762.アイドルダンスバトル2
『それじゃー、最初の曲はーっ』
ソレはアイドル衣装を着た半透明の女性だった。
完全に幽霊だね。
黒髪ツインテール。あざと可愛さを前面に押し出し、ファンシーな振り付けで歌って踊るアイドル霊と、それを見て自分たちも踊るゴブリンたち。
ゴブリンたちは歌とか聞いてるわけではなく踊れるのが楽しいだけのようだ。
妖精って踊るの好きだよねファトゥムさん。
「ほんとにねー。でもゴブリン系しか出てこないってここの妖精郷は期待できそうにないなぁ」
「やっぱあるっぽい?」
「多分、あのステージの奥にある暗がりとか怪しいよね」
マジかぁ。
でもファトゥムさんの新スキルは妖精郷訪問だしな。行くしかないってことだ。
と、どうでもいいことを考えていた時だった。
ぐりんっとアイドル霊の首がこちらに向いた。いや、真後ろなんですが?
『あら、あらあらあら。恨めしぃ。生きてる人間の臭いがするわぁ』
「ちーっす、初めまして」
『軽い!? ちょっとは怯えなさいよ!?』
首180度回ってるのは確かにちょっと怖いっす。
でもそのくらいのことは未知なるモノさんでも出来そうだし。
「初めまして、俺こういうものです」
『あら名刺? ご丁寧にどうも……アイドル事務所RCS? 聞かない場所ね。もしかしてオファー? 私幽霊よ?』
「ああいや、オファーというか、コーチ願いだな。ダンスのコーチを探してるんだ。君なら十分コーチになると思って。もちろんアイドルになりたいと言うことであれば所属することも可能だけど」
『へぇ。私にコーチを受けたい、と? ふっ、だったらダンス勝負で私に勝てたらコーチしてあげてもいいわよ!』
「バッカじゃないの」
『なんですって!?』
俺の後ろからマイネさんが口を出す。
おい、普通の口だしじゃなくて高圧的に罵倒とか何考えてんの!? ステイステイ、マイネさん、それ絶対説得失敗するから!
「だって考えても見なさいよ。私たちはコーチをお願いしに来てんだからコーチであるあんたよりダンスが上手いわけないじゃない。というかあんたに勝てるくらいのダンス力持ってたらあんたのコーチ受ける意味もないし」
『確かに!?』
あれ? 実はこの人おバカ系?
「つまり、絶対にこちらが勝てない条件を突きつけてる訳だから、コーチ受ける気がないってことでいいのかしら?」
『そんなわけないじゃない。負けたらコーチは引き受けてもいいわ。でも確かに普通のダンスじゃ不公平ね……ああ、ならアレにしましょ』
「あれ?」
『心象具現・ダンスダンスレスポンス』
あっぶねぇ、この女何トチ狂ってレボリューション叫ぶ気だ、と思ったけど文字違いだった。焦った。
『この空間では踊る役と指示役に分かれるわ。指示役が表示された方向キーなどを入力することで踊り手が勝手に踊るの。これならあんたたちでも私に勝てる可能性はあるでしょう』
まるきりダンレ……げふんげふん。音ゲーの類じゃねぇか。
「ふふ、面白そうな奴じゃない。レイレイ、踊り役任せるわ」
「えぇー」
これぞ伝統のパワーハラスメント。
押しが強いのも考え物だよマイネさん。
とはいえ最初の挑戦者が決まったので、ステージに上がるレイレイとゴブリン君。
なるほど、アイドル霊が指示出し役をする以上踊る人物は彼女以外になるからゴブリン君になるのか。
というか相手ゴブリンしかいないし当然の結果だね。
指示役の前に筐体が現れる。
と言ってもるゲーセンによくある筐体であって、画面部分は取り払われているようだ。目の前のステージ見ながら指示出せってことか?
特に説明もなくスタンバイしたアイドル霊とマイネさん。
おお、なんか空中に文字出た。
数値が3から現れ、2、1と減っていき、STARTの文字が現れる。
次の瞬間矢印やらボタンの番号やらが表示され始める。
次第表示速度が少しずつ早まっている感じがするな。
二人とも序盤はゆったりと指示出しを行ており、踊り手の二人も様々なポーズを取っているのが結構楽しそうだ。
しかし、徐々にそう言っていられなくなる。
「ちょ、速い、速いある!?」
最初に音を上げ始めたのはまさかのレイレイ。
動きが速すぎて体が悲鳴を上げているようだ。
しかし体は自動で踊りを踊るようで、嘆こうが喚こうが的確な動きを行って……あ、指示ミスった。
「にぎゃぁ!? 捻った! 今なんか曲がっちゃいけないとこ捻った!」
レイレイの口調が元に戻る程切羽詰まった声になる。
あ、ゴブリンも悲鳴上げてる。でもゴブリンが生きてようが死のうが問題のないアイドル霊は気にせず踊らせている。
あ、こっちも間違えた。ゴブリンの右足完全に曲がっちゃいけない方向曲がったぞ。
 




