758.中学校七不思議10?
SIDE:???
私は呆然としていた。
なぜこうなったのか、理解も出来ないが、理解したくもないが、それでも事実、私はここにいた。
無限に続く通路、左には闇しか写さぬ窓ガラス。
右には、無数に存在する教室の扉。
もともと、私はこのような場所に生息する者ではないのだが、ここにいた。
私の主たるものにより、このような場所に連れてこられた。
ここに来る前、主は私ならばなんとかできると言っていたが、あれはどう考えても今生の別れだろう。私だって理解できる。
ずるり、自分の体を引きずって、私は進む。
無限に続く教室と窓。
たまに窓に映る人間と思しき学生が私を見つめてくる。
何をするでもなく話しかけてくるでもなく、ただ見てただ去っていく。
ずるり、ずるり、進んでいく。
どれほど、進んでいただろう?
この無限回廊は進めば進むだけ続いているようだが、途中途中に教室の隣に階段がある。
ここを降りて行っても主たちの居た場所には辿り着くことはない。上ったとしても階段の先にあるのもまた、幻の四階なのである。
四階を上がっても降りても四階に来る。
完全に世界がループした場所だ。
逃げたくても逃げ方がわからない。
永遠に彷徨い続けるしかできない。
最悪なのは、私自身がベーヒアルという名のUMAであることか。
思考こそAIではあるが、食性を設定されていないエネミーとして存在している。
つまり、食事を取る必要がない。
それは餓死できない、という事実であるともいえる。
餓死ができない、ならば私がこの無限回廊を彷徨う中で死ぬ、ということがない、ということになる。
自滅を狙うならそこいらに頭をぶつけてぐちゃっと潰れるくらいだが、それ以外は永遠彷徨い続けるしかできないようだ。
いや、あるいは……
何かしらの方法でこの空間から脱出できる可能性があるのかもしれない。
私にそれができるかどうかは疑問だが、脱出できなければ永遠ここを彷徨うしかできないのだろう。
エネミーでも出てくればいいのだが、ここには私以外存在しないらしい。敵に殺されるということもできないらしい。
中学校七不思議が集っていれば、トイレを出入り口としてハナコ様に迎えに来ていただくことも考えたが、残念ながらトイレは存在していなかった。
変化を求めるなら教室に向かうくらいか。
いや、もう一つあるか。あの窓の中の学生がいる時窓に触れたらどうなるのだろうか?
試すべきことはまだいくつかある。
脱出を求めて進むことを辞める必要はない。
私は虫だ。幼虫だ。キャタピラーだ。
ならば止まる意味はない。
出口を求め、いつか出られる日を夢見、ただただ進めばいいだけだ。
教室の一つに入り、一つ一つ、思いついたことを試していく。
生徒のように椅子に座ったり、机の配置を変えてみたり、教壇に立ってみたりするが、変化はない。
やはり窓か?
特別教室でもあればいろいろ試すことも多くなるのだが、普通の教室しかないからやるべきことなどほとんどない。
とりあえず暴れてみるか。
イスを咥えて振り回す。
机に潜って真上に押し倒す。
イスを放り投げ、叩き壊し、とにかくひたすら暴れまわる。
別に全てを諦めて粗暴になっているわけではない。
これも一つの確認だ。
暴れ終わると何事もなかったように外に出て、廊下を進む。
進む、進む、進む……あった。
12の教室を越えた先に、先ほど暴れた教室が現れた。
さて、これで七不思議、十三番目の教室出現条件を行えばどうなるだろうか?
この教室をもう一度確認し、今度は次々に教室の扉を開いていく。
二つ目、三つ目、四つ目の教室。
五つ、六つ、七つ、八つ。
九つ、十。
本来ならば、後三つで元の暴れた教室に辿り着く。
しかし、十一、十二……十三。最後の教室の扉を開いた私は、そのまま教室内部へと入り込む。
違いはあるか?
これで、私は十三番目の教室に入ったことになる訳で……ああ、出るときは後方の出口から出た方がいいかな?
扉を開いて廊下へと出る。
……うん? なんか、変だな。
周囲を見回す。
先ほどまでのシンとした無限回廊と何かが違う。
おお、浮遊霊だ! 浮遊霊がいる。
―― 中学校七不思議、真なる七巡りをベーヒアルが達成いたしました。報酬特典が与えられます ――
お、おお? 本当に達成した!?
おかしいな、私は他の七不思議を巡っていないのだが、主のアイテムボックス内にいた時もカウントに入っているのかもしれないな。
しかし、どうしようか? さすがにヒロキ殿はこの辺りにはいない様子。
まぁ、場所は分かっているのだし、ゆっくりと戻るとするか、主には一度ちょっと物申さなくてはならないだろうが。




