730.進学小学校の七不思議6
呪いのリカちゃん人形は散った。
味方に成ろうとしてくれていたのにマイノグーラさんがやりやがった。
俺たちはあまりに哀れだった彼女に黙祷を捧げる。
いつの間にか、音楽室には鎮魂歌が流れていた。
額縁内にいた音楽家の一人がピアノ迄出張って弾いてくれたようだ。
でもさ、これベートーヴェンの目が光だけじゃなく音楽家の絵が全部出てくる、の方が七不思議になるんじゃないの? まぁいいけどさ。
音楽室でも用事を済ませた俺たちは、気を取り直して校長室へと向かう。
ブキミちゃんが何とも言えない顔でマイノグーラさん見てるのは、おそらく少し前に自分は普通に味方に成ってたから味方に成れなかった呪いのリカちゃん人形に対して何かしら思うことが……
『マイノグーラさん美人。首引っこ抜きたい』
理由全く違った。
「お、いいぞ、引っこ抜いてみろ」
『そいっ』
ふよふよとマイノグーラさんに近寄ったブキミちゃん。マイノグーラさんの顔をがしっと両手で掴み、思い切り引っこ抜く。
迷い、まったくなかったな。
「おいおい。少しは迷えや!?」
首だけになったマイノグーラさんが呆れる。
すぐに首部分がどろりと影に変化して溶け落ちる。
そして首のない体だったマイノグーラさんから首が生えてきた。
「どうよ、俺らくらいになると首刎ねられたくらいじゃ死なんのよ」
『そいっ』
「おいおい、もっかいかぁ?」
しょうがない奴だなぁ、と言いながら再び首を生やすマイノグーラさん。
するとすぐに『そいっ』とブキミちゃんが楽し気に首を引っこ抜く。
「おいおい。何回やるきだよ? まぁダメージねぇからいいけどよ」
それからしばし、歩きながら首を引っこ抜かれるマイノグーラさんと、首が生えるのを待ちながら恍惚の表情でこれを引っこ抜くブキミちゃんの姿がすぐ隣で見られた。
これ、軽くトラウマになる奴じゃね? ヒナギさんとか露骨に前歩き出してこっち見ないようにしてるし。
一般プレイヤーには見せられない奴だなぁ。
「そろそろ校長室ね」
「そういや人面犬の強化ってどの七不思議になるんだ?」
「えーっと、なんだっけ人面犬さん?」
「輝やんに聞いたやろ。保健室の子供や。理由はわからんけど」
ってことは三個目の奴か。
えっと輝君の話だとハナコさんは体育館だろ、アカズさんはモナ・リザ、テケテケさんが教室の奴だっけ。
となると、校長室とプールが他の怪異の強化になるのか。多分校長室が輝君だな。となると残るのは……そういや七つ目の七不思議もハナコさん担当だったよな。ってことは、どうなんの?
ハナコさんだけ毎回二回強化するはずだった、とか?
いや、だったら輝君に聞いた時に教えてくれてるはずだし。
こ、これが、普通小学校の七不思議!?
プールの怪で強化される相手がいないという不思議なのだね!
「多分だけどさヒロちゃん。おねーさんが思うにプールの怪はワイルドカードになるんじゃない? 他の怪異がクリアできなかった場合ここをクリアしたら同等の能力貰える、みたいなやつ」
ああ、なるほど、普通小学校だけそういう扱いになるのか。
俺はまた実は七不思議目が隠されてた、何て可能性考えて……あれ? 皆どうした?
「その可能性、ありそうですね」
あれ、タツキ君めちゃくちゃ考え込み始めた?
「言われてみればハナコさんが二つ掛け持ちしてるのっておかしいよね?」
「例えば、全ての七不思議体験した後普通小学校戻ったら最後の七不思議出てくる、みたいな?」
「あはは、ありそう!」
やめて。それマジだったら運営さんがまた憤死しちゃう。
お前にクリアして貰うために必死に考えたんじゃないんだよっ! とか逆切れされちゃう。
ただでさえかなりのイベント潰してきてるのに。
「着いたわよヒロキ。というか、いつまで握ってるのよ!」
「そういやアカズさんと繋ぎっぱなしだったなぁ。手、放す?」
「……さっさと行くわよ」
否定も何もないし、握ったままでいいのか?
逆の手が空いてるし、ハナコさん、どう? 恋人繋ぎ、しませ……おいぃ!? 何で握った、何で握ったモヒカンヘッドォォォ!!
「あぁん? こうしたかったんじゃねーのか?」
「テメェじゃねぇよ!? ハナコさんだっつってんだろォがよ!!」
「照れるなよ、野郎どうしじゃねぇか」
だからなんだよ!?
『はいはい、遊んでないでドア開こう』
両手塞がってるので空けられません。アカズさん開けたげて。
「私開かずの扉なのに……」
文字に直すと開かずの扉が開く扉。まさにシュール。
扉を開くと、中から声が聞こえてくる。
おい、誰だ馬鹿笑いしてる奴。
まぁ校長の肖像画しかないけどさ。
『おや、お客人かね』
『ほっほっほ、よう来なさった。なぁんもないが、ゆっくりしてっておくれ』
めっちゃ好々爺の校長たちが出迎えて来た。
ま、まぁ七不思議だから全部こっち取り殺す気で来るわけじゃないからいいんだけどさ。




