738.死亡フラグを叩き折れ2
「というわけで、燦華と緑香。それからプレイヤーの女の子です」
「猫滅殺ワンコです」
「すげー名前来たな」
「嫌ですね、私はただのワンコ好きのオーエルです。オーエル」
「へー、猫は?」
「猫派は氏ね!」
「はは、また濃い奴出てきたな」
フェノメノンマスクが小声で猫派なの黙ってよ、とか呟いてたけど、聞こえてなかったようでよかった。
「でも驚きました。皆さん前回イベントで凄く活躍してた人たちですよね。見ましたよ公式チューブ。皆さんすっごく素敵でした」
「俺ほとんど活躍してなくないか?」
「だぬさんはコトリさん戦での初自爆がカッコよく編集されてましたよ」
「あー、アレ確かに無駄にカッコ良かったな。コトリさんの無法を映しまくってからのコトリさん撃破映像は思わず拳握るくらい凄かったよ」
フェノメノンマスクは結構そういうの好きそうだよな。
厨二病だろ絶対。
「それで、今回ヒロキから聞いたんだが、えーっと、なんとか朱莉ってのが死んだんだっけ?」
「佐島朱莉だね」
だぬさんが話を戻すと、ようやく話が進んだね、っとばかりに気配隠蔽していた輝君が会話に参加してくる。
「へ? え? 輝君!? なんでこの部屋に!?」
「ありゃ。君知らないの? 輝君はどの教室にもいる七不思議の一人だぜ?」
そっか、猫滅殺ワンコさんは……うん、普通にワンコさんと言わせて貰おう。名前物騒だし。
ワンコさんは輝君のことは知らなかったようだ。
「おい、また脱線すんじゃねぇよ。佐島朱莉の死亡原因ってのぁなんだ?」
さすがだぬさん、年長者がいると話が脱線してもすぐ戻るなぁ。
「あ、はい。私がイベントを起こしたのが最初です。イベントの始まりは朱莉ちゃんが誰かに付けられてる気がするって言う話で、どうも友人以上の間柄になるとイベントが始まるみたいです。私朱莉ちゃんとよく話してたので。その関係で緑香ちゃんと燦華ちゃんとも知り合いで、ほんと、現実世界忘れるくらい楽しかったんだけどなぁ」
やばい、人生の疲れが見えている。
「おい、ヒロキ、アドバイスしてやったらどうだ?」
「嫌ですよ、そんな嫌な会社なら辞めちゃえばとか無責任に言うの、俺はハナコさんに全て捧げようと思ったから仕事する気なかったし、金は退職金でなんとか、あとは死ぬまでにチューブでそれなりの稼ぎ出せれば、程度の考えだったし」
「それが今や億万長者か」
「お羨ましい」
「ホントお前ら真面目な話する気ねぇだろ? ったく、続き頼むわ」
「は、はい。えっとそれでですね。昨日四人で後を付けてくる誰かっていうのを見つけてなんとか撃破しようって思ったんです。そしたら、別のモノ見つけちゃって」
「別のモノ?」
「はい。男の子でした。真っ赤な傘とレインコートを着た、全身が赤コーデの可愛い男の子です。ちょうど雨が降って来たところで、朱莉ちゃんがどうしたのって声を掛けたら、そのまま倒れて」
あれ? それ、なんか最近聞いたような?
あ。アレだ都市伝説系の本、あれにあったぞ。
「すまんちょっとログアウトする。すぐ戻るから!」
俺は一旦彼らを放置してその場でログアウト。
ベッドとかのログアウト可能地点でのログアウト以外でこの行為を行うと、アバターがゲーム世界に残ったままになる。
それはつまり、操り手のいないアバターがぼーっと突っ立っている状態。
殺そうと思えば楽に殺せるし、身ぐるみ剥いで全裸にしてしまうのも可能。
まぁそこに辿り着く前に全裸にしようとした奴がこのゲームから消し飛ばされるけど。
ともかく、途中ログアウトはかなりの危険が付きまとう行為であり、いくら知り合いだらけの場所とは言えども緊急時以外は絶対にやるべきではない行為だった。
それでも、すぐさまソレを取って来たかったので急いで現実世界に意識を浮上させる。
あったあった。未編集のゲーム録画映像。これをゲームで使えるようにしてっと。再びログイン。
「あ、戻って来た」
「凄いな初めて途中ログイン中のアバター見たけど、虚空見上げながら白目になってたぞ」
「口開いててちょっと怖かったです」
絵面ヤバいなそれ。
「ま、まぁいいや、とりあえずそれは忘れてくれると助かる。それよりこれだよこれ」
と、メニューから外部映像を取り込み皆に見せる。
こういうのができるのがこのゲームの強みだよな。
現実世界じゃできない方法だし。
「これは?」
「お、図書館行ってきたんだヒロキ君」
輝君まで集まってきちゃったよ。
目的の映像の場所で一時停止。
そこには、赤いレインコートに顔が隠された少年の説明が書かれていた。
「まっかっか、さん?」
「ああ。日本の都市伝説、雨の日に現れる系怪異の一つ、まっかっかさんだ」
真っ赤な傘、赤いレインコート、赤い長靴、そして美少年。
雨の日に出没し、目撃しただけで命を奪う、出会ったら即死系の怪異である。
ちなみに、燦華たち残りの三人が無事だったのは、おそらく当時は赤い何かを身に着けてたからだろう。
この怪異、出会っても赤い何かを身に着けていれば死なないらしい。
「あ、そっか、あの時私赤いお守り持ってた!」
「あー、持ってたね。私はランドセル赤かったからかな?」
「じゃあ私は……これかな?」
ワンコさんが持ってたのは赤い手帳だ。ちゃんと三人は赤いものを持っていたようだ。
しかし、朱莉は名前に赤が入ってるのに赤いものを持っていなかったために死んでしまったのだろう。
結局、朱莉を付けてた相手もわからないままだし、どうしたものか。
「とりあえず赤いものを身に着けておけばいいわけか」
「でもそいつ雨の日専用なんだろ?」
「……外、雨降ってるねぇ」
ぞくり。底冷えするような微かな声。
輝君たまにそういうことするよね。
ん? 待て、なんか危機感知に反応が!?




