幽霊列車か、テイン?」
「詳しくは知らん。最終的にあの世に向かう列車だとしか知らんからな」
「駅関連の都市伝説なら猿夢っしょー」
「あー、すまんニャルさん、それ既に体験済みだわ」
「マジかダーリン。え、猿夢体験しちゃったの? 死んだ?」
死んでないっての。
「俺は乗らなかったけどゾウムシ君が乗ってったよ」
「お前、また別の虫に行かせたのか。確か竜宮城にカブトムシ、幻の四階にベーヒアルを送り込んだだろ」
「失敬な。俺は信頼を持って彼らを送り出したのさ。現にちゃんとベーヒアル帰って来ただろ。ゾウムシくんとカブトムシ君が一皮剥けて帰ってくるのを俺は待っているのさ」
「外道だね」
「外道だな」
「外道じゃね?」
「外道なダーリンも素敵」
「ギーァ」
くねくねさん、テインさん、マイノグーラさん、ティリティさん、ギーァと酷いんだ。なぁニャルさん。
「うん外道王は伊達じゃないね」
何でだよ。これも立派な危機回避だろ?
虫君たちにも冒険させたいっていう親心だよ。たぶん。
「ってかよー、そろそろ行こうぜ。アタシさっさと戻りたいんだけど」
でもマイノグーラさん戻ってもブキミちゃんに首引っこ抜かれるだけじゃない?
「そうなんだけどなぁ、こっちで面倒ごと起こされるよりはマシだろ」
そうかなぁ? そうかも。
「では移動しようか。こっちだ」
「テインさんが案内してくれるのか」
「私でもいいんだけどね、ほら、私ってばメリーさんの体型借りてるから進み具合が遅くてねぇ」
なら姿変えろよ。ニャルさんよほどメリーさんの人形姿気に入ったんだな。
ニャルラトホテプと判明した後も頑なにこの姿で過ごしてるし。
「ギーァ、ギーァ」
「ヒロキさん、ギーァが絵画また忘れてないかって」
「……許せ。ログインした後基本皆の居る居間に向かってそのまま次の場所に向かうせいでなかなかモナ・リザさんの復活させられてないんだよ。忘れては……ないよ?」
おい、そんなやっぱ忘れてやがるみたいな顔で見るんじゃない。しかも全員揃って同じ顔するとかやめろや!
「ん? 自己イデアから出てきた奴がいるな」
「マジで? アレが……なぁに、あれ?」
全身脈打つ筋肉繊維丸見えの男がこちらに気付く。筋肉が見える人体模型君の内臓見えないよバージョンで右半身も普通に筋肉だけで皮がない生物だ。
スプリンター走りでこちらに迫って来た。
「あー、たまにいる変な奴ですね」
「ああいうのは適宜処理するのが通例だ。ここで死ぬと脳死状態になるだろうが、あんな攻撃的な姿で迫ってくる方が悪い」
「じゃ、処理するねー」
誰が向かうか、と思えばくねくねさんが率先して前に出る。
拳を握り、迫りくる筋肉君に振り切ると、そのまま拳が伸びていき、走る筋肉君に食虫植物みたいに広がってばくりと食らい付く。
そのまま真上に持ち上げ地面に叩きつけると、思い切り振りかぶって遠くへと投げ捨てた。
「おー。たーまやー」
「かーぎやー」
「地面に咲く紅い華、汚ねぇ花火だ」
お前ら人のこと外道呼ばわりするけどお前らも大概だと思うよ?
まぁ外の神だから外の道歩いてる奴らと言えなくもないけどさ。




