769.ようこそドリームランド1
「と、いうわけで、彼は俺を待ってて何かを伝えようとしていたんだ」
「ホント御免なさいっ。襲われてると思って!」
ティリティさんが平謝り。
どうやら俺がザ・マンに襲われてると思って見敵必殺しちゃったらしい。
何か伝えようとしてたの、聞かなかったの大丈夫だろうか?
まぁ俺幸運値高いわけだし、もしかしたら聞かない方が良い事だったのかもしれない。
「そんで、ここからどうすんの?」
「ここが個人の夢の中世界、ということになってるんで、まずは集合イデアの方に行きましょうか」
「ギーァ!」
個人の夢世界ってことはここ俺の夢の中ってことか。
そういうゲーム世界なのか現実の夢の中なのかがちょっと怖いな。
まぁゲームの世界だと思うけど。
そもそも現実世界の夢の中だったらこの二人どうやってここに来たんだって話だし。
本当にそうだった怖いから考えるのはやめよう。ここもゲーム世界だ。
「えーっとこの辺りに私が入って来たドアがあるはずだから、そこから……ああ、あったあった」
ティリティさんに案内されて通路の真ん中にポツンと存在するどこでもなドアを潜る。
「なぁ、これって戻れなくなる可能性ある?」
「移動ボタンにカーソール合わせて。自己イデアっていう欄が出ると思うわ」
移動ボタン? カーソール?
ああ、視界の右上に存在するこれか。コンフィグとかログアウト画面とかが出てくるボタン。
脳内でカーソールを合わせれば勝手に展開されるんだよな。
ああ、あったあった。場所移動のボタンな。
うん、自己イデアでてるな。つまりここを選べば戻れるわけか。
とりあえずドアは締めていいの?
「むしろ締めて鍵をかけておかないと変なのに入り込まれるわよ、さっきの男みたいに」
「じゃあ鍵の掛け方は?」
「ここは思いの強さでいろいろ出来るの、ドアに鍵をかける、って念じればかかるわ。ええ、そんな感じ」
ちょっと鍵をかけるっと念じただけで出来たらしい。
外出の際に鍵をかける感覚に近いな。
ちなみに隣のドアは、お、開いた。
「ちょっとダーリン、不用意に変なドア開けないで!?」
「おっと失敬」
怒られたのですぐに扉を閉じておく。
お、移動箇所に自己イデア以外の???のイデアって奴が出てきた。
これでいつでもこのイデアに入れるようだ。
うん、気になるので後で内緒で入ってみようかな?
「ここは集合意識体のイデア本体なんだから、誰の夢に繋がってるかわからないわよ。最悪その夢の主に殺されて取り込まれてアバター消失なんてこともあり得るんだから。気を付けてよねホント」
またここでも即死案件かよ。
ほのぼの日常オンラインなのに、日常外れると死亡フラグが多すぎませんかね?
まぁ、普通の日常も少し常識から外れたら死亡フラグ多いけどさ。
「皆待ってるんだから、ほら、こっちこっち」
またどこかに寄り道しないように、とティリティさんは俺と腕を組んで引っ張り出す。
うお!? 背中になんか乗って来た、と思ったらギーァかよ。
おんぶしろって? まぁそこまで重くないからいいけどさ。
しばらく三人で歩いていく。
イデア内というのは随分と不思議なところだ。
足元は水と思われる透き通った、簡単に言えばウユニ塩湖みたいな鏡面で、実際には水ではない様子。
歩く足場もしっかりしているので濡れることもないようだ。
そんな水面の各所に様々な種類のドアが乱立している。
当然ながらドアは閉められており、その先がどこに繋がっているかは不明なまま。
好奇心が刺激されるが、迂闊に向かうと死ぬらしいので、好奇心ネコを殺すの精神で歯を食いしばって好奇心に負けないように……あれ? この諺普通に死にに行くってことじゃなかったっけ? 逆の意味だったか? まぁ誰にも言ってないからまだ大丈夫だな。
えーっと、君子危うきに近寄らず、だな。うん。
「あ、居た居た。皆待ったー?」
「ようやく来たか。待っていたぞヒロキ」
「遅いぞーヒロキ。待ちくたびれて液状化しちゃってたぜ」
「ったく、なんでアタシまで来なきゃなんねーんだよニャル」
「マイノグーラもこっち関連だっしょ」
それはいいんだけど、そちらの可愛らしい女の子は誰?
麦わら帽子にタンクトップと短パンジーンズの活発そうな少女が一人、余分にいらっしゃる。
「あの、えっと、改めて初めまして、くねくねさんと呼ばれてるものです」
と、帽子を手に取り深々お辞儀してくるお嬢さん。
え、くねくねさん!?
「ここは集合意識で情報だらけの場所だからね。くねくねさんの情報もここでならしっかりと処理できるみたい」
「名前、ちゃんとあるんですけどね、向こうじゃ変な言葉になっちゃって会話もできませんし」
これが、くねくねさん? 普通に田舎でお爺ちゃんの田んぼ手伝ってる女の子じゃん。あの白い靄何だったんだ!?
 




