73.恐怖、天道虫男2
無数の水の柱が立ち上る。
NPCに紛れたプレイヤーたちがなんだなんだと集まり始めた。
折角集まったんならコイツ倒すの手伝えよお前ら。
「あはははは。さーバトルステージで激しく流れる熱い踊りを致しましょう! ディーネちゃん、オンステージ!」
水でマイクを作って歌い出すディーネさん。
その曲って確かこのほのぼのオンラインのバトル側の曲だっけ。
ハナコさんが紹介してたから覚えているよ。なぜかほのぼの側と曲が別れてるんだよなぁ。
俺は好きだよ。どっちの曲も。
「ええい、ふがいないぞ戦闘員共ッ!」
水に押し流され次々と消えていく戦闘員たち。
完全消失のようで、倒された戦闘員達から水浸しになって消えていく。
そして残ったのは天道虫男ただ一人。
敵は一人でこちらは七人、外野は多数。
だから観戦せずに手伝えよお前らっ!?
「あれー、もう終わり?」
「ディーネさんありがと。折角だし集まった皆向けて歌ってあげなよ」
「え、いいのマネージャーさん!?」
「君らしい歌で楽しんできな」
「やたーっ!」
ディーネさんがめちゃくちゃ嬉しそうに野次馬達向けて歌いにいった。
御蔭で人だかりが二つに割れ始める。
ディーネさんの歌を聞く人たちと怪人との対決を見守る野次馬達に。
ああもう、どうあっても手伝う気ゼロだな。もういいよ。
『鬼火っ』
「風絶結界、加速烈風!」
「なんだと!?」
「おお、動きが速くなった!?」
稲荷さんの補助神通力で天道虫男の動きが阻害され、テケテケさんの動きが速くなった。
テケテケさんの速度上げちゃったらもう勝ち確なのに、相手の動きまで阻害しちゃったらもう、負け無しよ?
「があぁ!?」
ついにテケテケさんの一撃が天道虫男の胴を捉えた。
しかし、意外と硬かったようだ。当たったところで止まってしまう。
が、貫通出来ないと分かるや、多段攻撃へとシフトするテケテケさん。
みるまに天道虫男の体力が削られていく。
さらに逃げだそうとしたところに的確に急襲して体勢を崩す鬼火とレーザー銃の一撃。
天道虫男はそれ以上何もさせられることなくHPを削り取られ、胴体泣き別れの刑を受けて爆散した。
あー、本当に正義の味方に倒される前に倒しちゃったし。
「あれ? なんかアイテム残った?」
「怪人を倒すと元になった生物がアイテムとして残るぞ? ソイツを使えば別の人物を改造できるのだ」
あー、ってことはクワガタムシとかも改造のために使える奴か。
拾ったのは天道虫だ。
つまり、自分やテイム済みの誰かを、悪の組織のドクターに改造して貰うことで改造人間になることができるってことらしい。
悪役ムーブしたい奴とか能力を簡単にあげたい奴がやりそうだなぁ。
最初の蜘蛛男がアイテム残さなかったのはプレイヤーや仲間が倒さず正義の味方が倒したから残らなかったのか。
ともかく、アイテムも残ってくれたようでよかったっちゃ良かったかな。天道虫、ゲットだぜ!
「怪人は何処だッ!!」
そして、遅れてやって来るキカンダーさん。
周りを見回すものの、怪人はおらず自称アイドル精霊がゲリラライブやってるだけであった。
「ちーっすキカンダーさん」
「ふむ、君は確かマイネ君の知り合いか」
そういう覚え方なのか。
「ヒロキです。訳あってコイツを保護することになりました。その過程で怪人に襲われたみたいです」
「そいつは……アルセーヌの構成員か」
「見逃してくれません? 代わりにアジトの場所教えますよ」
「なに!?」
驚くキカンダーさんに襲撃計画に付いて話す。
まだ構想段階だけど、キカンダーさん一人がアジトに乗り込むよりは随分と楽できるし、いいのではなかろうか?
「ふむ、確かにそれもありか……分かった。これが私の連絡先だ。準備が整ったら連絡してほしい。共にアルセーヌを打倒しよう」
正義の味方と固い握手を交わし、俺達は別れることになった。
ディーネさんを回収して皆で自宅へと向う。
ディーネさん、凄く満足そうな顔をしてるし、今回は大成功だね。
自宅へと戻ると、ようやく一息。
なんやかんやで結構疲れたな。
夜間もあるんだけど一旦ここでログアウトするのもありか。
『ヒロキ、大丈夫? そろそろ休んだ方がいいわよ?』
「どういうことか、説明、してくれるのだろうな?」
心配するハナコさんと説明を求めて来るスレイリア。
もう名前長いし、スレイさんでいいよね?
「説明って、ハナコさんたちのこと?」
「そうだ。こんな戦力をもっているのならば事前に教えてくれていれば手の打ちようもあったのだぞ、なんならアルセーヌ征圧だって……」
俺は別に自分たちだけで征圧するつもりはないし、あとで皆でレイド戦しようかなって思ってたくらいだしな。
でも説明もろもろはログアウトのあとだな。さすがにちょっと疲れたぜ。




