732.進学小学校の七不思議8
保健室にやってきた。
ふむ。消毒液の臭いがなんとも……
見た感じは普通の保健室だな。入り口の向かいに保健の先生用の机があって、入り口の左側に薬品棚、その奥に三つ分のベッド。白いカーテンで今はどのベッドも隠されてる、このどれかに子供がいるのかな?
俺たち全員が部屋に入り切った時だった。
音を立ててドアが閉まる。
いつの間に自動ドアになったんだ?
「ヒィィィ!? 何もしてねぇのに閉まったァ!?」
「ヒャァッハァ、ポルターガイストじゃァねぇかよォ!!」
相変わらず下っ端ども五月蠅いな。
このうちの一人が中身女性だってのが想定外すぎるよ。なんであんたモヒカンヘッドやってんだ?
「ってかお前ら、誰でもいいからそろそろブキミ止めろよ!? オレの頭どんだけ引っこ抜くんだよ!」
『とても楽しい』
楽しそうなのでそのままストレス発散付き合ってあげてくれマイノグーラさん。
「んー? どこにおるんや?」
「幽霊が居るのはほぼ確定だろうけど……」
『アカズ、準備だけはお願いね』
「ええ、ハナコお姉様」
『む? ハナコお姉ちゃんの妹は私だけのはず……』
「ああ、安心しなよブキミちゃん、アカズさんのはアレ、ソウルメイトみたいなお姉様だから」
俺の言葉に小首をこてんと傾げるブキミちゃん。
しかしすぐに、本当の妹というわけじゃないなら、いいか、と再びマイノグーラさんの首を引っこ抜く作業に没頭し始めた。
楽しそうで何よりです。
「ヒロキさん、ブキミちゃんがマイノグーラさんの首引っこ抜くのみてほっこりしてる……」
「あの人ハナコさん絡むとだいぶおかしくなるから……」
しかし、それにしても子供の霊とやらが見当たらないな。
保健室内にある怪しい場所といえば、人体模型か。でもこいつは旧校舎ですでに七不思議になってたからな。
やっぱりカーテンで隠された三つのベッド側か。面倒だけどそちらを調べるしかないか。
「でもなぁ、あれ、カーテン開いたら絶対何かあるだろ」
「下手したらそのまま死亡とかなってもおかしくないですよね」
「はいはい、んじゃー私が開くわねー」
あっと、止めるより早くテケテケさんが両手を使ってカーテン前に向かい、ズシャっとカーテンを開く。
次の瞬間、ベッドの真下からものすごい速度で足を引っ張ろうとした何かがテケテケさんの足を掴み損ねて空を切る。うん。足、ないからね。
気に入らないようで、長い髪のそいつはテケテケさんの真下をすかっすかっと何度も両手で掴もうとする。
「あら、ごめんなさいねぇ、お姉さん、下半身無くしちゃったのよ。だから、ねぇ……貴女の下半身、いらないなら頂戴な」
テケテケVS保健室の怪。なんだこのB級ホラー感は?
なぁんてことは始まるまでもなく、首根っこひっつかまれた小さな子供がベッドの下から引っ張り出される。
ほい、と差し出されたその子をマイノグーラさんが受け取りぷらんぷらんさせながら俺たちの前に連れてくる。
母ネコに咥えられて移動してる子猫かな?
しかもマイノグーラさん、未だに首引っこ抜かれてるし。
なんだこのシュールな光景?
「見てるかダイスケ? これがヒロキさんの日常なんだぜ?」
「見てるだけで俺の正気度が音を立てて粉砕されちまってるぜ。こんな日常は嫌だ」
「本人前にして良く言えるなオイ。んで、これが保健室の怪?」
「やだ……見ないで……はずかしい」
長髪で顔が隠れた少女が揺れている。
服は白いワンピースだろうか? かなりぼろぼろで裾は千切れているし、穴は空いてるし、袖はノースリブかってくらい無くなっている。
「多分だけど、あのまま足掴まれてたらベッド下に引き込まれて即死してたんじゃないかな、って思います」
ヒナギさんの言葉に確かに、とは思う。
多分怪異特性的にそんな感じの怪異なんだろう。
しかしこれ、保健室の個室空間っぽいし、おっちゃんよりアカズさんの強化になりそうな気がするんだけど。
まぁいいか。
「とりあえず俺らは体験終わればすぐ帰るんだけど、ドア、開いてくれないかな?」
「やだ……あそぼ……あそぼ? あそぼ、あそぼあそぼあそぼあそぼあそぼあは、あはは、あはははははははははは」
ダメだこれ、会話になってない。
仕方ないちょっとお灸を据えましょう。
「アカズさん、おなしゃっす」
「はいはい……」
アカズさんが能力を使った。
その瞬間、保健室の怪は明らかにびくんっと硬直し、焦りはじめる。
こんな状況は初めてなのだろう。
ここは保健室、自分の空間のはずなのだから。
しかし、そこは個室空間でもあった。
扉も全て閉じられた、出るに出られぬ開かずの間。
「あ……あぁ……」
どろり、周囲の景色が溶け始める。
徐々に保健室は外側から侵食さえ、赤く、血まみれの室内へと変わっていく。
「さぁ、保健室の子供さん、おトモダチに、なりましょうよ」
にぃ、と開かずの間を統べし者が笑みを浮かべた。




