753.中学校七不思議5
スレンダーマンの体力はかなり少なかった。
ヌグ=ソス製の銃を使えば大ダメージを与えられるので、他のメンバーは触手を防御するだけで役割分担が出来ていたのだが、触手を足代わりに使われると、なんかもう何が何やらわからない状態になり始めた。
スレンダーマンヤバいな。
そもそもは創作の生物だったはずなのに、それが創作だと分かった後に現実世界で目撃証言が上がりだした都市伝説なんだが……結構凶悪な内容なんだよなこいつ。
クソ、触手で体を持ち上げてるせいで狙いが付けにくい。
また避けられたぞ。俺撃墜王なんだけどっ。
「嘘っ。追尾式の札なのにっ!?」
ヒナギさんの札攻撃も避けられているようだ。
たまに当たるも触手で防御してしまうのでレッドゾーンに入ってからほとんどダメージが与えられなくなってしまった。
「何か、何かできねぇか? 待てよ。おい、そこの人面犬、確かあんたモヒカンズから即死攻撃手に入れたって言われてたよな」
ラズナさんが、そんなことを言うが早いか人面犬を持ち上げる。
スレンダーマンを見据えるような角度にして、使え! と叫ぶ。
「っしゃ、まかせや嬢ちゃん。おいちゃんに惚れんなよっ」
うおぉ!? マジか! スレンダーマンのHP一気に消えたぞ!?
まさかの即死発動。
スレンダーマンは悶え狂ってぞの場に崩れ落ち、片手を虚空へと伸ばしたまま、事切れた。
光に変わっていく化け物の最後は、正直まだ復帰してきそうで怖った。
「お、終わった?」
「なんか振り向いたら二体目出てきそうで怖いんだけど?」
「ランダムエンカウントボスだろ。さすがにそのフラグは欲しくないな」
恐る恐る振り向いてみるが、さすがに背後に二体目は存在しなかった。セーフ。
「なんとか勝てた……」
「怖すぎるでしょスレンダーマン。何あれ? 見てるだけで正気度ゴリゴリ削られてたんだけど」
「何しろ子供見つけたら地の果てまで追いかけて殺すマンだからな。殺意高いわ」
「子供に何のうらみがあるってんだ。ったく。変なもん学校に設置すんなよな全く」
皆なんとか精神は保ったらしい。
一仕事終えた様子で少し休憩。
準備を終えると皆揃って第一棟へと歩き出す。
「次はどこだっけ?」
「えーっと残ってるのはヤミコさん、歩く影、十三階段、幻の四階だよね」
「基本十三階段の後で四階だからヤミコさん先だな。歩く影は、ランダムエンカウントだからどこにいるやら」
「実はすでに遭遇してたけど気付いてなかった、とか?」
普通にありそうだなソレ。
「んじゃま二階に上がって女子トイレに……なんだ?」
渡り廊下を越えて第一棟に入ったところだった。
一階の廊下の先に、ポツンと一つ。大きな円形の影が出来ていた。
「アレか?」
「アレじゃない?」
「あ、ほら、歩き出した」
こっちに気付いてないのか? 逆方向に歩き出してるぞ?
「とりあえず遭遇したってことでいいのか?」
「テケテケさん、どうよ?」
「えーっと、あった。影渡りのスキル覚えたわ」
見つけるだけでいいのか。何ともしょっぱい七不思議だ。
「ここの七不思議は見つけるだけでいいのが多そうね」
「ってことは四階に関しても出現を見届けるだけでクリアできるのか?」
どうかな? 十三階段を踏み越えると発生する、ってことらしいから一人は確実に迷い込む可能性の方が高いと思う。
あとはどうやって脱出するか、だな。
ふーむ。やはり、彼の出番だな。
しかし、それで大丈夫か? いや、しかし彼なら問題はないだろう。
問題としては以後彼とは会えなくなる可能性が高いってことか。
ま、問題はねぇな。
外道? 戦略的と言ってくれ。万が一プレイヤーが踏み込んでアバターロストしたら大問題だしな。
こういうことは徹底してリスク回避するに限るってもんだ。
そんなことを考えながら二階へと向かう。
影は……ああ第二棟の方に向かってったな。まぁもう会うこともあるまい。
「結構平和だね。スレンダーマン以外」
「一つ前の七不思議よりは安全だったな」
「あたしら旧校舎クリアしたんだけどさ、あっちは追いつかれた瞬間死亡系だったよ。ここ平和でいいね」
と言っても死亡フラグの十三階段があるけどな。強制踏み込みが発生するのかどうかが不安だな。まぁ俺の幸運値に掛けておこう。
あれ? トイレの前に何か落ちてる?
「呪いの人形か何か……えぇ……」
「手紙? ハナコさんへって書いてあるわね」
『私宛?』
「えーっと、ああこれ、ヤミコさんからだな。ハナコさんとそのテイム相手とだけで会いたいってさ」
「また戦い系じゃないんですかね、それ」
アカズさんの指摘に頷く。
ほぼ間違いなくハナコさんとヤミコさんの激戦になるだろう。
ところでヤミコさんって何してくる系の霊なの?




