743.渚に関わるエトセトラ3
「最後通牒だ。死ぬか、降るか、選べ」
レーザー銃を突きつけ、俺は告げる。
さすがに最初に一匹眉間を打ち抜いたおかげか、女性も犬もびくっと怯えている。
できれば戦いたくないので戦わず敗北を受け入れてくれると嬉しい。
俺たちはセイレーンさんさえ見つかればそれでいいので。
「ここは、私の……」
何かボソッと告げるが、こちらが銃の引き金に手を掛けると、押し黙る。
しばし、銃口と見つめ合うスキュラさん。
―― スキュラさんが投降したそうにしています、テイムしますか? ――
投降? 仲間になりたそう、じゃないの? まぁいいや、テイムで。
―― スキュラさんをテイムした! ――
「いや、外道か!?」
「ヒロキ君、さすがにそりゃねぇよ」
「武力に物言わせたテイムかよ。死にたくなけりゃ奴隷になれってか、外道すぎんぜヒロキ」
え、待って。俺はただテイムしただけだぞ!?
何でそこまで言われるの?
「ちょ、スキュラさん、俺テイムしただけだよね? そんな外道な事してないよね?」
「う、うぅ、好きに、すればいいじゃない」
なんでだよ!? 泣き真似か!?
コトリさんを見る、すっと視線を逸らされた。
燦華と緑香までちょっと怯えた顔になってる!?
え、ほんとに俺が悪いんです!?
「ヒロキさんはぁ、げどーなんです?」
「そうだぞ。こいつに関わるとテイムされるから近づかないようにな」
「はーい」
そこハーイじゃないよ。未知なるモノさん、味方増やす気無しか!?
「まぁいいや、ところでスキュラさん、セイレーンさん知らない?」
「せ、セイレーン? 外にいない? たまに岩場で歌ってるわ」
俺が声をかけるとビクッと怯えるスキュラさん。
おかしいな。なんで俺そんな怯えられてるの?
ちょっと銃口突き付けただけですよ?
「ヒロキの奴いろいろ常識欠落して来てんな、コミュ障の弊害か?」
「未知なるモノよぉ、たまにリアルで会ってコミュ障改善してやれや」
「あー。そりゃ別の奴がやるらしいからユウ君に任せるわ」
そういやユウの奴リアルでこっち来るとか言ってたけど、本当に来るんだろうか?
「ん? あっ、ヒロキ君、海が!」
ボスをテイムしたことでここの洞窟からはもう脱出するしかすることがなくなったのだけど、まさかの干潮終了。これから潮が満ちる時間帯になるらしく、すでに足元にまで海水が流れ込み始めていた。
うん、まぁ予想はしてた。
「エルエさん、おなしゃす」
「了解しマす」
適当な壁に向け、斜め上向けてレーザー砲、発射。
掌にため込まれたエネルギーが人型大を軽く消し飛ばす光量として放出されていく。
「地面、多分出まシた」
一撃でかぁ。
とりあえずぐずぐずしてると海の中に沈んで体力減らされ死に戻りかねない。
なので、さっさとこの穴通って地上へ向かう。
一応、と思ってエルエさんにお願いしておいてよかった。
しかし、願って置いてなんだが、たった一撃で人が通れるだけの穴造り出せるエルエさんって掘削チートだな。
エルエさんには最前列で移動して貰い、地上に出てなかった場合追加で穴を掘って貰うことにする。
上手く地上までつながってくれていればいいんだけど。
それともう一つ大問題。
スキュラさん穴入れねぇや。
いや、上半身だけなら問題なかったんだぜ。でも下半身六匹の犬が棲んでる状態じゃん、度にもならないので洞窟内に放置するしかなかった。
一応テイム済みなので死んでも復帰できるから問題はあるまい。
放置して穴に入り込むとき、何とも微妙な顔で見送るスキュラさんが可愛そうだったけど、物理的にこの穴人一人分の大きさしかなかったからね。うん、諦めろ。
全員穴を通ってなんとか這い出る。
満潮になる前に洞窟から脱出は出来たので海に飲まれて死亡、なんてことにはならなかったが、結構長いなこの穴。どこまで続いてるんだ?
「お、ようやく出たな」
先頭側を移動していただぬさんが外に出たらしい。
最後尾の俺が出るまでしばし、全員が脱出するまで穴の中を這いまわる。
ふぅ、洞窟探検は窮屈だから面倒だな。こういうダンジョン系は他のプレイヤーに任せよう、もうお腹いっぱいだ。
「ここは……どこよ?」
「海に近い岸壁ってところだな」
「さすがに場所まではわからんぞ」
「まっぷも周辺は白紙になってるな。一応西側に向かえばさっきの岩場に向かえるみたいだ」
西側か。ってことは東側にずっと移動してたってことか。
洞窟内で曲がって移動してたのかもしれないな。
あ、スキュラさん死んだ。
テイムキャラの死亡通知が出た。しばらくしたらUFOの自宅に死に戻ってくるだろう。
ただ、スキュラさんいっつもあの洞窟をテリトリーにしてたんだよな。なんで満潮の時に死んでるんだ?
もしかして俺たちが洞窟に入った時点で生成されて満潮時に死ぬ時間制限付きボスだったのだろうか? 運営もえげつないことしやがるな。




