746.渚に関わるエトセトラ6
それは10メートルを超す巨大な魚の化け物だった。
一応悪楼で検索を掛ければ神の一種と分類されているようだが、ただ餌が豊富だったから巨大化しただけの魚だろう。
現代でもたびたび巨大魚は出てくるので当時に出て来ていても問題はないはずだ。
討伐方法はあまりにも突飛ではあるのだが。
何しろあの大魚に飛び乗って刀ぶっ刺して倒してたらしいからな。
そりゃさすがにねぇべや?
当時のヤマタケさんはどんだけヤベェ生物だったのかって話である。
「ひゃー、こりゃ大物だな」
「テインさん、背後からこっち向けてアレ打ち出せない?」
「さすがに私にも無理なことはある。それはエルエの方ができるのでは?」
「今エルエさんをこっちに回すと浦さんが海に吹っ飛ばされかねないだろ。コトリさんは結界張るので動けないし」
「しゃーねぇ、俺が何とかやってみる」
と、蝙蝠羽を生やして未知なるモノさんが海側へ移動。
悪楼の背後から波動砲を発射して、エルエさんが浦さんごと悪楼を引っ張る。
っし、一気に海側から離れた。
これで飛び跳ねるだけで海に戻るって可能性が潰れ……まだ安全圏じゃねぇ!?
「ぬあぁ!? 飛び跳ねるごとに地震起きてんじゃねぇか!」
「岩場で飛び跳ねられると不味い、もっと陸地側にふっとばせ!」
そういわれてもそれができるメンツがいないんだよフェノメノンマスク!
コトリさんを自由にして呪連砲使うか? でもその場合燦華たちがほぼ確実に潰される。
さすがにテイムもしてないメンバーが殺されては大問題だ。
大型生物を敵にする時その辺り注意しないといけないのがネックだな。
「ふむ。アレを陸地側に吹き飛ばせばいいのね?」
と、聞きなれない女性の声が背後から聞こえた。
変だな。そこ海の中なのに?
って、なんか奥様って感じのお姉さんが!?
「あの、どちら様?」
「あら、自己紹介何てしてる暇あるの? アレの存在は私たちも少々邪魔に思っているの、手伝ってあげるから討ち取ってくださる?」
「あ、はい」
なんとなく、ここは従っておいた方がいい、と俺は素直に助力を願う。
おそらくエルエさん並みの火力で悪楼を陸地に追いやれないパーティーだった場合のお助けキャラだろう。
彼女にお願いすると、海から無数の人魚が顔を出し、悪楼向けて水柱を放出。
おお、ウォータートルネード。
悪楼の抵抗空しくエルエさんに引っ張られてさらに陸地へと引きずられていく。
よし、安全圏まで連れ込めた。
「あんがとございますお姉さん。お名前お聞きしても?」
「あら、聞いてしまったら大変なことになるわよ? それよりもセイレーンを探しているのでしょう? なら私の娘を一人紹介するから、それで我慢しなさいな」
うん? セイレーンの娘さん? それって……
「ほら、今はあの魚を倒しなさい」
「そうだった」
俺の意識が悪楼に向いた次の瞬間、女性はさっさといなくなってしまった。
俺の記憶違いじゃなければ、あれってセイレーンの母親、つまり女神ケトさんではないでしょうか?
いや、まさかね。
「おいヒロキ、遊んでないでアレ、討伐に加われ!」
「おっと失敬!」
未知なるモノさんが両手を巨大な剣に変えてどっかの寄生生物みたいに切り裂いている。
しかし鱗が硬いようで思うように傷つけられていない。
ダメージ自体は入ってるのでまるきり無駄という訳ではないようだ。
「食らえ!」
フェノメノンマスクは対面で大口空けた悪楼に冷凍系薬品を投げ込むなどで攻撃。凍り付いたり爆発したりとやりたい放題である。
そして、一番死地で戦っているのがだぬさん。
なんで飛び跳ねる巨大魚に近接戦闘挑んでるんだあのおっさん。
いや、確かあの人のスキルって自分が死んだ時に真価を発揮するんだったか。
つまり自分から殺されに向かってんのか?
それでも一応死ぬ気はないようなので、近接戦闘で負けるようなら確殺攻撃叩き込んでやれ、程度の考えなのだろう。
同じように接近して戦っている彩良さんは素早さを活かしてヒットアンドアウェイ。
岩場で飛び跳ね、悪楼の胴に一撃加えてその反動で後ろに下がってを繰り返している。
同じように、こっちからは見えないが、ギーァも逆方向から同じようなヒットアンドアウェイ攻撃を行っているようだ。
テインさんは角を通って出てきて攻撃、即引っ込んで場所移動、を繰り返しているし、アイネさんは空から突撃しては槍でつっついて退避を繰り返している。
エルエさんが浦さんの援護に付いているので高火力攻撃役がいないな。
コトリさんは結界で皆を守ってるだけだしな。
おそらく攻撃力が高すぎて悪楼相手でもバランスブレイカーになってしまうから遠慮しているようだ。
本人がヤバいと思ったら加わるだろうから、俺たちは彼女を参戦させないよう危なげなく戦うのが一番だろう。




